毎日顔を踏みつけてくる幼馴染を徹底的に排斥する話
流行りを見ていて思いついたので書いてみました。
「……でさあ」「わかる!」「嘘でしょ?」
休み時間の教室内、生徒達が他愛もない会話をしている。
そんな中、女子生徒の椅子の下に横たわり、震えている男子生徒が一人。
男子生徒の名前は小節七郎、彼は女子生徒に命令されて椅子の下に横たわっている。
七郎にそのような命令を下した女子生徒の名前は曰佐奈澄。
このクラスのカースト最上位に位置する美少女である。
そして、黒パンストを履いている奈澄の足は、上履きを脱いだ状態で七郎の顔の上に置かれていた。
他の生徒達はそれを気に留めない。
奈澄の周りに集まり、下らない話をしている彼女の取り巻き達も、七郎のことを見ようとしない。
明らかに異様な光景にも関わらず、この教室ではそれが日常のようであった。
「……」
突如、奈澄の足の下に無言で横たわり、震えていた七郎の顔が、何かを決心したかのように険しくなった。
「なあ奈澄、もうこんなことは止めてくれ」
「うん? 誰か何か言いまして?」
奈澄がキョロキョロと周りを見回す。
「こっちだ」
机の下を覗き込んだ奈澄と七郎の目が合った。
「あら七郎、どうかしましたの?」
「顔を足で踏むのは止めてくれと言ったんだ」
「え、それは一体何故?」
心底疑問という表情の奈澄。
「こんな、人の尊厳を踏みにじるような真似をするのはもう止めてくれ」
「踏みにじるなんて、心外だわ。あなたはこうされるのが当然の底辺なのよ?
むしろ、嬉しいんでしょう? 私に踏まれて」
「こんなことされて嬉しい奴など……、いない」
奈澄はふうとため息をついた。
「……本来なら底辺のあなたと私に接点など無かったでしょう。
でも、幼馴染だからという理由で私に踏んで貰えるのですよ?
自分の境遇に感謝したほうが良いと思いますわ」
「そうよそうよ」「踏んで貰ってありがとうございます、でしょ?」「贅沢なやつ」
あまりにもあんまりな奈澄の言葉。だがそれに、同調する取り巻き達。
「そうだな。俺も今までそう思っていた。
だがここまでだ。もうお前に踏まれるのはゴメンだ」
「七郎、本当にどうしたの?」
「いいから足をどけろ」
奈澄は七郎の顔の上から足をどけ、上履きを履いた。
椅子の下から立ち上がる七郎。
「これから俺はもうお前の足置きになることはない」
「そう。それより七郎、前髪が乱れて目が見えているわ。すぐに隠しなさい」
七郎の言うことなど意に介さないとでも言うように、奈澄は表情を変えず七郎の前髪に手を伸ばす。
七郎は奈澄の指示で前髪を伸ばし、目を隠していた。このため、5.0あった七郎の視力は1.5まで下がった。
「触るな」
「!」
七郎は奈澄の手を払いのけた。それに驚く奈澄。
「奈澄、もう俺に話しかけるな」
七郎は自分の席へと戻り、次の授業の準備をしだした。
「何だアイツ」「許せない」「底辺のくせに」
「止めなさい」
奈澄は七郎に敵意を向ける取り巻き達をなだめた。
だが奈澄の目は相手の体から発せられる情報を一つとして逃すまいと、大きく見開かれ七郎を見つめていた。
次の日。
「な……」
奈澄は七郎の姿に驚愕していた。
七郎はこれまで、奈澄の指示で髪を伸ばし目を隠していた。
だが今日の七郎はその髪を切り、短髪にして目を出していた。
「はあああ」「カッコイイ……」「え、誰?」「クラスにあんな人いた?」
眉目秀麗といって差し支えないその顔は、教室の女子たちの目を釘付けにした。
女子たちの様子を見て慌てた奈澄は七郎に詰め寄った。
「七郎、何故髪を切ったのです?
