118話 潜影実習③
よく読んだらこの紙、報酬とタイムリミットしか書かれていないじゃない! なんだか読みにくいし!
「よく考えたらリリー、これ、指示書じゃない?」
「え? …………なるほどね」
縦読み。「ここはうそ、てかがみをさがす」まで縦読みならしっくりくる。
「手鏡を探す……と言われてもねぇ」
「でもようやくこの違和感が、隠された実習だってことはわかったよ」
そう言って微笑みながらも、足取りがフラついているセレナ。体調……悪化したのかしら。
「ちょっと、大丈夫なの?」
「心配……かけたくないんだよね。大丈夫だよ」
心配かけたくないと言っても、どうしたって心配はするでしょう。顔は真っ青だし、足もふらついている。どう考えたって健康体ではなかった。
「手鏡なら家庭科室じゃないかな」
セレナは立ち上がり、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「そんな教室、あったかしら?」
勇者学校に家庭科なんて授業はない。もちろん音楽や技術、美術だって受けたことはなかった。
「2年生になると家庭科は習うらしいよ。なんでも、最低限の料理ができるようになることは戦場においても役に立つからって理由らしいけど」
なるほどね。たしかにご飯を食べないと人は生きていけない。そのご飯が美味しければ、仲間の士気も上がるでしょう。そのために家庭科は二年生から設ける、ということね。
「なら案内をお願いできる?」
「う、うん。任せて」
ふらふらとした足取りで先導してくれるセレナ。本当に大丈夫なのかしらと思うけど、今はちょっと無理してでも案内してもらうしかない。本人もやる気みたいだし。
3階へ上がったところでセレナが足を止めた。
「ここが家庭科室だよ。少し私は座ってていいかな」
見るとセレナは汗だくだった。これ……体が弱いとかそういうレベルなのかしら。
「休んでて。なんなら保健室まで連れて行くわよ?」
「いや……それには及ばない。もう少しチャレンジさせて欲しいな」
「そ、そう? 無理はしないでよ」
本人が拒否するのなら私からできることはない。
とりあえずセレナは休ませておいて、家庭科室へ入る。やっぱり料理メインだから手鏡なんて見つかりそうにない……って思っていたけど、隣接する家庭科準備室には裁縫の用意もいくらかあった。来年は裁縫もやるのかしら。料理と裁縫……どっちもシルディが苦手そうな分野ね。
「えっーと手鏡、手鏡は、っと……」
それらしいところをほじくり返して探す。けどなかなか見つからない。まさかここじゃなかったとか?
そう思った瞬間、いや……と自分の中である可能性に気がついた。
やってみる価値はありそうね。
「『ファイア』」
手のひらに火の玉を出す。その瞬間、家庭科準備室が明るくなった。そして……向かいっている壁に、丸っこい光が反射している。その光を根元まで辿っていくと……
「あった!」
手鏡がいつの間にか後ろにあった。さっきまではなかったはず。もしかしたら魔力に反応して出てくるかもなんて思ったけど、まさにだったわね。
その手鏡を手に取る。裏にはテープが貼ってある。文字は……
「おめでとうございます。学園長室まで来てください。……来られるものならね」
なんだか不穏な文章だけど、とりあえず呼ばれたとあらば行くしかない。学園長室……確か4階の一番端よね。
「セレナ! 手鏡あったわよ。次は学園長室まで行くわ」
「うん……ありがとう」
セレナは座って待っていた……わけではなく、寝そべっていた。
「ねぇ、もうセレナはやめておいたほうがいいんじゃない?」
「ふふ……なぜかな、今日はいつもより体調は良かったのに、いつのまにか悪くなってるや……」
とりあえず10分休むことにした。この10分が私たちをどう左右するかはわからないけど、なんとなくセレナをこのままリタイアさせる気にはなれなかった。それだけ彼女の目は……まだ諦めていないから。
良いお年を♪
来年もよろしくお願いします!




