89話 アルチャルの休日
ま、まさかリリー様に会うなんて……。予想していませんでした。
今日はようやく双子の姉であるアルティスが対面で話しをしてくれると言うので学校へ向かっている。
アルティスは特別実習で私たちの前に現れ、リリー様を除くすべての者を倒してどこかへ去ったという。私はそれを不可解に感じていた。
まず、アルティスが私たちの前に現れたのは偶然ではない。きっとあの女は狙って私たちの前に現れたのだ。
そして……リリー様を残して去っていったこと。あの女の性格からして、そんなことはありえない。蹂躙を好むあの女が何もせずに私たちのパーティから手を引くだなんて考えられなかった。
そんなことを考えながら歩いているとようやく学校に着いた。ここまでの道のりが嫌に長く感じた。きっとアルティスに会うのを心のどこかで拒んでいるのだろう。
後者に入り、学園長室へ。そもそもなぜ私と同い年なのに学園長というポストに就いているのか。それはアルティスがあまりに優秀な、いわゆる神童だったから。7歳にして勇者学校に飛び級で入学、10歳で卒業し、戦場で大暴れしたのち6年で学校に学園長として戻ってきた。
コンコン、と学園長室のドアをノックする。
「どうぞ。アルチャル」
時間は指定していた。でもこのノックが私であるとは限らないにもかかわらずアルティスは確信を持って私の名前を呼んだ。そういうところも……不気味だ。
「アルティス……!」
何を話そうか、色々考えてきたつもりだった。でもアルティスの顔を見た瞬間、それらが吹き飛び憎しみの言葉へと変貌した。
「おやおや、怖い顔ですよアルチャル。それとここでは学園長です」
「学園長であることを認めたつもりはない」
「ひどい妹ですね」
ため息をつくようにアルティスは椅子をくるくると回しながら立ち上がった。そして来客用の椅子を用意して座るよう促してきた。アルティスはそれらの動作を終えてから席に着いた。
「……ひどい目つきですね。そんなに私が憎いですか?」
憎い……とはまた違う。単に私はアルティスに嫉妬しているだけだ。私にもあれほどの才能があれば……。なぜ双子の姉のアルティスはあれほどの力があって、私にはないのか。そう思ったことは何度もある。
「そんな話をしにここに来たわけじゃない。……あの日、なぜ私たちのパーティの目の前に来たの?」
「可愛い双子の妹の様子を見に来た……では納得しませんか?」
そんなはずがない。アルティスはそんなことのために動くような人間でないことは私が1番知っている。
「ふざけてないで答えて」
まるでユーシャ様たちに会う前のように冷たい自分になっていると自分でもわかる。あの時の私は明らかに人を軽視していた。アルティス以外、自分の脅威はないと思い上がっていた。
「そうですね……特異点の観察に行きました」
「……ふざけるのも大概に」
「今のを大切なことと捉えられないのが、貴女の限界を示していますね。いつまで経っても私に追いつけないわけです」
「……」
ムカつくけど、アルティスの言葉には説得力がある。アルティスはどこかに真意を差し込んで、どこかにホラを吹き込むのが得意だ。私には特別に真実の部分を教えてくれたのだろう。それでも特異点の意味はわからないけど。
「いつか……いつか絶対、アルティスを倒す」
「楽しみにしていますよ。あの矢も悪くはありませんでした」
あの矢とは特別実習で射った矢のことだろう。かき消されたけど。
「じゃあ、帰るから」
「あら、早いですね」
どうせアルティスはこれ以上口を割ることはない。ならここにいたってイライラするだけだ。
「じゃあねアルティス」
「えぇ、アルチャル。お元気で」
……絶対に、絶対にアルティスを超えてやる。私のためにも、リリー様、ユーシャ様のためにも。
……そ、それからまぁ、シルディやヒラのためにも……。