あなたの顔は他の人に見せては駄目だと何度も言ったでしょう」
「話しかけるなと言っただろ」
七郎は奈澄の目を見ない。
「今日も足置きにならないつもりですか?」
「……」
「そう、それなら私にも考えがあります」
そう言い残し、奈澄は七郎の席から去っていった。
***
数日が経つと、七郎はクラスの上位グループの仲間入りを果たしていた。
「まさか七郎がこんなに面白い奴だったとはな」
「頭も良いし、スポーツもできる。なんで今まで目立たなかったんだ?」
「そりゃ曰佐が抑えつけてたから……」
「おい」
「あ」
七郎の周りにいた生徒達が慌てて口を閉じ、場所を空ける。
七郎の席に奈澄がやってきたからである。
七郎の席のすぐ傍に立ち、椅子に座っている七郎を上から見下ろす奈澄。
「……」
だが七郎は奈澄を見ようとしない。奈澄が口を開く。
「登利、牧田」
「「了解しました」」
奈澄の目配せを受け、奈澄の取り巻きの筆頭二人、登利と牧田が七郎の肩を掴んだ。
「おい、放せ」
抗議する七郎を無視して、登利と牧田は七郎を椅子から下ろし、床に抑えつけた。
そうなって初めて、七郎は奈澄に対して話しかけた。
「おい奈澄、止めさせろ」
七郎の声は怒気を孕んでいたが、七郎に話しかけられたことが嬉しかったのか、奈澄は顔をほころばせた。
「あなたが悪いのですよ、七郎」
牧田がタオルを取り出し、七郎の背中に敷いた。
「私を無視するなんて、許せません」
七郎の背中に敷かれたタオルを、奈澄は上履きのまま踏みつけた。
「うっ」
うめく七郎。
「おい曰佐、やめてやれよ」「そうだよ、七郎君が可愛そうだよ」
奈澄を止めようとする上位グループの生徒達。
「何か言いましたか?」
奈澄に睨まれ、彼等はすくんだ。
「七郎、私が思い出させてあげます。あなたが私の足置きが似合いの底辺だということを」
踏みつけた足で、七郎の背中をグリグリする奈澄。
「ぐううっ!」
上履きの固い部分が背中の骨に押し付けられ、その痛みに七郎の顔が歪む。
「やめて!」
陰惨を極める現状に、割って入ったのは一人の女子生徒であった。
「……誰です?」
その女子生徒の名前は紀伊凪春。
クラスの中でまったく目立たず、空気のような存在であった彼女を、奈澄は認識すらしていなかった。
紀伊の割り込みに、登利と牧田は七郎を抑える力を弱めた。
その隙に二人の手から抜け出す七郎。
「紀伊さん、こっちへ」
七郎は紀伊の手を引き、教室を出ていった。
「あ、待ちなさい。七郎!」
奈澄の制止を七郎は振り切った。
二人が教室を出ていくと、女子生徒達が騒ぎ始める。
「あの二人やっぱり」「そうだよね」「絶対そう」
「何です? 何がそうなのですか?」
取り乱し、女子生徒達に迫る奈澄。
クラス内にはいつの間にか、七郎と紀伊は恋仲であるという噂が飛び交っていた。
知らなかったのは奈澄だけであった。
「そんな……、七郎……」
奈澄は暫くの間、七郎の席の傍に立ち尽くした。
それから数日後。
七郎への陰惨な行為を止めろと、クラスの生徒達が奈澄及び奈澄の取り巻き達に申し付けた。
徹底抗戦の構えを見せる奈澄。
だが取り巻き達は一人また一人と奈澄の元から去っていき、やがて取り巻きの居なくなった奈澄はクラスから孤立することとなった。
この状況を奈澄は納得できなかった。
これまでは七郎を踏みつけるのが日常だったのに、何故こんなことになったのか?
何故七郎は自分から離れていったのか?
あの紀伊という女子が七郎に余計な入れ知恵でもしたのか?
考えても答えは出ない、行動あるのみ。そこから奈澄の苦難の日々は始まった。
「ねえ、少しいいかしら」
「……」
今、奈澄が話しかけたのは取り巻きの筆頭だった登利である。
だが登利は奈澄を無視した。
登利だけではない。クラスの誰も、奈澄と話そうとしなくなった。
すがるように七郎の席へと向かう奈澄。
「七郎……」
「行こう、紀伊さん」
七郎はほとんどいつも紀伊と一緒におり、奈澄が近づくと去っていく。
クラスのカースト最上位に位置していたはずの奈澄は、今では最下位。底辺であった。
「何故……、どうして……、七郎……」
奈澄は学校を休むようになった。
「うう……、ううう……」
自分の部屋のベッドで布団をかぶり、泣き続ける奈澄。
ピロン
暗い部屋の中でスマホが光る。
パインというSNSアプリが、メッセージが来たことを通知したのだ。
奈澄は恐怖した。パインは少し前まで取り巻き達との交流に良く使っていたアプリである。
だがここ数日はまったくメッセージが入らない。
自分を非難する内容だったらどうしよう。
七郎からのメッセージだったらどうしよう。
誰かがイタズラで送ったメッセージで、既読になるのを見て笑うつもりだったらどうしよう。
