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円卓のお茶会シリーズ

円卓のお茶会 --将軍の妻-- 私を愛して下さいませ!

作者: 光政

前回、ブクマ、評価を下さり感激しております。

有難う御座います!

「---- (わたくし)、とても---- とても寂しいのです」

 盛大に音を立てて鼻を擤み、涙を流しているのは、本日の主役サリーナ伯爵夫人である。


「まあ、そんなに涙を流して。一体どうなさいましたの? 私達がいますわ、是非ともお話し下さいませ」

 優しい言葉をかけるのは、本日のホストであるミリヤ陛下だ。


 ここは円卓の茶会。

 爵位に関係なく女性であれば参加出来、この場では皆同等の立場で色事のみを話し、相談し合う場所。

 もちろん、ここでのお話しは秘密が原則であり、秘密を漏らせば社交界ではいない存在と見做される。


 本日の主役であるサリーナ伯爵夫人を囲むのは、ミリヤ陛下の他に、常連であるセリーヌ侯爵夫人と、子爵家のお若いエリー嬢、そして私の四人。


 本日も男性への戦いを表明する為、サリーナ伯爵夫人の話しを聞くべく、各々なりに姿勢を整える。


 私は、サリーナ伯爵夫人の話が始まる前に、新しいお茶を皆に用意なさいと、侍女に指示を出した。


 サリーナ伯爵夫人は、鼻を優しく拭き、目を潤ませながら、目だけで私達を順々と見ていく。


 グスッと鼻を啜る音が止むと、サリーナ伯爵夫人の鈴の鳴るような声が、ようやく耳に届き始めた。


「私が結婚した時から、それは始まったのです----」



 ******


「旦那様、おはよう御座います」


「--------」


「旦那様、お帰りなさいませ。ご無事で何よりですわ」


「--------」


「旦那様、今日の鴨肉は、柔らかくて美味しいですわね?」


「---- ああ」


 旦那様と、結婚をしたのは二年前。

 貴族にありがちな政略結婚ではありましたが、顔合わせで初めて旦那様にお会いした時、私の胸は高鳴りました。


 お父様から次期将軍様とお聞きして、お怖い方だと想像していたのですが----- お会いしてみれば、想像していたようなお怖い方ではなく、お顔は精悍でありながらも、美しかったのです。


 私は、素敵な男性に嫁げるとあって、とても幸せな気持ちで結婚式を済まし、旦那様の家に入りました。


 結婚初夜---- 旦那様は私を優しく抱いて下さいましたが、事を済ませると、何も言わず部屋を出て行かれました。その後も、義務のように寝室に来られては、事を済まし、当たり前の様に部屋を出て行くのです。


 私は---- まずはお話ししようと、旦那様を見てはお声掛けしましたが、旦那様のお返事は少なく、会話が成立しません。旦那様が、全く私を見ていない事にも気付いてしまい、寂しい日々が始まりました。


 結婚して二年。旦那様とお出掛けしたのは、どうしても出席しなければならない夜会だけ。他のご夫婦のように、演劇に行きたいと思い、勇気を出してお伺いしてみましたが、お返事は頂けないままなのです。


 旦那様は、私の六歳年上ですから、大人の女性がお好みなのかと、装いを変え努力しても、何も変わりませんでした。


 伯爵家では、執事を始め使用人達はとても優しく、実家にいた時よりも、居心地良く暮らせています。趣味である、土いじりも自由にさせて頂いて、何も不満はないのです。


 旦那様とは政略結婚ですから、私を見てくれないのは致し方ないと、自分に言い聞かせておりました。


 そんな日々を送っていると、二ヶ月程前でしょうか。将軍様に格上げされた旦那様は、家に戻らなくなり職場に泊まり始めたのです。

 心配になり執事に聞いてみれば、心配する必要は無いと言いましたが、私はどうしても気になって仕方ありませんでした。


 先日、執事が旦那様の着替えを届けに行くと言うので、私も同行し職場に足を運ぶと、執事と共に見てしまったのです。


 旦那様の執務室で、美しく色気がある騎士の女性と、旦那様が熱く抱き合っているのを---- 


 旦那様は、私には見せた事のない難しい表情で、女性の体をきつく抱きしめておられました。


 二人のお熱い空気は、扉の外にいる私にも届きまして---- 私は何も言えないまま、その場から離れ家へと逃げ帰りました。



 ******



「私、二人の抱き合う姿を見てから、涙が止まらないのです。執事は誤解だと、私に何度も言われますが、誤解だとしても、何故抱き合っていましたの? 旦那様はきっと、色気がある騎士の女性に、夢中なんですわ! 私、とても悔しいのです。 私には、色気は作れませんし--- 旦那様と、抱き合っていた女性を思い出しては、自分の幼さに嘆いて嫌になりますの」


