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未来と流歌 1 〜近くて遠いもの〜

 8年前、まだ小学2年生だった私は毎日遅くまで歌とダンスの練習をしている姉さんを応援していた。私にはよくわかっていなかったけれど、それでも大会に向けて頑張る姉さんの姿はとてもかっこよくて、私が憧れるのは当たり前のことだった。


 「流歌。私のステージ……よく見ててね?」


 「うん!!姉さんのステージ楽しみにしてる!!」


 この頃の姉さんは、忙しそうにしていても私のことを気にかけてくれる優しい姉さんだった。それは、今でも変わらないか。


 そして、姉さんが出場するスクールアイドルプラネット当日。お母さんに連れられて向かった会場で、なぜか私だけ姉さんに呼ばれた。



 「……流歌」


 私を呼ぶ声は、いつもからは想像できないくらいに弱々しくて、明らかに異常が起きていることがまだ小さい私でも理解できた。


 「ね、姉さん大丈夫!?」


 「流歌!!私は大丈夫だから」


 そう強がっていても、私に触れるその手はおかしいくらいの熱を帯びていて、とてもじゃないけどこんな姉さんをステージに立たせるわけにはいかなかった。でも、姉さんの意思は固い。


 「流歌、私のことは誰にも言わないでね。心配してくれてるのはすごく嬉しいけど、私はここに全てをかけてるの。来年じゃだめなの。今回、第1回で優勝してこの世界に私とスクールアイドルの存在を知らしめなきゃいけないの」


 そう私に話す姉さんの、優しくも凄まじいプレッシャーに私が止めることなんてできるはずもなかった。

 そして、姉さんの出番が近づきステージへと向かう姉さん。その足取りは少しふらついていた。

 どうすることもできなかった私。泣きそうな顔になりながらも観覧席に戻ろうとする。

 そんな私に声をかけてくれる人がいた。


 「……流歌ちゃん?」


 「花凛ちゃん!」


 「どしたどした?そんな泣きそうな顔して」


 「姉さんが、姉さんが……」


 「とりあえず落ち着いて?観覧席まで一緒に行くからゆっくりでいいからどうしたのか教えて?」


 優しくついて来てくれるのは姉さんの親友の月原花凛ちゃん。私にもいつも話しかけてくれるとても優しい人。でも、姉さんの言葉の迫力に気圧されてしまっていた私は、花凛ちゃんにも打ち明けることはできなかった。


 そして始まる、姉さんのパフォーマンス。それは、圧倒的の一言に尽きた。言葉に表せない、何より体調が悪いだなんて微塵も思わせないその姿に、尊敬と憧れと共に少しの恐怖を抱いた。  結果はもちろん優勝。この大会にしっかりと姉さんは名前を刻んだ。それなのに……


 「ん?私はアイドルの道には進まないよ?私がなりたかったのはあくまでスクールアイドルだから」


 これまでの活躍が嘘だったかのように高校卒業と共にきっぱりとアイドルを辞めた姉さん。その顔には一切の後悔とかはなく、清々しそうだった。

 そんな姉さんを隣で見て来た私。スクールアイドルが嫌いなわけがない。だからこそ、姉さんが通っていた学校に進学した。でも、姉さんのことを知る人は減っていて既に学校にスクールアイドルクラブもなく……というより元から存在してなくて。改めて姉さんの凄さなら驚きとまた少しの恐怖を感じた。

 それでも姉さんのことを見た人達からアイドルに誘われることも多かった。最初は嬉しかったんだ。私のことを誘ってくれるのが。

 だけど、何も知らない人たちが姉さんのことを天才とか才能が、とかそんな陳腐な言葉で語って妹だもんね?みたいなことを言われるたびに私の心は傷ついていった。そして、ある時ついに私は我慢の限界に達して言い返してしまった。それからは私に近づいてくる人はいなくなった。

 これでよかったんだ。私が憧れて尊敬した姉さんの姿を想いを守れるのなら。そう思ってたのに、後輩はそんな私の心にまた踏み込んでくる。やめてほしかった。だからこそ強い言葉で拒絶した。これでいい、これでいいんだ。あなた達は、ただ綺麗な姉さんの姿だけ覚えてろ。



 「流歌?」


 「ね、姉さん?」


 「ぼーっとしてどうしたの?疲れてる?」


 久しぶりに姉さんと会ったこと、そして後輩のこと。色々なことが重なった結果私はぼーっとして昔の記憶に浸っていたみたいだ。


 「大丈夫だよ、ちょっと昔のことを思い出してただけ」


 「そっか。ねぇ、流歌」


 「ん?」


 「ちょっとお話しようか」

読んでいただきありがとうございます!


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