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4.知恵を出し合って

 パティたち使用人の一団にセルジュを加え、私たちは一時中断していた話し合いを再開していました。厨房の空いた椅子にめいめい腰かけて、大机を囲みます。


 今話し合いに参加しているのは私とセルジュ、パティ、それに手の空いたメイドが三人と、庭師見習いの少年です。他の使用人たちには、あとでパティたちが話し合いの結果を伝えてくれることになっていました。


 分家の令息とはいえ貴族であるセルジュが顔を出したことで、メイドたちは多少なりとも遠慮するような様子を見せていました。パティだけはいつもと全く同じ調子で、機嫌よく振る舞っています。


「セルジュ様まで参加されるなんて、いよいよ本格的に何かの作戦っぽくなってきましたね。こういう作戦って、やっぱりちゃんとした名前が必要だと思うんです。『タチアナ様に横取りしてもらおう作戦』というのは……うん、間が抜けてますね。却下です」


「パティ、これは秘密の作戦なんだから、名前なんていらないのよ」


「名もなき秘密の作戦、ですか。いいですね、それ。かっこいいです」


「お前たち、なんだか楽しんでないか? 俺の気のせいか? それと、タチアナって誰なんだ? いまいち、話が見えてこないんだが」


 脱線したお喋りを始めた私とパティに、セルジュが呆れたような目を向けてきます。私は寝間着の上からガウンを羽織っただけの姿で、そんな彼に今までの流れを説明することにしました。


 私がパティたちに頼んでレオンの周囲を探らせていたことを知ったセルジュは、眉間にしわを寄せながらううんと小さくうなりました。呆れ半分、感嘆半分といった様子です。


「……アンジェラ、お前、いつの間にかずいぶんと強くなったんだな。小さい頃はいつも怖がりながら俺の後ろにくっついてたのに」


「私だって成長するもの。それに、ここで頑張れるかどうかにこれからの人生の全てがかかってるんだから、怖がってなんかいられない」


 私が真剣な顔でそう答えると、セルジュはそうか、と短くうなずきました。彼の顔もまた真剣そのものでしたが、その灰色の目は優しく笑っていました。


「それで、私たちはどうにかしてタチアナにレオン様を奪ってもらえないかと考えているのよ」


「実際、タチアナ様はレオン様にちょっかいをかけているみたいですし。正直、このまま放っておいても何とかなる気もするんですよね」


「タチアナ、タチアナ……ああ、思い出した。いつ見ても男をはべらせているあの令嬢か。これは聞いた話なんだが、彼女は伯爵家より下の家の男には興味がないらしい。そのせいか、俺も彼女と話したことはないんだ」


 セルジュの口ぶりからすると、タチアナが男漁りをしているのは令息たちにも広く知られているようでした。だとすると、彼女の悪い噂がレオンやマリエラの耳に入ってしまうかもしれません。それはあまりありがたくない話です。その噂のせいで、レオンがタチアナに幻滅するようなことにでもなれば、私たちの目論見は水の泡ですから。


「それで、タチアナにレオンを奪わせるにしても……マリエラが問題だよな」


「うん、私たちもそこで行きづまっていて」


「そうなんですよね。レオン様だけならタチアナ様がうまいことたらしこんでくれるとは思うんですけど、マリエラ様が乱入してきたらおじゃんになっちゃいます」


「数日でいいから、マリエラをレオンから引き離せればいいんだろうが、どうしたものかな」


 私たちは顔を見合わせて黙り込みました。話し合いに参加している他の使用人たちも、途方に暮れた顔をして目をそらしています。


「……そもそも、タチアナがレオンの心をとらえることに成功したところで、マリエラが反対したらそれまでだよな。どうやらレオンは、何よりもマリエラの意見を優先させているみたいだし」


「だったら、マリエラが私との婚約を破棄したくなるように、そしてタチアナを選びたくなるように細工しなければいけないのね」


 セルジュの指摘に、私が言葉を返します。どうやら、そう簡単に事は運ばないようでした。


「アンジェラ様の印象を下げて、タチアナ様の印象を上げる。一度にできたら楽なんですけどね」


 行儀悪く足をぶらぶらさせながら、パティが可愛らしく小首をかしげました。みながその仕草になごんでいる中、私はふとあることをひらめきました。


「……一度にやれる方法、思いついたかもしれない」


「本当ですか?」


「よし、聞かせてくれ」


 その場の全員が前のめりになる中、私はお茶で唇を湿しながら、慎重に思いつきを話していきました。


 そして話を聞いているうちに、みんなの表情は複雑なものになっていきました。まるで、苦い薬をうっかり口にしてしまったかのような顔です。


「実行するだけならどうにかなるかもしれないが……アンジェラ、お前の負担が大きすぎないか」


「それは仕方ないわ。この中で当事者なのは私だけだし、私が頑張らないと」


「一人で背負うな。俺たちはみんな、お前の力になりたいと思っているんだ。ある意味、俺たちも当事者のようなものだ」


 私の言葉に重ねるようにして、セルジュがきっぱりと言い切ります。パティやメイドたちも彼に同調するようにうなずきました。


 味方がいてくれるということは、なんて心強いことなのでしょうか。私はちょっぴりうるんだ目元を押さえながら、みんなにうなずき返しました。


「ありがとう、みんな」


 それから私たちは顔を突き合わせて、ひそひそ声で相談を始めました。私の思いつきをみんなの考えで修正して、一つの作戦へと昇華させる。その作業は困難なものでしたが、とても楽しいものでした。




 結局その日一日では打ち合わせは終わらず、私たちは日を改めて何度か集まることになりました。そうしてやっと作戦が決まった時、私たちの間には奇妙な連帯感のようなものが生まれていました。


「これで、だいたい決まりか」


「そうね。あとは出たとこ勝負になるけれど」


「下準備は私たちに任せてくださいね!」


 どことなく神妙な顔の私とセルジュ。一方のパティ率いる使用人たちは、こちらが圧倒されそうになるほど気合が入っています。


 私たちは誰からともなく顔を見合わせてうなずき合いました。突然の婚約から始まった騒動は、もうすぐ大きな節目を迎えようとしていました。

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