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9.パーティーは驚きに満ちて

「アンジェラ、お前に招待状が来ているんだが……」


 そう戸惑いがちにつぶやくお父様は、いつか見た公爵家の紋章が入った封筒を手にしていました。寒気がするような既視感を覚えながら、封筒を受け取って恐る恐る中を改めます。


 それは確かに招待状でした。レオンとタチアナが結婚したことを祝うためのパーティーへの招待状です。そう言えば、無事に婚約を破棄してからはレオンたちがどうしているか、まったく耳にしていませんでした。結婚までこぎつけていたとは初耳です。


 正確には、誰かがうっかり彼のことを話題にしそうになるたび、私はうっかり嫌な顔をする癖がついてしまったのです。だから、噂好きの令嬢たちも彼の話を私にできないままでいました。そして私は彼のその後を知らないまま、現在に至ったのです。


 婚約から結婚までほとんど間がないように思えましたが、あちらはあちらで色々あったのでしょう。もしかしたら、タチアナがよその令息に手を出しに行かないように早めにしっかりと縛っておくことにしたのかもしれませんが、私には関係のないことです。


 そう、私はもう彼らとは何一つ関係がないのです。そんな私が、どうして彼らの祝いの席に呼ばれたのでしょうか。マリエラは私を最低最悪の令嬢として認識している筈なのに。


 面倒だし欠席してしまおうか、という思いと、せっかくだし様子を見てみるのも面白いかもしれない、という思いとの間でしばらく揺れ動いた後、私は決断しました。


「お父様、この招待を受けようと思います」


「お前がそう決めたのなら止めはしないが……くれぐれも、気をつけるんだぞ。そうだ、パートナーはどうするんだ? やはり、セルジュに頼むのか?」


 この間の騒動を経て、お父様もまた彼と親交を深めていたようです。彼なら安心だ、とお父様の顔には書いてありました。私がうなずくと、お父様も満足そうにうなずき返します。


 きっと彼は苦笑しながら、私の願いを叶えてくれるのでしょう。その顔がはっきりと思い浮かぶのを自覚しながら、私は来たるパーティーに思いをはせていました。






 そしてパーティーが開かれる当日、私は目いっぱいめかしこんで、同じように正装に身を包んだセルジュと共にレオンの屋敷に向かっていました。


 前にこの屋敷を訪ねた時は、死刑宣告を受けたかのような絶望的な気分でした。けれど今は、ただ純粋に興味だけを覚えていました。どんなパーティーになるのか、何が起こるのか。そんなことで頭がいっぱいでした。


 もしかしたら、かつて私たちがあのお茶会を開いたように、この催しも何らかの策略なのかもしれません。けれど私は落ち着き払っていました。だって、私は一人ではないのですから。


 思わず微笑みながら傍らに立つセルジュを見つめます。いつもは比較的質素な身なりの彼は、きちんと正装するととても素敵でした。


 いつもは自然に流しているミルクティー色の髪も、丁寧になでつけられていてとても様になっています。りりしいその顔に浮かんだかすかな笑みには誠実さがにじみ出ていて、幼い頃から変わることのない頼れる雰囲気をかもし出していました。




 彼に手を引かれながら会場である大広間に足を踏み入れた時、私はとても誇らしい気分でした。こんなに立派な青年が私のパートナーである、そのことを周囲に自慢して回りたいと、そんな非常識なことを考えてしまうほどに。


「これはまた、すごい人数だな。ほら、もう少し俺の方に寄っていろ」


 大広間は驚くほどたくさんの人で埋め尽くされていました。レオンの交友関係はマリエラが監視していて、彼には友と呼べる人間はほとんどいないと聞いていますが、それにしてはここにいる人間は多すぎました。彼らの親戚や、マリエラの友人たちが呼ばれているのでしょうか。


 ゆったりと行き交う人の波を眺めているうちに、私は知った顔を見つけました。


「あら、あの令嬢は……」


「どうした、知り合いか?」


「いいえ、直接会ったことはないわ。ちょっと彼女にあいさつをしておきたいのだけど」


 二人してその令嬢に近づき、声を掛けます。思った通り、彼女もまたかつてレオンと婚約していた令嬢の一人でした。私は彼女について、社交界の噂で聞いていたのです。そして彼女もまた、私のことを知っているようでした。


「そう、あなたも呼ばれていたのね、アンジェラ。ここにはわたくしとあなたの他にも、レオンと婚約していた令嬢が何人も呼ばれているのよ。一体、レオンは何を考えているのかしら。いえ、マリエラが何を考えているのか、が正しいわね」


 彼女は眉間にしわを寄せながら、人ごみの向こうにいるであろうレオンのほうを上品ににらみつけていました。


「いよいよもってこれは、何か裏があるかもしれないな。アンジェラ、お前も気をつけろよ。まあ、いざとなったら俺が守ってやるから」


 令嬢と別れた後、セルジュがそっと耳元でささやいてきました。私も顔を引き締め、小さくうなずきます。






 しかし予想に反して何事も起こらないまま、つつがなく時間は過ぎていきました。宴もたけなわとなったころ、大広間の奥で控えめなラッパの音がしました。みながそちらに注目します。どうやら、これから何か始まるようでした。


 大広間の奥の壁際には、木で作られた小ぶりの舞台のようなものが据え付けられていて、たくさんの花で飾り付けられています。そこにレオンとタチアナ、マリエラが並んでいました。本日の主役であるはずの二人のすぐ横に堂々と並んだマリエラは二人を差し置いて異様に目立っていましたが、彼女たちは全く気にしていないようでした。


 みなが彼らに注目する中、三枚の羊皮紙を手にした男性が彼らの前に進み出ました。そのうち二枚は厳重に封がされています。


 彼はレオンたちに背を向けると、客人たちの前で小さく咳払いをしました。どうやら彼は王宮に仕え、法にまつわる諸事を取り仕切る上位の役人のようでした。役職を示す飾り物が、胸元で誇らしげに輝いています。


 彼は開封済みの羊皮紙を開き、厳かに読み上げました。


「これは、今は亡き先代公爵の遺言書です。この一枚目には、『レオンが結婚した時は、彼を知る者を可能な限り集め、宴を開くべし』と書かれています。この遺言に基づき、この舞踏会が開かれました」


 その言葉を聞きながら、私は納得していました。それで、レオンと婚約していた女性たちがここに呼ばれたのか、と。


 役人はまた咳払いをしながら封がされた羊皮紙を掲げ、慎重に広げました。再び、彼の声が大広間に響きます。


「そしてこの二枚目は、宴の最中に開封するようにとの指示があります。『客人に、レオンについて尋ねよ。彼がマリエラの支配を脱したのか、それとも依然マリエラの人形のままなのかを』」


 その遺言の内容に、大広間は急にざわつき始めました。どうしてそんなことを言い出したのか全く分からない謎の遺言、それにみな戸惑っているのでしょう。


 客人たちがしきりに顔を見合わせる中、澄んだ女性の声がざわめきの中から響いてきました。


「レオン様は、未だマリエラ様のお人形にすぎません。わたくしがそれを証言いたします」

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