 サリーナ伯爵夫人は、新しいハンカチを侍女から受け取ると、涙を止めないまま、鼻を噛まれている。

 噛みすぎて、もはや鼻を赤くするサリーナ伯爵夫人の手に、ミリヤ陛下が優しく手を重ねた。


「まあ、お辛かったでしょう? 一人の女性として、夫に振り回されるお気持ちは、重々分かりますわ」


 優しく微笑まれながら、サリーナ伯爵夫人を慰めるミリヤ陛下を余所に、お若いエリー嬢が挙手もせず口を開いた。


「私には、まだ旦那様がいらっしゃらないので、是非に教えて頂きたいのですが、貴族の結婚に、愛人は付き物ではありませんこと? 私のお父様にもいらっしゃいましたし、サリーナ伯爵夫人は、どうしてそのようにお辛く泣かれるのでしょう? 伯爵家の生活に不満が無いのであれば、あまり気にされない方が宜しいかと----」


 まだお若いエリー嬢は、サリーナ伯爵夫人に追い打ちをかけるよう、正論を口にする。


 サリーナ伯爵夫人は、お若いエリー嬢の言葉に直ぐ様俯くと、再び嗚咽を漏らし始めた。


「あらあら、エリー嬢はまだお若いですからね、サリーナ伯爵夫人の、心の内を想像するのは難しいのかしら? このお茶会は、自由に発言出来ますが、少しお口を閉じられた方が宜しいですわよ?」


「まあ、私にだって想像ぐらいは出来ますわよ? セリーヌ侯爵夫人こそ、サリーナ伯爵夫人の心の内を想像するのは難しいのではなくて? ご自身の表情を、是非にお鏡で見て頂きたいわ」


 セリーヌ侯爵夫人は、扇子で口元を隠しながらも、目は愉快そうに笑っている。一方お若いエリー嬢は、不愉快さを前面に出した態度で、扇子を閉じ握り始めた。


「お二方、本日の主役はサリーナ伯爵夫人ですのよ。勝手にお遊びを始められては困りますわね。サリーナ伯爵夫人が、お口を閉じられてしまいますわ」


 私は、お茶会を円滑に進めるべく、火花が飛ぶ二人の間に立ち塞がる。こういった遊びを仕掛けるセリーヌ侯爵夫人に、私は楽しみながらも釘を刺した。


 セリーヌ侯爵夫人は、クスクスと笑いながら、扇子を鼻の先まで持ち上げて、私を一見する。


「お戯は良しなさいな、サリーナ伯爵夫人の涙が止まってしまいましたわ。セリーヌ侯爵夫人も、少しは自重しては如何です?」


「あら、涙が止まったのなら宜しいのでは? そのまま泣かれては、お体から水分が消えてしまいますわよ。サリーナ伯爵夫人、泣くのを止めたのなら、お聞きしても宜しくて? 貴女は旦那様である将軍様に、何を望まれていますの?」


 ハンカチを握りしめ、俯くサリーナ伯爵夫人の口が開くのを静かに見守っていると、お若いエリー嬢は気を揉んで仕方ないのか、身体をソワソワと動かし始めた。


「お辛いのでしたら、問いに答えなくても宜しくてよ? お気持ちをお話して楽になりたいというのでも、このお茶会は良いのですから」


 ミリヤ陛下が、優しく声を掛ければ、サリーナ伯爵夫人は、バッと音がするように顔を上げて、再び涙をボロボロと流して口を開く。


「私---- 私を愛して欲しいのですぅ----。幼い私ですが、旦那様に妻として愛されたい---- 私を---- 私だけを見て欲しいのです!」


 うわぁーん、と声を張り上げて泣く様は、小さい子供のようだがこのお茶会では許される為、主役の誰もが叔女の仮面を脱ぎ捨ててきた。


 質問したセリーヌ侯爵夫人は涙腺に響いたのか、グスッと鼻を啜ると、目から涙を溢した。お若いエリー嬢は、セリーヌ侯爵夫人の涙を見て、クスクスと笑い出す。ミリヤ陛下は泣く主役と、笑うお若い子に挟まれ、珍しく困っているようだ。


