先輩の正体
屋上から去った彼女は、職員室に向かっていた。
「月原先生」
「んー?流歌?どうかしたの?」
「屋上の鍵を返しに来ました」
「あ、そう?今日はもういいの?」
「はい、というかもうあそこに行くことはありません」
「……どうして?」
「最近はいないと思っていたのに、また私にアイドルを薦めてくる人が出てきたので」
「……あぁ、その子って青っぽい髪のショートボブの子じゃない?」
「そ、そうですけどなんで月原先生が知ってるんですか?」
「だってその子、私が担任してる子だし?」
「なっ……じゃあ先生からも私に関わらないように言ってくださいよ」
「うーん……それはいいんだけど、私が言ったくらいであの子は諦めないと思うよ?それに、あの子はそもそも流歌のことは知らないと思うし」
「それって?」
「あの子は第1回スクールアイドルプラネットを見て、当時の未来のパフォーマンスに憧れてこの学校に入るために努力してきたみたいだから、でも一点集中してたんだろうね?この学校にスクールアイドルが今存在していないことすら把握してなかったから」
「そうなんですね……だとしたらなんで私に」
「それは、本人に聞かないとわからないよ?まぁ、どうするか決めるのは流歌自身だけど、私はあの子の中に未来と同じ輝きを見た。だから、完全に拒絶しなくてもいいんじゃないかな?」
「……わかりました。でも、屋上はしばらくは使わないでおきます。最近なんだか恥ずかしい噂も立ってるみたいですから」
「わかったわ」
「それでは、失礼します」
そうして職員室を後にしていく彼女の背中を見ながら、光莉の担任である月原 花凛は1人呟く。
「大丈夫、貴女は未来とは違うし、天星さんは貴女の表面しか見ないような軽い子じゃないよ」
屋上に1人残された私は、先輩と同じように空を見上げる。
そこに広がっているのは、今の私を包むかのように雲一つない青空。それでいて、太陽の日差しは強すぎず心地よかった。
私の心は少し落ち込んでいるけど、絶対に一緒にやりたい相手は見つけられた。ただ、知らないうちに緊張していたみたい。一気に体の力が抜けてしまったので私はその場に寝転ぶ。
しばらくそのままでいると、屋上の扉が開く。もしかして先輩が戻ってきてくれたのかな?なんて期待で扉の方を見ると、そこにいたのは先生だった。
「天星さん、流歌を誘ったんだって?」
「先生……流歌、さんってここで歌われてる先輩のことですか?」
「そうそう、って名前すら知らなかったのね?」
「そうですね……でも私、流歌先輩の歌声を聞いて絶対に一緒にやりたい!!って思ったら止まらなくって」
「天星さんらしいね」
「でも私、流歌先輩を怒らせてしまったみたいだから……」
「んー、それは少し違うかな」
「え?」
いつの間にか私の隣まで近づいていた先生は、流歌さんのことについて教えてくれた。
「流歌は……アイドルのことが嫌いなわけじゃないの」
「そうなんですか?」
「えぇ、だけどあの子にはこの学校でいつもついて回るワードがあったの。今はもうみんな言ってないけどね?」
「それって?」
「伝説の妹」
「伝説の……妹?」
「そう、流歌の苗字は天堂。ここまで言えばどういうことか天星さんもわかるんじゃない?」
そこまで教えてもらって、私は心を包まれた理由もあんなに悲しげな顔をしていたのかも理解した。
「流歌先輩は、未来さんの妹さんなんですね」
「そういうこと。しかも、1年生の頃は未来の妹だってだけの理由でアイドルに誘ってくる子が多くて、流歌自身を見てくれない周りに対して彼女はスクールアイドルっていうものに対して忌避感を抱くようになってしまったの」
「そういうことだったんですね。でも、それでも私は未来さんの妹だからとかじゃなくて、流歌さんと一緒に頂点を目指したいと思ったんです!!だから私は、諦めません!!」
そう月原先生に宣言する。先生はにこやかに、
「むしろ私からもお願いする。流歌を伝説の妹という呪縛から解き放ってあげて?」
と言ってくれた。さぁ、どうすればいいのか全くわからないけれどやれることは全部やっていこう!
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