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56.敗走 ★

 


 ――スグレンストを殺すのは簡単だ。


 だが、こいつを殺したところで僕とリアナにはメリットは少ない。

 むしろ、デメリットの方が多い。


 人を殺す事にはかなりの精神負荷がかかる。おそらくコイツが死ぬことによって、リアナが抱えるそれはかなりの負担となるだろう。


 例え、僕がトドメを刺したとしても彼女は心に負の情を宿してしまうと思う......彼女は優しい、スグレンストを殺せば多分それを抱えてしまう。


 けど、リアナにそれを抱えさせるのは、僕は嫌だ。


 そして次に、スグレンストはダイダニズの人間だ。執事の彼が言っていたように貴族であるスグレンストを下手に殺してしまえば、面倒な事になる。


 僕はともかくリアナも奴隷......ただでさえ普通に生きていくのが難しいのに、貴族に睨まれてしまうのは避けたい。


 だからこれがベスト。


 スグレンストにトラウマを植え付け、二度と逆らえないように......僕らの前に現れないようにする事が。



「スグレンスト、よく聞いて」


 壊れた肩、手が治り呆然と眺めていたスグレンストは、僕が声をかけると体がビクッと跳ねた。


「......は、はは、はい」


 混乱しているのか敬語だった。違和感しかないな。


「僕とリアナ......この少女に今後関わらないと誓って。 じゃないとホントに君を殺さなければならない」


「......ひっ、あ......や、やだ......わかりました、すみません、すみません......許してください」


 彼の瞳は恐れに染まり、ボロボロとまた涙を流し始めた。

 これだけ恐怖を刻み込めれば......もう関わろうとしてこないだろう。


「うん......さっきも言った通り、次は無い」


 無言で何度も何度もスグレンストは頷く。


「よし。 わかったなら、そこの執事を連れて帰って良いよ。 彼も殺していないから」


 執事を無傷で倒すのは骨が折れたけど、彼も下手に攻撃して恨まれるのは避けたかったからな。

 できるだけリアナが今後生きていくのに不利になるモノは残したくないし。


「ずみばぜん、ずみばぜん......ごめんなさい、もう関わりまぜんごめんなさい」


「うん」



 スグレンストは執事を抱え、逃げるように走り去っていく。


 かつての仲間だった彼のこんな姿は見たくなかったけど、仕方ない。

 ......でも、あんな目で見られるのはちょっとキツいな。



 僕は......確かにもう人の枠組みから外れているのかもしれないけど。

 化物ではない、はずだ。


 まだ、人でありたいと思う。



 半魔の彼女も......こんな気持ちだったのかな。







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