1話 始まりの出会い
魔王室……ここは、選ばれた者しか入ることを許されない特別な部屋。普段は魔王や四天王クラスしか出入りをすることはない。だけど、たかだか15の少女である私は今、この魔王室で跪いている。
「顔を上げよ。リリー・フォーデフェルト。我が娘よ……」
重たい声で私に顔を上げることを命じるこの人こそ、今人類を支配せんと自らの軍に侵攻を命じている魔王。私の……父である。
「はっ!」
私はそれに答える。当然この部屋で魔王に命じられたことは、肯定以外許されない。否定しようものなら、魔王室に血が流れることは間違いないだろう。それは娘の私でも変わらないこと。
「最近勇者を始末したが……あれが何度も出てきては面倒だ。そこでだがなリリーよ」
ゴクリ……この先の言葉如何で私の人生を大きく動かされることとなる。それだけ絶対的権力を、この魔王……父は持っているのだから。
「勇者の卵を育てる機関。勇者学校へ工作員として潜り込み、勇者の輩出を防ぐのだ。目先の成果は得られずとも、長い目で見れば大きな徳となろう」
「承知しました。謹んで承ります」
「うむ。では早速明日に入学式とやらが開催される。そこへ潜り込め。良いな……もしもの失敗は……いや、この先は何も言うまい」
ゾクッと背筋が凍る。この魔王は……失敗すれば娘であろうと簡単に殺す人だ。この任務……絶対に成功しなくては!
自室に戻り、明日の入学式の準備を進める。まったく……魔王様も急なことを言うんだから。こっちの身にもなって欲しいわね。
「さてと……勇者の卵か……どんな子がいるのかしらね」
この胸の高鳴りは、任務遂行への決意か。はたまた失敗に終わった時への恐怖からか、それとも……
「やーめた。考えるのはナシナシ。さっさと寝て、明日に備えないと!」
というか人間界まで相当遠いから当然この部屋を出て行かないといけないのよね……あぁ、考えれば考えるほど面倒! せめて1週間は準備期間があればよかったのに……。
そんな心遣いが魔王にあるはずもないと思い。考えるのがバカらしくなってくる。もういい加減寝ないとね。明日遅刻したら、それこそ失敗への第一歩だわ。
気持ちのいい朝……というわけでは当然ない。だって命がけの任務だもの。失敗したら死ぬし、バレたら殺されるし。こんな大役を任されたのは光栄だけど、普通15の娘にやらせるかな……。
長い道のりを魔法で飛んで移動。ようやく見えてきたわね。あれが……今日から私が通う、[勇者学校]。勇者の卵たちを育て上げる教育機関!
制服は魔王の秘書第4号の人が調達してくれていた。1年生の証、赤いリボンを付けたら完ぺき! どこからどうみても勇者学校の生徒ね!
「ふぅ。あんまり乗り気じゃないけど、任務だからね、ぶっ潰してあげるわよ! 勇者候補たち!」
そう独り言を呟いて、地面に着地すると……何よ、ずいぶん騒がしい……というか、みんな私を見てコソコソと喋っている?
こちらをチラチラと伺う者、ヒソヒソ話す2人組。まさか……もう魔王軍からのスパイだとバレたの!?
いや、まだよ。まだその確証があるわけじゃないわ。
「……そこのあなた!」
「は、はいぃ!」
チラチラと伺う女の子に声をかける。
「何かしら? ずいぶん私が気になるみたいだけど?」
「え、えっと……私と同じ、新入生さんですよね? なのにもう飛行魔法を覚えていてすごいなって……」
あっ! しまった……普通の人間って教わらないと飛行魔法を覚えられないのね……。私なんか生まれつき覚えていたけど。
「ひ、飛行魔法だけ家で練習していたのよ!」
虚をつかれ、自分でも恥ずかしくなるほどあたふたする。そんな時だった。
「あ痛ぁ!」
「……ん?」
私の背中に誰かが突っ込んできた! 何!? 敵襲!?
「イタタ……ごめんなさい! お怪我はありませんか!?」
ピンク髪のツーサイドアップ……ずいぶん派手ね。まぁ個人の自由だからいいけど。
「えぇ。大丈……」
立ち上がるぶつかってきた少女に手を差し伸べ、顔を見た瞬間だった。
キュン……♡
「えっ!?」
「へ?」
無意識に声が出るほど、心臓がどくどくしている。このぶつかって来た娘の顔を見た瞬間から、心臓がうるさく鼓動する。まさか……まさかこの気持ち……恋!?
「ど、どうしました?」
私の工作任務は……とんでもない幕開けをしてしまったようです。
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『犬猿アイドル百合営業中』を新しく連載しました。そちらの方もよろしくお願いします♪