「皆様、何か意見があれば挙手を。無いようでしたら、私から宜しいかしら?」


 皆に注目してもらうよう小さく咳払いをし、視線が集まるのを待つと、扇子で口元を隠した。


「サリーナ伯爵夫人は、旦那様に見て頂きたい、愛されたいと仰いましたわ。色気ある騎士の女性は、一度置いとくとして---- ここは、円卓の茶会メンバーが大好きな、あの作戦なんて如何かしら? ミリヤ陛下にセリーヌ侯爵夫人は、何度か参加されてますわよね?」


「あらぁ、久しぶりですこと。以前はシルビー伯爵の時でしたわね」


「あの時は可笑しくて、お腹が千切れるかと思いましたわ。今回はどんな結末になるのやら」


 ミリヤ陛下とセリーヌ侯爵夫人が体を震わせる中、お若いエリー嬢は、何の事か分からず首を傾げている。


「あ、あの---- 私に、私にも作戦を教えて下さいませ」


 サリーナ伯爵夫人は涙を流しながらも、作戦が気になるのか、体を前に勢いよくのりだし両手を胸元で握りしめた。

 お若いエリー嬢も、早く作戦を聞きたいご様子。目だけで早く教えてと、私に訴えているのがひしひしと伝わる。


 お茶で喉を潤し姿勢を正すと、首を動かしながら皆の表情を伺う。ミリヤ陛下とセリーヌ侯爵夫人の頷く仕草に頷き返した後、私はゆっくりと口を開いた。



 ******



 窓から見える風景に、懐かしく感じながらも溜息が止まらない。そんな私の近くに座り、優しく見守って下さるのは王弟であるルクセン公爵様。


 円卓の茶会の翌日、伯爵家を出て二日かけて実家に辿り着けば、ルクセン公爵様が既に到着されていた。


 ----- 円卓の茶会を取り仕切る、ルクセン公爵夫人が寄越して下さったけど---- 何だか申し訳ないわ。


 ルクセン公爵様に、奥様から事情を詳しくお聞きしているのかも聞けないまま、実家に二人で滞在して三日。何事もなく、今日に至る。


 実家にいる私の両親は、何故ルクセン公爵様と私が家にいるのか、顔を合わせる度に繰り返し聞かれた。私はどう説明するべきか悩み、その度に頭を抱えてしまう。


 ----- 作戦では、ただ実家に居ればいいと言われたけど、このままで本当に良いのかしら? 待つだけって、何だか焼きもきするわ。


 ルクセン公爵様とお茶を飲みつつ、たわいも無い会話をしていると、扉の外が何やら騒がしくなった。


 音を拾うよう、会話を止め耳を澄ませていると、ルクセン公爵様は何やら楽しげな顔をされて私を見ている。


 (はてな)と思っていれば、勢いよく音を立てて扉が開き、髪を乱し息せきを切らした旦那様が現れた。


「------ 二人で何をしている?」


 初めて聞く、旦那様の低い声に憂慮しつつ無言でいると、旦那様はルクセン公爵様の元へと大股で歩み寄る。それを見て立ち上がったルクセン公爵様は、旦那様と対峙されたのだが、表情は変わらず楽しげにされたまま。


