8話 実習前半②
ユーシャが伝説の勇者の娘……でもそれなら納得できる。あの的を破壊するレベルの超高火力魔法のことも。私が魔界の魔法を全力で撃っても破壊できるかどうか……正直言って自信はない。
「り、リリー? なんか目が怖いよぉ〜!」
「ユーシャ……あなたは……」
「はーい! 次の実習へ移りますよ!」
私が話しかけようとしたところで先生に水を差された。
「皆さん攻撃魔法ではそこそこ優秀な成績を残す子が多かったですね。黄色や青色。ユーシャさんはさすが紫超えてバラバラでしたね」
「えへへ〜〜」
皮肉を込めて言われたことに気がついていないようでユーシャは顔をトロけさせて照れている。可愛い……。
「今日の実習最後のプログラムは、逆に相手の攻撃を防ぐ防御の魔法についてです。午前中に防御魔法についても座学で習いましたよね?」
やけに真剣に防御魔法を教えるなと思ったら午後の実習でいきなり使わせるためだったのね。怪我の恐れもあるし、そりゃ真剣に教えるはずだわ。
「うっしゃ! ついにアタシの出番だな」
「ヤケに自信があるみたいね、シルディ」
シルディが腕を組んで偉そうにしている。攻撃魔法部門では平均ちょい下くらいだったのに。
「アタシの得意な魔法だからな」
まぁ……そりゃそうでしょうね。左腕に小さな盾を装備しているし、盾役を担う気なのは見てわかるわ。
「ではそんな自信たっぷりのシルディさんに見本を見せて貰いましょうか。攻撃魔法スイッチ、オン!」
先生が魔力を送ると壁に付けられた機械が作動。大砲のようなものが壁から生えてきた。
「ではいきますよ〜。3・2・1……発射!」
先生の言葉と同時にドン!! という音が実習室に鳴り響いた。あれは確か魔法『バレット』だったかしら。
「へっ。こんなもん……『シールド!』」
左腕に装備している盾が魔力で拡張し、薄緑色の大きな盾になった。
「うりゃあ!!!」
シルディが大きく叫び、『バレット』と衝突! ぶつかった瞬間たくさんの煙が上がる……大丈夫なの?
「どんなもんだい!」
「いえーい! シルディやるぅ!」
シルディはピンピンして立っていた。ユーシャはノリノリでシルディを讃える。
「……と、まぁこんな感じです。盾役志願者以外は盾を持ってないと思いますが、普通に魔法でも『シールド』は使えると思うので自分の身は守ってください」
先生の捉えようによっては冷たい指示が飛ぶ。怪我するかもしれないからさっきよりはみんな真剣な表情ね……。
「ヒラは大丈夫なの?」
「わ、私は……一応盾の基本はできます。……きっと」
自分に自信がないのか、モジモジしたまま答えるヒラ。これだと心配だなぁ。
ポンとヒラの肩に手を置いてまっすぐヒラを見つめる。
「へっ!? あ、あの……私……!」
「いい、ヒラ。自信なさそうに盾を張るのが一番危ないの。盾は堂々と張ること! いい?」
「は、はい!」
うん、いい返事。
「次、ヒラさん?」
「は、はい!」
うわぁ……なんかこっちまで緊張してくる……。
「3・2・1……発射!」
「我が身を守れ……『シールド』」
「よしっ!」
ちゃんと『シールド』を張れた! やるじゃない!
「えへへ、リリーはいい子だね」
「えっ、な、何? 急に」
突然ユーシャに話しかけられた!
「だってヒラのためにアドバイスをあげて、ヒラのことを応援してたでしょ? いい子じゃない!」
「……それを言うならユーシャもでしょ?」
「えっ? 私も?」
「うん! 見ててね」
「次! リリーさん!」
私の名前が呼ばれる。さて……そこそこいい成績を残すなら煙は立てず、衝撃は完璧に受け止めなきゃいけない。だとしたら下級魔法の『シールド』じゃ難しい。なら……
「3・2・1……発射!」
「『ブランクウォール!』」
中級魔法! すべてを止めきる!
『バレット』が当たった瞬間少量の煙と音が生じただけでそれ以上は何もない。よし! 理想的な盾ができた!
「リリーお前……すごいな……」
シルディからお褒めの言葉を貰う。盾役だからこそ私の今の凄さがわかるということなのかな?
「シルディならもっと上へいけるよ。さ、次はユーシャでしょ?」
「次は……ユーシャさん!」
「はい!」
胸を張って堂々と闊歩していく。
「3・2・1……発射!」
「『セイクリッドブクリエ!』」
眩い光に包まれたユーシャがそっと右手を差し出す。飛んできた『バレット』をそのまま手で受け止めてしまった。音も、煙も、何一つ立てることなく。
……すごい。あれが……伝説の勇者の娘!