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44.兆し

 


 あれから、僕とリアナは山道をくだり、王都へと向かい歩みを進めていた。


 長い時間歩き、やがて日も暮れ始める。今日は野営かなと思い始めた頃、僕はそれを視界のはしに捉えた。


「リアナ、あれ」


「あ、はい......あれは、お家?」


「庭の荒れようから空き家じゃないかな? 行ってみよう。 誰も住んでなければ今日はあそこで夜をあかそうか」


「はい!」


 たどり着いた家はやはり空き家だった。村から外れたこの場所に一軒ぽつんと......こんなところに住んでいて、魔物に襲われたりしなかったんだろうか?



 しかし、その答えは近づいた時に知ることとなった。



「......これって、塀に彫られているのは......魔除けの文字ですよね」



 刻まれたのが古いせいか、土がこびりついていたり草に覆われている。しかし、確かにその効果は発揮されているようだ。



「そうだね。 これなら一定のレベルまでだが、魔物に襲われる事もない」


 ここに住んでいた人は魔術師だったのかな。まあ、なにはともあれこれで屋根のある場所で一晩やり過ごせる。良かった。


 ......リアナ、疲れているだろうな。僕と出会ってからずっとまともに眠れてないだろうし、大丈夫かな?


 寝てる間に僕のオーラを契約印を通して流しておこう。少しは疲労が解消されるはずだ。


「入ろうか」


「......は、はい」


 家の扉には鍵はかかっていない、そのままお邪魔することにした。そして、玄関を通りリビングへ。

 ......家具が一つもないな。床も壁も比較的綺麗に掃除されている。


 あれ、これって......。




「......これ、もしかして売り家かな」


「えっと......ど、どうでしょう?」



 うーん、けどなあ。リアナをここからまた外で寝かすのも心苦しい。村ではそれほどちゃんと寝かせてあげられてないし、これ以上疲れた体に鞭をいれる真似は......。


 それにしっかりと眠らないとどんどんと疲労が蓄積され、何かの拍子に集中力を欠いて命を落としてしまうかもしれない。寝不足は危険だ。



「よし、リアナ」


「は、はい!」


「今日はもうここに泊まっちゃおう」


「......あ、え? で、でも......」


「大丈夫、また掃除して出ればさ。 許してくれるよ、多分......きっと! おそらくね!」


「......は、はい。 わかり、ました」


 魔石の入ったランタン。それに明かりを灯し、二人で囲む。


「リアナ、眠くなったら寝て良いからね」


「......あ......はい」


 あ......?いま、「あ」って言ったか。ここ最近は何をするにしてもずっとリアナと二人だったからな。


 この子の事が少しずつわかってきた......気がする。口数が少なくあんまり癖という癖がないからわかりづらくはあるけど、いまの「あ」は「何か言いたい事があるけど、言えない時」の「あ」だ。


「リアナ、どうかしたの?」


「......あ、え......いえ」


「村の事? それとも、その前? 旅が疲れたとかかな? だったら明日はここで休憩しようか」


「......ち、ちがうんです」



 リアナはぎゅっと、スカートを握りしめゆっくりと言葉を紡いだ。



「......村の、事も......死んでしまった......仲間の事も......わ、私は人が襲われているのに、何もできなくて......だから」


 彼女の目......そうか、これは。


「悔しいのか、リアナ」



 頷くリアナは、ポロポロと涙をこぼした。



「......魔法だって、武器の訓練だってしてきたのに......魔族を目の前にした、とたん......足が震えて、隣にいた友達が殺されても......村の人が襲われかけても、怖くて......レイ様が戦うのを見ていただけでした......」


 訓練をいくら重ねても、実戦を経験しなければ理解できない命のやりとり。


 もし一つ間違えればそこには死が待っている......怖くて当たり前だ。


 それが普通で当たり前。けれど......


「リアナは、自分が弱いのが許せないんだね」


「......なにも、出来ないのは......嫌です」


 リアナには特別なモノが備わっている。


 多分、この子......異常な程の負けず嫌いなんだろう。目で分かる。

 努力家で、負けず嫌い。


 そして、優しい。


「わかった」


「......え......?」


「じゃあ、僕が戦いかたを教えるよ」


「で、でも、わたし......足が震えて」


「最初は皆そうだよ。 僕だって初めての実戦では何もできなかった。 けれど、そうして多くの実戦を経験してゆくなかで、少しずつだけれど......思ったように動けるようになるんだ」


「......そうなんですか......」


「うん、命のやりとりなんだ......死ぬかもしれない実戦ってのは誰だって怖い。 だから恐怖で動けなくて当然なんだよ。 でも、大丈夫」


 僕はリアナの頭を優しく撫でた。


「リアナは強くなる。 強い想いがあるからね」


 目を丸くしてこちらをみていたリアナは、やがてゆっくり頷きこう言った。


「......が、頑張ります。 よろしくお願いします」


「うん、頑張ろう」


 その日初めて彼女が笑ったような気がした。



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