 ------ あんな乱れた姿初めて見たわ。いつもきちんとしているのに、何だか知らない男性みたい----


「なぜ、ルクセン卿がここに居る?」


「やあ、ジーク。そんな顔をしてどうしたんだい?」


「----- 私が聞いているのだ。何故私のシルビアと二人でいるのか、答えて貰いたい」


「私のシルビアだって? 君は家にも帰らず、執務室で美しい女騎士と抱き合っていたそうじゃないか? そんな事、言える立場じゃないだろう?」


「なっ! 私が女騎士と抱き合っていただと?」


 ルクセン公爵様は、睨む旦那様に怯む事なく、楽しそうに会話を続けられている。それにしても、私のシルビアって---- 聞いた事ないわ。


 見た事がない旦那様の表情や仕草に、私は何だか目が離せずにいた。


「サリーナ伯爵夫人は、二人が抱き合っている姿を見たようだよ。私は、サリーナ伯爵夫人の泣く姿に心痛めてね、慰める為に一緒にここへ来たんだ」


 私を慌てて振り向く旦那様は、瞳を大きく揺し動揺されているのが見ていて分かる。ルクセン公爵様に任せてばかりいられないと、ドレスを強く掴みながらも真っ直ぐ旦那様を見つめた。


「わ、私見たのですわ。執事と着替えを届けに行きましたら、旦那様は色気たっぷりの女性騎士の方と、抱き合っておられました。私、それから悲しくて---- ルクセン公爵様に慰めて頂きましたのよ」


「な、誤解だシルビア! 執事からは何も聞いてないのか?」


「いえ、執事からは誤解だと何度も聞きましたわ、それでも--- それでも私は信じていませんわ! 旦那様は年上ですから、幼い私より、大人の女性がお好みなのでしょう? だって、私と一緒に朝までは寝て下さらないし、月一度、義務のようにしか抱いて下さらないわ! 会話もしてくれませんし、何より---- 私を、私を見ても下さらないわ!」


「シ、シルビア---- 俺の、俺の話を聞いてくれないか?」


「まあ! 私の話は聞いて下さらないのに、旦那様のお話を聞けと申しますの?! 何て酷いのでしょう。私二年も我慢しましたのよ? しかも旦那様は俺と言いますのね、こんな時になって初めて知りましたわ!」


 ツンっと顔を逸らし、怒りを露わにする私に驚いたのか、旦那様は私の名前を弱々しく口にされた。


 ------ 何だか悲しかったのが嘘のようだわ。絶対、許してやるもんですか。


「まあまあ、サリーナ伯爵夫人も落ち着きなさい。ジーク、君は奥さんを放置してたのかい? そうならここまで言われても仕方ないな」


「----- 私は、シルビアを放置したつもりはない」


「嘘よ! 私が演劇に行きたいとお伺いしても、何も答えてくれなかったわ! それに---- 放置していないなら、何故家に戻りませんの? 二ヵ月も一人でいましたのよ!」


「シルビア、俺は君を心配したんだ。いつも遅くまで寝ずに俺を待っているだろう? 将軍に格上げした時、した事がない仕事ばかりで--- 前より帰宅時間が遅くなれば、シルビアが心配するだろうと職場に泊まっていたんだ。仕事が落ち着けば、家に戻るつもりで------」


「そんな事! 口では幾らでも言えますわ! 私、もう旦那様の家に一人でいるのは嫌ですわ、もう耐えられないのよ!」


 私が言葉を強く吐き出せば、旦那様は私に近づいて、ギュッと強く抱きしめられる。抱きしめられた筈なのに、今は嬉しくない。


「離して! 色気ある女性がお好みなのでしょう? 私なんか、目にも入らないのでしょう?」


 目から涙が溢れ出て、旦那様の制服に涙が染み込んでいく。久しぶりに旦那様の匂いと温かさを感じて、体に入る力が抜けていった。


「シルビア。寂しい思いをさせていたとは知らなかった。俺は--- シルビアを愛おしく思っている。一緒に寝ないのも、月に一度しか寝室に行かないのも、まだ若いシルビアを壊してしまいそうで怖いんだ。それに、シルビアは可愛すぎて、顔を直接見るのが恥ずかしかった---- 大人の余裕を見せたくて必死だったんだが---- 本当情けないな、俺は」


