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146話 夏休み④

 布団の上でイビルちゃんに押し倒された私は気が動転して早口で言葉を紡ぐ。


「そ、そういうのはもっと大人になってからというか段階を踏んでからというか、そもそも私には心に決めた人がいるから〜!」


「ジタバタしやがらねぇでください。めんどくせぇです」


「ひぃ! 初体験を雑にしないで!」


 心は折れそうになる。でもここで折れたら色々なものを確実に失うわ。だから最後まで抵抗することをやめない!


「あーもう。面倒でいやがりますねぇ」


 イビルちゃんは私を押しつけて逃さないようにと、体を重ね合わせてきた。イビルちゃんの体重がかかり、布団を挟んでいるのに床の痛みを感じる。

 私が必死の抵抗を続けていると、ガチャっとドアが開く音がした。


「姫様〜! 心配で少し早く帰ってきま……し…………た…………」


 私とイビルちゃんの様子を見て笑顔がどんどん消えてゆくアスセナ。早く帰ってきてくれたことは嬉しいけど、完全に火にダイナマイトを注いでいるわよねこれ。


「ち、違うのアスセナ! 助けて!」


「誰です? アナタ……悪い虫ですかぁ。『暗黒羊(ダークネスシープ)』」


「うぇっ!?」


 アスセナ最強の魔法、『暗黒羊』を発動した!? 

 アスセナの白い髪が黒く染まり、おどろおどろしい空気が漂い始めた。


「なんだか知らねぇですが強そうでいやがりますね」


 それに応戦しようとするイビルちゃん。いやちょっと……


「あの……ここボロアパートなので勘弁してください……」


 私は心の底から声を捻り出した。


 ◆


 私たちはとりあえず落ち着いて話をする場を設けることにした。ちゃぶ台に私とアスセナ、向かい合ってイビルちゃんが座る。アスセナはまだ黒いまま。怖い……。


「で、姫様、この方は誰なのですか?」


「この子はイビルちゃん。昨日となりに越してきた子よ」


「となりに……」


 こんなボロアパートに新規入居者が来たことに驚くアスセナ。そりゃそうよね。私も驚いたもの。


「で? なぜあのような状況に?」


「イビルちゃんはおすそ分けをしてくれて、なんだったら私たちの部屋で食べてもらおうとあげたの。そうしたら成り行きで泊まることになって、寝ていたら突然夜這いされたのよ」


 自分で言ってて何が何だか分からなくなる。そしてアスセナの蒼い瞳が黄金になっていてこれもまた不気味だった。可愛い顔して、やっぱり魔族ね。


「なるほど……その点に関してイビルさん、何か供述されることはありますか?」


「ねぇです。その通りです」


 ないのかい……ってツッコミはなんとか飲み込むことができた。


「なぜ姫様に夜這いをかけたのですか? 返答によっては……」


「待ってアスセナ! 殺意を消して!」


 溢れんばかりの殺意がアスセナから湧き出ていた。


「そんなもん、リリーさんが気になるからに決まっていやがるです」


「気になったら夜這いを仕掛けるのですか!?」


 これにはアスセナもびっくりといった表情。そりゃ驚くわよね。でも大丈夫。私も意味わかんないから。


「気になったら行動する。当たり前のことでいやがります。躊躇っていたら、機を逃すことになりかねねぇです」


「うっ……確かに」


 謎の説得力があるわね、この子。でも流されちゃダメよ。この子がやったことは立派な犯罪! 許されざる悪行なのだから!


「とにかく、謝罪の言葉をもらえるかしら?」


「なぜでいやがります? 私は悪いことをしてねぇですよ?」


「おーう、マジか……」


 流石にキャラ崩壊するレベルで混乱してしまった。これ……会話にならないでしょ、もう。アスセナも怒りが有頂天のようで魔力が肌から漏れているし。


「まぁ今日のところは失敗ということで失礼するです。ではまた」


「あ……はぁ」


 それ以外、言うことはなかった。

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