67話 照れ照れ
最初はどうなることかと思ったけど、何だかんだで楽しく過ごせた魔界生活。それも今日、終わりを迎える。また人間界に戻って明日から学校に行かないとね。特に水曜・木曜・金曜は特別実習のサバイバルが始まるし、頑張らないと!
「ありがとね、ベルゼブブ。楽しかったわ」
初日以外ずっとベルゼブブとアスセナと遊んで暮らしていた私。普通に帰省しただけみたいなものよね、これ。
「あぁ。私も楽しかったよ。最後にいいかな」
「えっ……」
ギュッとベルゼブブに抱き寄せられる。暖かくて安心する……。
「私も軍人だ。いつお別れの時が来てもおかしくはない。これが今生の別れになることもあるだろう」
「や、やめてよ! そんな悲しいこと言わないで!」
「ふふ……まぁ死ぬ気はないから安心してくれ。それに、簡単に死ぬほどこのベルゼブブ、なまった覚えはないね」
そうよ、ベルゼブブはとんでもなく強いんだから! それこそ私じゃまったく相手にならないくらい。
「うん、だからまた会おうね、ベルゼブブ」
「あぁ。アスセナも、リリーのことを頼むよ」
「はい! 誠心誠意で姫様に尽くします!!」
その言葉に満足したのかベルゼブブはニコッと笑って……
「じゃあまたね。リリー、アスセナ、愛しているよ」
抱きしめる力を少し強めた。「愛してる」……その言葉でこんなに嬉しくなれるなんて、魔法の言葉よね。いつかユーシャに言いたい……。
「ありがとうベルゼブブ。じゃあね。行くわよ、アスセナ」
「はい!」
優しい笑顔で見送ってくれるベルゼブブ。いつか……いつの日か、ユーシャやシルディ、ヒラ、アルチャルのことをベルゼブブに堂々と紹介できる日が来るといいな……。ユーシャの目標である、魔族と人間の和解を達成したらできるわよね。
「姫様、ベルゼブブ様は相変わらずお優しい方でしたね」
「えぇ。本当……大好きだわ」
お姉ちゃんみたいな存在だもの。魔王の娘だからって「様」付けしたりしないし、しっかり私個人を見てくれている気がする。
ぐんぐん飛んでいくと人間界が見えてきた。さ、我が家へ帰りましょうか!
こそっと草陰に着地する。飛んでいるところを見られたら厄介だしね。もう時刻は夕方。
「1週間空けていたから食材とかダメよね。買いに行きましょうか」
「はい!」
魔界の五本の指に入る実力者に会ってきた数十分後になんて家庭的な話を……と思ったけれど。まぁ生活のことだから仕方ないわよね。
スーパーは無力の私はアスセナの後ろをついていくしかない。なんだかお母さんに連れられる3歳児みたいじゃない。不名誉だわ……。
「今日はどんなものが食べたいですか?」
「そうね……魔界の料理はあんまり美味しいと言えるものじゃなかったし、アスセナの作るものならなんでもいいわよ」
「そうですね……あっ、じゃあ親子丼にしましょうか♪」
いいわね。卵でとじられた鶏肉……。たまらないじゃない!
ふと、ピンク色のものが視界に映った気がする。もしかして……
「ユーシャ!」
「リ、リリー!」
やっぱりユーシャだ! 黄金週間最終日に会えるなんてラッキー☆。
「今帰ってきたところなの。ユーシャはどうだった? この休み期間」
「え、え……あの……その……」
なぜかどんどん顔を真っ赤にしていくユーシャ。このままいくと髪の毛の色と同じくらい染まっちゃいそうなんだけど。
「大丈夫? 熱でもあるんじゃ……?」
心配したつもりでユーシャのおでこに私のおでこをピタッとくっつける。するととんでもない勢いでユーシャがジタバタしだした。
「え、ちょ、どうしたのよ?」
「な、何でもない! 何でもないから!」
そう言ってユーシャはダッシュでお会計を済ませて帰ってしまった。え……なんか避けられてる? 私何かしたかしら……。
明日からの学校、ちょっとだけ不安になってきたんだけど……。




