75話 特別実習⑥
ユーシャ達が集めてきてくれた果物を食べてみんなで見張り。それが終わって辺りは暗くなってきた。ここからが本番ね。魔物は基本的には夜行性。でも私たち人間は夜は寝ないと体調を崩してしまう。だから必然、交代で見張りをすることになる。
シフトは1人2時間。まず私とユーシャが見張り役に。ユーシャは自ら損をする3時間見張りの宿命を受け入れるどころかむしろ自分から立候補してくれた。そ、そんなに私と見張りをしたかったのかな……。
「ありがとね、ユーシャ。3時間見張りを名乗り出てくれて」
当然だけど私がここで2時間見張りをして、次のヒラと交代したら1時間ユーシャはヒラと組まないといけない。つまり2+1で3時間見張りをしないといけなくなるということ。
「いいよ。リリーと見張りがしたいってわがままを叶えてもらったんだもん。これくらいやらないと!」
「いい子ね、ユーシャは」
「えへへ〜♪」
テントの中で寝ているヒラ、シルディ、アルチャルを起こさないように小声で話す。
「そういえば報告が遅れたけど、さっき魔物に囲まれた時にセイクリッド魔法を使っちゃったから今日はあと1回しか使えないや」
「あ、そうなんだ。全然いいわよ。気にしないでね」
ユーシャはセイクリッド魔法を1日に2回までしか使えない。それを結構気にしているというのは私から見ても明らかだ。
「その……リリーは覚えてる? 魔界と人間界の和解の夢」
「もちろん。ユーシャと、私の夢じゃない」
もしその夢が叶ったなら……私は魔王の娘だってきっとみんなに打ち明けられる。
「うん……そうだよね、ありがとう」
……ん? 何が確認したかったのかしら。思えば最近ユーシャの様子がちょっと変よね。リーダーとしてここは突き詰めるべき? それともあまり口を挟まないようにすべき? う〜ん……難しい。やっぱり私、リーダー向いてないのかも。
「どうしたの? いきなりそんな確認なんかして」
やっぱり少しだけ踏み込んでみることにした。ユーシャは私たちのパーティの核。ユーシャが心の問題で揺れ動いてしまったらパーティ全体が揺らぐ。リーダーとして、綻びそうなところは早めに対処しておくべきよね。
「あの……リリー! 私ね」
ユーシャがちょっと声を張って立ち上がった。その時だった。
「グォォーーン!」
「こ、この声は!」
間違いない。魔物の遠吠えだ。それもかなり近い。
ガサ、ガサ、と森の中から何かが近づいてくる音がする。
「グルルル……」
げっ! [モンスターベアー]。そこそこ強い魔物じゃない。こんなのが生息している森に特別実習として放り込むの? 危険すぎるんだけど。
「どうするリリー、みんなを起こす?」
「力は借りたいけど寝付けたばっかりのところを起こして体調を崩されるのも嫌だし、なるべく私たちだけで対処しましょう」
私とユーシャならまぁ倒せるかな。魔界の魔法を使えるなら私1人でも倒せるし、アスセナでも倒せる。
「なら話は早いね。『ファイアー!』」
炎の魔法を惜しみなく使ったユーシャ。炎は夜の森を明るく照らしながら[モンスターベアー]に向かっていく。
「ガルァァ!」
当然甘んじて受けてくれるはずもなく[モンスターベアー]の鋭い爪でユーシャの炎をかき消した。そう、コイツは並大抵の魔法だと爪の硬さでかき消してくるのよ。さらにその爪の鋭さを利用して攻撃してくる厄介な魔物。本当は飛んで安全圏から一方的に攻撃を仕掛けるのが正攻法なんだけど……。
「こうなったら剣で……」
「ダメよユーシャ。あの爪のテリトリーに入ったら終わりよ」
「う、うん!」
……やっぱりなんか焦ってる? ユーシャはそのままでいいのに。どうしたのかしら……。




