83話 本当の戦い④
「隠しているとは……どういうことでしょうか?」
あくまで冷静に。こちらの動揺を悟られることのないように聞く。当然心拍数は上がっている。この人は私のことを……私の正体を知っているかもしれない。魔王の娘であることを!
「面白いことをおっしゃいますね。魔王の娘、リリー・フォーデフェルトさん?」
ゾクッと、今度はさらにはっきりと背筋が凍りついた感覚を覚える。でもまだだ……まだ確証はない。焦るな、落ち着け私。
「な、何を言っているのですか? 魔王の娘? 意味がよくわかりませんが……」
「そうですか。あくまでそのスタイルを貫くのであれば構いません。が、無意味であることは重々承知しておいてくださいね。私に嘘や隠し事は通じません」
圧倒的自信。全く泳がない視線。この人は本当に……私の正体に気がついているんだ。
ランキング戦の閉会式でかけられた言葉、それをじっくり思い出す。『……そう、貴女がリーダーなのね』。この言葉の真意は「魔王の娘である貴女がリーダーなのね」ということだったのか。
「でもご安心ください。あなたが魔王の娘であるからといって、特別何かをするわけではありませんから。……そちらから動かない限りはね」
つまり魔王の娘として動いたら即刻私の首を取りに来る。そういう脅しというわけね。後出しになるけど魔界を裏切っておいて良かったわ。もしユーシャと出会ってなかったら今頃はもうお墓の中だったかも。
「……アルティス学園長が私たちのパーティと戦いに来たのはそれを伝えることが目的ですか?」
「はい」
まったく隠そうともせず、アルティス学園長はそう答えた。最初から私が目的だったのね。
「さて、戦いを続けましょうか。私に勝ったらあなたの疑問になんでも無条件で答えてあげますよ」
……もうとっくに正体はバレている。これ以上隠す必要もないか。みんなは深く眠っているし、大丈夫ね。なら……
「後悔しないでくださいね、アルティス学園長。それと、この力を使えば自制も効きにくくなります。ご了承を」
「お任せください。その上で私が圧倒しますから」
さぁ、いつぶりかしらね。この力を使うのは。
私たち魔王の家系にはユーシャの家系に伝わるセイクリッド系魔法ような特別な力を持つ。ユーシャのと違うのはそれぞれ単発の魔法が伝わっているのではなく、体の状態を変化させる能力があるという点。その力の名は……
「『そこにある悪夢』」
身体に赤い紋が浮かび上がる。服で見えないけれど全身にまでこの紋は広がっている。魔力が高まり、この周辺の木々が揺れ動く。さぁ……このモードになったからには手加減できないわよ。
「『キュボス』」
暗黒色の小さな立方体たちが私の体の周辺に出現し始めた。これは私の体に収まりきらなかった魔力の塊。いわば力がそのまま可視化したもの。
球体を周りに侍らせるアルティス学園長と、立方体を侍らせる私。まるで対比しているかのような状況が森の中に生まれる。
「なるほど……さすが魔王の血筋ですね。あまりに圧倒的力を感じます。ただ……どこか優しさも感じますね」
「どうでしょうかね。今はただ……ユーシャたちを、みんなを駒と呼んだアルティス学園長への怒りで満ちていますよ」
「それに関しては謝罪しましょう。では……戦闘開始ですね。えいっ!」
アルティス学園長は浮かせていた黒い球体を私に向かって投げつけてきた。さっきまでならこれでチェックメイトだっただろうけど今の私なら違う。
「行け」
小さな立方体たちのうちの1つに指示を送る。黒い球体に暗黒色の立方体がぶつかり、相殺した。
勝てる……とはまだ思わない。これで互角。さぁ……本当の戦いの始まりよ。




