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3.追放 ②



「誰でも......そんな」


「ん? ああ。 今思えば誰でもは良くなかったか......お前のような使えない奴をつかまされるのは二度とゴメンだからな。 今度はしっかりとした上級でまともな白魔導師を選ぶとするよ。 いまやAランクパーティーの俺達なら、冒険者ギルドの高額募集から選びたい放題だしな」


 ははっ、とロキは嗤う。他のパーティーの面々を一巡すると、戦士スグレンストも双剣士ヒメノも、ロキと同じようにニヤニヤと嘲笑っていた。


 黒魔導師フェイルはもうこの話題に興味がないのか、どこか明後日をみていた。


 僕は、このままだと本当に追放される。それどころか、おそらくこのタイミングでそれを言った事を考えると......置いていかれる。

凶悪な、地獄のような魔物達が蔓延る、まだ誰も攻略した事の無いこのダンジョン、【ユグドラシルの迷宮】に。



 ......やっぱり、ロキはテレポストーンが惜しいんだ。僕の分の魔石が。

 いや、それと......。


 ――僕の捨て場所が見つかった?そんな救いのない答えが脳裏を過る度に気が狂いそうになり、頭を振りそれを追いやる――


 だ、ダメだ......ここに置いていかれるのは死ぬと同義だ。なんとか僕もダンジョンの外へと連れていってもらわなければ。



 ......死にたくない、僕はまだ死にたくない、死ぬのは怖い!



「ロキ......これからは心をいれかえて頑張るから。 お、お願いします、僕をここに置いていかないで......! 何か、何でも良いからチャンスをください」


 突然の仲間の裏切りと、死が現実味を帯びてきたことにより声と脚が震えている。


「......そうだな、うん。 確かにこれで置いていかれたらたまったものではないか......わかった。 じゃあ、一度だけチャンスをあげるよ、レイ」



「......チャンス」



 チャンス......? そうだ、これは嘘だ。試されているんだ、僕の覚悟を......さっきロキが言っていた事に嘘はない。


 このままでは僕はヒーラーとして力不足......悔しいけれど、それは本当だ。


「わ、わかった......やる。 頑張るよ」


「おいおいおい!? ふざけんなよ、ロキ!?」


「......え、マジで?」


「......ッ」


 ロキのチャンスを与えるという一言に、パーティーメンバーは不満そうに反応した。


 確かに僕の力不足で迷惑をかけたけど......これは、心が折れそうだ。でも、そうだ、ずっと皆は思っていたんだ。


『魔力の足りない、無能ヒーラー』と。


 けれど他にどうしようもない。自分の価値を、まだ使えると言うことを示さなければここに置いていかれて死ぬだけ。


 こんな所に残されて、死ぬのは嫌だ。怖い......怖い、嫌だ、絶対に嫌だ。

 まだ、まだ死にたくない、嫌だ。


 恐怖心に押し潰されそうになりながら、ロキによるチャンスを待っていると、彼は懐からダガーナイフを出した。


 あれは、僕がロキの誕生日にプレゼントした白聖石から作られた純白の刃のダガー。


 その刃先を僕に向け、こう言った。


「さて、それじゃあ、この傷を治してごらん」


「え?」


 ――ズブッ


 見ると、僕の腹部に彼のダガーが刺さっていた。



「な、え......がはっ、がっ......はっ!?」



 刺された部分がじわじわと赤に染まり、その激痛が傷の深さを知らせてくる。


「ほらほら、早く治さないと死んじゃうよ?」


「わひゃひゃひゃひゃ!!! やべえ、なんだこれ!!!」


「ひっど! ロキ、マジでひでえー」


「......ッ!」


 痛い!!!痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!!


 い、息が......呼吸も、できな――ッ


 し、しし、死ぬ――ッッッ!!!!


 痛すぎて痛い以外頭の中に何もない。呼吸困難になりながら、口に溜まる血液を吐き出した。


「ぐぶっ、がっ、は......」


 ナイフを抜かねば傷を治せない。それを本能的に理解しているようで、おぼろげな意識の中、僕の手は深々と刺さるナイフを抜いた。


「いぐっ、あっ、ああああああーーーっ!!!」


 刺された場所が急所だったのだろう、ナイフを引き抜くと、おびただしい量の出血が辺りを染めていく。


「――ひ、ひ、ヒールッッ!!!」


「おっ」


 微かな光の粒が赤く染まった腹部へ収束する。数秒の後、その傷口は跡形もなく消えた。


「完治か......傷の痕すらねえ。 相変わらず、ヒールスピードと性能だけはすげえな」


「はあ、はあ......うっ、はあはあ」


 全身にのしかかる疲労感。魔力の枯渇により、全身が鉛にでもなったかのように重く苦しい。


 ......けど、ここでいつものように倒れるわけにはいかない。


 せめて、少なくとも足を引っ張らないという事を証明しなければ。


 踏ん張り、よろよろと立ち上がった。


「おお、すごいな......いつもなら疲労でぶっ倒れるのにな、ははっ」


「こ、これで――ぐふっ!?」


 言葉の全てを吐ききる前に、ロキに腹部を蹴り抜かれた。


 蹴りの威力は凄まじく、後ろの壁へと激突する。


「......が、は」


「けど、君は連れていかない。 君にはこのテレポートストーンをつかうだけの価値はないからね。 あと君を捨てるタイミングに丁度いいしさ」


 まさか、ヒールで魔力が枯渇し、動けなくなったところを狙って......。



 地べたに這いつくばる僕を他所に、仲間達にテレポートストーンが配られていく。


「さて、お別れだな......レイ。 そのナイフはやるよ、武器くらいないとここでの生活、怖いだろう?」


「ぐはははっ!! それさえありゃあ、生き延びられるなあ? 良かったな、レイ!」


「いや、生活て......フツーに死ねるじゃんよ」


「......」


 ひとしきり皆が僕を笑い、気が済むとそのテレポートストーンへ魔力を流し込みだす。


 橙の光がそれぞれを包み込み、瞬く間に霧散した。魔石に込められたテレポートの魔法が発動し、彼らは地上へと消えた。



 そして、僕は一人SSSランクダンジョン、ユグドラシルの迷宮へと置き去りにされたのだった。




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