184話 そこにある希望
「嬉しいぞ勇者よ。今度こそ貴様をこの手で消せるのだからな」
「今の私くらいなら簡単に捻り潰せるでしょうね。でも……今日はこの子達がいる。簡単にはいかないわよ?」
ユーシャのお母さんは最前線に出て、闘志を見せる魔王と向き合った。
私たちはどうするべきか迷うけど、ユーシャのお母さんにだけいい姿をさせるわけにはいかない。
私たちが前に出ようとしたその時、魔王は魔法陣から杖を取り出した。あれは……[黒死の杖]。闇の魔法の能力が上がる魔王にとっては鬼に金棒な武器!
「その必要はない。この力でみな滅ぶのだ『ディアブロ・ディボーロ』」
魔王を中心に、闇の風が押し寄せてくる。
シルディとヒラによって付与された『エンチャントシールド』も薄いガラスのように壊される。
チラッと見えた限り、ユーシャのお母さんはこの闇の影響を受けていないみたい。内なる力が防いでいるのかしら。
「くっ……!」
強い衝撃に耐えることで精一杯な私たち。これだけの人数を一気に無力化する魔王はとんでもないわね。
でも今回は耐えることができている。きっとユーシャのお母さんが何かをしてくれているんだ。
「一瞬で決着をつけようではないか」
「そうね。賛成かも!」
ユーシャのお母さんは剣を抜き、魔王に1人立ち向かっていった。魔王もまた剣を抜き、それに応戦する。剣術では互角に見えるけど、互角じゃダメだ。私たちで、プラスに持っていかないと。
策がないわけではない。ただリスクが大きすぎてさっきはできなかった手段。それを今取るか、試されている。
「……ユーシャ、あれをやりましょう」
「……うん」
ユーシャは聞き返したりせず、ただ頷いてくれた。
「ほ、本気かよ。上手くいったことないじゃん」
「で、でもそれに賭けるしかありません!」
「そうですね。2人を信じましょう。それまで私たちは……時間を稼ぎます!」
シルディ、ヒラ、アルチャルは時間を稼ぐために前に出た。3人ともありがとう……これに応えなきゃダメね。
「行くよ、リリー!」
「えぇ! 来て、ユーシャ!」
「「『コネクト・セイクリッド』」」
私たちの最終手段、それはユーシャのセイクリッドの力を魔族である私に流し込み、聖と魔の力を融合させること。
何度か学校から隠れて練習していたけど、成功したことは一度としてない。
でも理論上、これができれば最強になれる!
今日はできる気がする。3人を信じているし、ユーシャを信じているし、そしてユーシャからビンタを貰って喝が入った私自身を信じているから!
「……行くわよ。「『そこにある希望』」
私の体を白い光が包む。そして同時に「『そこにある悪夢』」を発動することで、闇の力も加わる。
モノクロームな力が混ざり、淀み、新たな力が解放される。
……初めて成功した。これが、『そこにある希望』。なんて力なのかしら……
「なんだ……この力は!」
みんなと戦う魔王はこちらを向き、目を見開いた。
「さぁ、行くわよ魔王。……いや、あえてこう呼ばせてもらうわ。……お父さん!」
モノクロームな私が駆け出す。これが、最後の一撃となる。




