79話 特別実習⑩
「みんなで完ぺき……うん、そうだね。そうかも。私、間違ってた。リリーに任せっきりなことを悩んでいたんじゃなくて、自分が全部できていなかったことを悩んでいたんだ。やっと気がつけた……」
「落ち込む必要はないわよ。ユーシャにはユーシャにできることを、私には私ができることをやるの。それは任せっきりじゃなくて……『信頼』なんだと思う」
「信頼……」
我ながらちょっと臭いことを言っちゃったわね。でもこれは本当に大事なこと。
私たちがもっと上に行くため、私がもっと活躍するため、最終的に魔族と人間が仲良くなるために必要なことなんだから!
「さ、いつもの元気なユーシャを見せてよ。あと食べ物も探さないとね」
「……うん。うん!!」
ユーシャにいつも通りの笑顔が戻ってきた。うんうん、やっぱりユーシャの表情は笑顔に限るわね。
さてと食べ物、食べ物……あ、たぶんこれリンゴだ! これなら食べられるでしょ。5つ持っていきましょうか。
「ユーシャ! リンゴを5個ゲットしたわよ!」
「本当!? 私はキノコを見つけたよ、ほら」
ユーシャが持っているのは何とも毒々しい真っ赤なキノコ。う、う〜ん……
「ユーシャ、キノコは怖いからやめておきましょう」
「え? じゃあリリースするね」
よかった確認する前に食べないでくれて。キノコ類は怖いから全スルー安定ね。
「リリー! なんかにんじんっぽい葉っぱ見つけた!」
「本当? 野菜も欲しいわよね」
茹でたら甘くて美味しいにんじんができるし、取れたら嬉しいかも。
ユーシャがニコニコで引き抜く。……するとそのにんじんには顔が付いていた。
「ま、[マンドラゴラ!?]」
やばい!
「ユーシャ、耳を塞いで伏せて!」
「え、え!?」
「ギャオオオオオオオオオオオオオオ!」
う、うるさ……耳を塞いでこれか。[マンドラゴラ]……噂でしか聞いたことがなかったけどとんでもない魔物ね。引き抜いたら超大声で叫んで何もしないと鼓膜が破れることもあるらしい超怖いやつ。
とりあえず……
「ユーシャ! 斬っちゃって! コイツは初撃さえ防げば弱いから」
「う、うん! えいっ!」
ユーシャの剣が[マンドラゴラ]を真っ二つにした。ふぅ、危なかった……。ちゃんと魔物について調べていなかったら2人とも鼓膜が破れたまま余生を過ごすことになっていたわ。いやユーシャの『セイクリッドリカバリー』なら鼓膜も再生できるのかしら。ちょっと気になるわね。やらないけど。
「あ〜びっくりした〜!」
「驚いたわよね。コイツは野菜に擬態して畑とかにも紛れ込むから厄介なのよ」
「ふぅん……リリーって魔物に詳しいんだね」
「えっ!? た、たまたまよ、たまたま! 田舎の農業地帯では常識で知っていただけ」
ふぅ……なんとか田舎出身の嘘を使って免れることができたわね。この設定にしておいてよかった。何かと便利だわ。
「となりのこれはまた[マンドラゴラ]かな? それともにんじんかな?」
「[マンドラゴラ]は隣で抜かれると呼応して出てくるからきっとそれはにんじんのはずよ。外れの方を引いちゃったのね」
「えへへ……」
苦笑いしながらユーシャがにんじんを引き抜く。
昨日は[モンスターベアー]、今日は[マンドラゴラ]。結構強い魔物がウロウロしているのね。こんな森で特別実習をさせるなんて本当に強いパーティを輩出したいらしいわね。そういえばかの学園長……アルティスさんだっけ。何者なんだろう。何かただ者じゃない雰囲気は感じるけど……。
「よし、リリー、そろそろ戻ろうか」
「え? う、うん!」
今それを考えていたって仕方ないわね。とりあえず今はみんなのところへ帰らないと。
この後私たちは知ることになる。この特別実習は……2日目の夜からが本番なのだと。




