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1、連続放火事件

めらめらと燃え上がる炎が、瞳に写し出されていた。原始の記憶か、背徳か、それとも復讐なのか判らないが、燃え上がる炎とともに脳内ドーパミンが噴出され異様な高揚感に包まれた。



南能消防団本部


「また、放火があったんだってぇ」

僕、南野 哲哉は、南能市消防団本部の駐車場に屯する団員たちに尋ねた。

「ああ、今度で3件目だ」

「幸いなことに、ボヤで済んだみたいだな」

「ああ、そうらしい」

「みんな、整列してくれ」

野見山 芳樹団長が皆に整列を促した。

「5名か、今日欠席の者にはメールで知らせておく。知っての通り、今、南能市で放火が多発している。警察、消防署からも協力要請があった。もちろん、協力は惜しまないと言っておいたから。各自、大変だろうが協力をお願いする。

そこで、11時から2時の巡回警戒を皆に頼みたい。各班を中心に予定表を作ってみた」

各自にプリントされた用紙が渡された。



南能警察署 4月2日、会議室


 「また、放火があった。3件目だぞ~」

ボードに貼られた地図に、3件目のマークが付けられた。

「目撃情報はどうなっている。もう3件目だぞう。有力情報が出て来ても、良さそうと思うがな」

捜査会議を主導しているのは、遠藤課長だ。署長、管理官と居並ぶ幹部連中はシブい顔をしている。

何分(なにぶん)、事件発生が12時から1時の深夜帯でして、殆どの人が寝入っている時間帯です。

目撃情報は、殆どと言って無い状態です」

鈴木が答えた。

「監視カメラはどうなっている」

「現在分析を急いでおります」

岩瀬係長が答えた。

「放火現場の朝日地区だけでなく、もっと範囲を広げて、そして前の(あけぼの)地区案件のものとも照らし合わせて、重なる車を見つけるんだ。犯人は、車を使っているに違いないからな」

「はい」

「鑑識は・・・・・」



MBSテレビ南能支局


 「朝のニュース枠に、放火事件入れます~」

「了解しました~」



南能市山添地区の教会


 シスター葵は朝のお祈りを済ますと、違和感を感じ何気に外を見た。

『黒っぽい、ボロが落ちている』いつの間にか、あんなゴミが・・・・・。

外に出てみた。良く見ると、ゴミだと思ったのは人だった。人間が倒れていたのだ。

「もし、どうなされました」

「うう・・・・・」

揺さぶると、反応があった。『生きている』仰向けに転がすと、ひげ面に蓬髪の青白い顔が現れた。意外と若い。



3月20日、南野 哲哉


 僕は、猪瀬川河畔公園に来た。久しぶりの休日、気分転換だ。ここのところ仕事が立て込んで忙しかった。

「タマ~、待ってぇ~。待ちなさい~」

遠くで叫び声がした。声の方角から、犬がリードを引きずって走って来る。チワワだった。

僕の脇を走り抜ける時に、僕はリードを踏んづけた。


「ありがとうございます」

タマを追っていた女性が、ようやく追いついた。はあはあ、ぜいぜい言っている。喘ぐ女性って、意外と色っぽい。

「向こうの角で、いきなりイノシシと出くわしたの。それで、驚いたのでしょう」

「へぇ~、イノシシと。そりゃ~驚くでしょう。僕だって驚きますよ」

「そうですよね。だけど、犬だったら、かなわぬまでも私を守って欲しかったな~」

「無茶ですよ~、あははは、だけど僕だったらあなたを守ってあげますよ~」

「うふ、ホントですか~」

僕とチワワを抱いた彼女とは、しばらく同じ道を歩いた。



南能消防団 3月23日


「また、ボヤがあったんだってぇ」

沢田さんが居たので、聞いてみた。

「ああ、放火らしい。発見が早かったから、ボヤで済んだみたいだね」

「まったく、春先はおかしな奴等が出て来るからなぁ~」

「なあ、伝達が終わったら山姥(やまんば)に行ってみないか」

「何です、その山姥とは」

「バーだよ。山姥バー。行けば解る」



山姥バー


それは、北山地区にひっそりとあった。今時、珍しい茅葺(かやぶき)屋根の家だ。元農家の家を利用したらしい。地味で目立たない『山姥』の行灯(あんどん)があった。

引き戸を開けると「いらっしゃい~」と若やいだ声がして「ぎょっ!」とした。

薄暗い室内にベートーヴェンみたいな髪型のピンクの髪、黒い顔、異様に長いまつ毛、白いアイシャドウ、白い唇、婆さんじゃなく山姥ギャルだった。

絶滅危惧種だ。最近見ないと思ったら、こんなところで生息してたんだ。

「こちらでいいですか。どうぞ~」

案内されたテーブル席は、粗末な木のイス4脚と木目の浮いた骨董品みたいな少し低めの木の机。普通のバーとは趣が少し違っている。

「飲み物は何にしますぅ~」

「俺、ビール」

「俺も」

山姥ギャルはカウンターに注文を伝えた。

「は~い」

カウンターの内に居たのは、白い髪、灰色の着物を着た本物の婆さんだった。

山姥ギャルはやけにひらひらとフリルの付いた、ネグリジェかなと思わせる白っぽいワンピースを着ていた。膝から下の白い生足が、妙になまめかしい。

「仕事の帰り・・・・・、何してんの、そうエライね、家は、家族は、車は・・・・・」

山姥ギャルは意外とフレンドリーで、聞き上手だった。

「チワワの美女が、気になって気になって仕方がない」

僕は、『あれ⁉』と思うことまで話していた。

・・・・・と、突然「予言します」と、山姥ギャルは姿勢を正し右手を上げた。

「3月25日、午後3時、猪瀬川河畔公園に行けば、南野さんはチワワの美女に会えるでしょう」

山姥ギャルは、(おごそ)かに宣言した。

「へぇ~、君は予言者か~、神通力があるんだ~」

「えへん」



3月25日、予言は的中した。

僕は、山口 晴菜さんの電話番号とメルアドをゲットした。


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