 先程よりも強く抱きしめられて、少し体が痛く感じるが、旦那様の言葉を表しているようで、何だかくすぐったい。私の事、本当に愛しく思ってるのかしら----


「旦那様---- で、でも、女騎士と抱き合っていたのはどう説明されるのです? 私の事を想っているのなら、何故愛人を作られるのですか?」


「----------」


 中々返事をしない旦那様に苛立ちが募り、胸元にある顔を旦那様のお顔が見えるよう横に動かす。


 旦那様の表情を目だけで下から見れば、何やら考えているのか眉間に強くシワが寄っている。


「失礼致しますわね。旦那様を迎えに参りました」


「シェーナ、やっと来てくれたね、出来ればもう少し早く来て欲しかったよ」


「あら、申し訳ありませんわ。サリーナ伯爵夫人にサリーナ閣下、ご挨拶が遅れてしまいましたわ。ご機嫌よう」


 ルクセン公爵夫人は、優雅に微笑みながら旦那様であるルクセン公爵様と共にソファへと腰を下ろされた。ルクセン公爵夫人の存在に、少しだけ安心する。


「それで、これは一体どういう状況ですの?」


「ジークがサリーナ伯爵夫人に愛を告白したんだけど、愛してるなら何故愛人を作るのかって言い返されて、ジークは無言のまま返事をしないんだ」


「あら、そうでしたの。何故ジーク様は返事をされないのかしら?」


「私にもさっぱりでね。痛い所を突かれて困ってるんじゃないかな?」


 公爵夫妻の話を聞いていると、旦那様の体が小さく震えだした。


「----- 私には、愛人はいない! 抱きしめていた女騎士とやらも思いつかないのだ!」


「ジーク、サリーナ伯爵夫人は見たんだよ? 嘘はやめた方がジークの為にも---」


「嘘はついていない! 嘘はついてないんだ---- シルビア信じてくれないか?」


 私の体をそっと優しく離し、瞳をぶつける旦那様は嘘をついているようには感じられない。じゃあ、あの女性は誰なの?


「わ、私が見たのは、一体何でしたの? 黒髪の色気ある長身の方と抱き合っているのを、はっきりと見ましたのよ?」


「あら、まあまあ----」


「ジーク、それってもしかして---- サザンナじゃないか?」


 公爵夫妻が体を震わせて、仲良く体を寄せながら笑いを堪えている。何故笑うのか全く分からず、首を傾げながら旦那様に視線を戻すと、旦那様は片手で顔を覆っていた。


「シルビア? シルビアが見たのは黒髪の長髪で間違いないな? 制服も黒ではなかったか?」


「えぇ、間違いなく黒でしたわ。背もお高くて---」 


 公爵夫妻の笑い声が飛び出して、私は唖然とする。


 ---- 何がそんなに可笑しいのかしら? 私何か変な事言っているの?


 そう思っていると、旦那様は少し体を震わせたが息を長く吐き出し、片手を顔から外すと、私の両肩に両手を置かれた。旦那様の何処となく真剣な表情に、小さく胸が音を立てる。


「シルビア。良く聞いてくれ---- あの日シルビアが見たのは、女騎士ではない。俺の義弟だ」


「------義弟? 男性?」


「そうだ。妹が結婚を承諾したから、あの日感極まってサザンナは俺に抱きついてきたんだ。」


 ------------------


「そ、そんな、私恥ずかしいですわ!」



 ******



 シェーナ.ルクセン様


 先日は、お力を貸して頂き有難う御座います。ルクセン公爵様にも、是非にお礼を伝えて下さいませ。


 私の勘違いではございましたが、旦那様に愛されていると分かり、今はとても幸せな気持ちで日々を過ごせております。全ては円卓の茶会のお陰だと、感謝してもしきれません。


 伯爵家に戻ってから、旦那様は職場に泊まるの止めて、私と一緒の寝室で休まれるようになりました。

 抱きしめられて眠ったのは初めてでしたが、旦那様を近くに感じ愛される喜びを、噛み締めております。


 私も、今度は泣かれる女性のお力になりたいですわ。

 次の円卓の茶会には、是非にお呼び下さいませ。


 それではまたお会いする日まで。 ご機嫌よう。


 シルビア.サリーナ


 手紙から目を離すと、セリーヌ公爵夫人がハンカチで目元を抑えていた。ミリヤ陛下は、そんなセリーヌ公爵夫人の背を優しく撫でられている。


 サリーナ伯爵夫人が家に戻られた後、サリーナ閣下は私の旦那様の所へ謝りに来られたそうだが、これは私の胸に秘めておこうと思う。


 円卓の茶会は、まだまだ続く。


 次の主役は、エレン子爵夫人。ホストであるセリーヌ公爵夫人と共に、私は準備を始めた。


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