34話 みんなで我が家へ②
「アスセナ、来たわよ〜」
ガチャっとドアを開け、みんなを部屋の中に案内する。本当の本当にボロ家なんだけど引かれてないかな……。ちょっとそこが不安だわ。
「お、趣ある家だね、リリーちゃん」
真っ先にフォローしてくれたのはヒラだった。……控えめに言ってボロ家なのに趣という言葉でいい風に言ってくれた……。優しい子ね。
「お帰りなさい。リリーちゃん♪」
よし……! 完ぺきよ、アスセナ。
自然に「リリーちゃん」と呼べたアスセナに対して心の中で拍手を送る。
「うわぁ……可愛い人だねー、リリー?」
「う、うん。そうでしょ?」
なんで最近のユーシャって時々目が死んでいるのかしら……。怖い。
「んじゃ、お邪魔するぜ〜」
「お、お邪魔します……」
「お邪魔しますね、アスセナさん!」
「はい♪ どうぞ」
えっ……気のせいかな。なんか一瞬アスセナとユーシャとの間に火花が見えた気がしたんだけど……。疲れてるのかな、私。
とりあえず玄関前で話し込むのはあれだし、部屋に入ることに。なぜだか強い視線を2つほど感じるんだけど……。
「狭いけど座って。アスセナ、お茶をお願いしてもいいかしら?」
「は……うん! 任せて♪」
あっぶな……確実に「はい」が出かけていたわよ今。でもナイスリカバリーだわ。
「リリーがボロ家ボロ家いうからどんなもんかと思ったけど、普通のアパートじゃん。お婆ちゃん家感はあるけど」
シルディが笑いながら床をポンポンと叩く。普段は大人しくしているからいざああいう行為を見ると床が抜けたりしないか不安ね……。
「冷たい麦茶です。どうぞ♪」
「アスセナさん、ありがとー!」
「サンキュー」
「あ、ありがとうございます」
「ありがと」
ありがとうが連鎖していく。なんかいいわね、こういうポジティブな言葉の連鎖って。
「さてと、明後日からのランキング戦について、話していきましょ」
「うん!」「おう!」「は、はい!」
プリントを机の上に出す。まだ皆んな読んでいない様子ね。私も疲れて読んでいなかったから良かったわ。
「なになに……トーナメント形式だってよ」
「わ、私たちは2組の人たちの戦うみたいだね」
「見つけるの早いわね」
本当だ。2組のパーティとか。まぁ他のクラスのことはまったく知らないから何とも言いようがないけど。
「でも戦いって傷つきたくないし、傷つけたくないから嫌だなぁ〜」
ユーシャの優しさが現れた発言ね。どちらかと言えば後者の方が大きそう。ヒラも全力で首を縦に振ってるし。
「……! その心配はいらなさそうよ」
「えっ? なんでなんで!?」
「これか。えっーと……『仮想戦闘空間』の使用……なんだこれ」
聞いたことがある気がする……人間たちが叡智を振り絞って開発した魔力が動力源になって仮想の肉体を生み出し、模擬戦闘ができる空間……だっけ。魔界にいた時ニュースで見た気がするわ。勇者学校に導入していただなんて……。
「大きなニュースになった……よね?」
ヒラがユーシャと私に確認する。
「うん。見た気がするよ。確か攻撃を受けても痛くないんだっけ」
「ただその代わりにHPゲージが減って、0になったら強制離脱させられるわよ」
頭が悪い魔族にはいくらかかっても開発できないものよね。でもその代わりに魔族の方が魔力は多い。こういうところでも魔族と人間が手を取り合えたならより良い世界になりそうね。
「つまり攻撃されても痛くねーし、攻撃しても相手は痛くねーんだろ? 良かったな、ヒラ、ユーシャ」
「う、うん!」
「うん!」
まぁ不安要素の一部は消えたわね。ただ仮想戦闘空間ってお高いのよね。絶対に壊さないようにしないと……。
「みなさん、そろそろお昼ご飯はいかがですか?」
「おっ! アスセナちゃん作ってくれるの?」
「はい! 腕によりをかけて作ります♪」
「じゃあお願いするわアスセナ」
「うん♪」
今度はちゃんと「うん」と言えたアスセナに、心の中でよしよししてあげた。