色々な考えが浮かび、奈澄はスマホを手に取る勇気が中々持てない。
長い葛藤の末、奈澄はスマホを手に取り、簡易通知からメッセージの一部を見ることにした。
『パーティー開催のお知らせ』
「……パーティ?」
奈澄はパインを起動し、メッセージを読んだ。
それは生徒主催のパーティで、クラスの生徒だけで集まり、バカ騒ぎしようという話であった。家が金持ちの生徒が金を出し、場所を借りたらしい。
メッセージを読み終えたところで、奈澄はいぶかしんだ。
私宛にメッセージを送るつもりではなかったのに、間違えて送ったのではないか。
そんなパーティなど本当は無く、会場に来た私を笑うつもりではないか。
本当にパーティがあったとして、行ったところで私に居場所などあるのか。
パーティに行くかどうか、奈澄は悩んだ。
正直行きたくない。だがこのままずっと家で引きこもり続けるわけにはいかない。
七郎に会いたい。会って顔を踏みつけたい。パーティに行けば七郎に会えるかもしれない。
奈澄はパーティに参加することを決心した。
***
ガヤガヤと、人の話す声が聞こえる。
「……」
奈澄は恐る恐るパーティ会場の扉を開いた。
扉の近くに居た生徒と奈澄の目が合ったが、生徒は目をそらした。
会場にはテーブルがいくつか置いてあり、その上には食べ物や飲み物が置いてあった。
会場の中心付近に居る女子生徒達が、会場に来た奈澄をみつけてヒソヒソ話を始めた。
「ねえ……」「あれ……」「クスクス」
いたたまれなくなった奈澄はうつむいたまま移動しようとし、足元に差した影に顔を上げた。
そこに居たのは七郎であった。
「……奈澄、来てしまったのか」
奈澄は七郎の顔を見た。残念そうな顔だ。
七郎はパーティーに奈澄が来たことを残念に思っているのだ。
こんなにもはっきりと嫌われてしまっていた。
そう思い、奈澄は深く絶望したのち、歓喜した。
無視ではなく、嫌悪してもらえた。七郎に意識されているという事が分かったのだ。
『他の誰に無視されようとかまわない。七郎にかまって貰えるのなら私は――』
「こ” ん” に” ち” わ”」
突然、ノイズだらけの音声が会場全体に響き渡った。
「お?」「何だ何だ?」「何か始まるのか?」
誰かの用意したサプライズか何かかと、生徒達が湧き立つ。
「あ”ー、ん”んー……、これでいいかな?」
音声からノイズが消えた。
「皆このパーティーに参加してくれてありがとう。」
皆音声に耳を傾けている。
「今日は大いに楽しんでいってね」
「なあ、これ誰の声だ?」「さあ?」
クラスの生徒は全員その場にいる。
部屋の外で語っているらしいその声の主が誰なのか、生徒達は皆わからないようであった。
「さあ、早速始めよう――
――デスゲームを」
「……ん?」「今なんて?」「デスゲーム?」
ガシャン!
突然音を立て、会場の扉の上から鉄板がおりてきた。
「え、ちょっと」「な、なんだよこれ!?」「開かないぞ!」
鉄板を叩き、慌てる生徒達。
「デスゲームって……、主催者から提示された危険なゲームに挑むやつ?」
「参加者全員で生き残りを賭けて戦うとか、そういうあれか?」
「ドッキリだろ?」
生徒たちの説明台詞が飛び交う。
「奈澄、こっちへ来い」
「え!?」
七郎は奈澄の手を取り、誰も居ない会場の隅へと連れて行った。
突然七郎に手を握られ、ドギマギする奈澄。だがすぐに冷静さを取り戻す。
「七郎のくせに気安く触らないで下さい」
奈澄は七郎の手を振り払った。
「急に何ですか、あれほど私を遠ざけていたくせに」
「ここに来てしまったならもうお前を遠ざける理由は無い」
「え?」
ならもう七郎の顔を踏んでも良いのか?
奈澄の頭にそんな考えがよぎったが、深い絶望を知ってしまった彼女は、都合の良い話を簡単には信じない。
ここ数日学校に行っていなかった奈澄は、一つの悪い考えに辿り着いた。
デスゲームなど本当に実施しようとする者など居ない。クラス全員で口を合わせ自分を騙して笑おうとしている。奈澄はそう考えた。
「七郎、クラス全員で私を騙すつもりでしょう。そうはいきませんよ」
「いいや違う。これは本当のデスゲームだ」
七郎は冗談を言っていない。幼馴染である奈澄にはそれが分かった。
「何故わかるのです?」
「俺はこの数十日をもう何十回と繰り返している」
「え?」
「タイムリープだ」
タイムリープ。時間移動。それこそ、到底信じられる話ではない。
だが、またも七郎は冗談を言っていない。幼馴染である奈澄にはそれが分かった。
「タイムリープって、何故あなたにそんなことが出来るのです?」
「そいつは話せば長い。今は置いておけ」
「……何度もこのデスゲームを?」
「ああ、そしてこのゲームから全員生還させるのが俺の目的だ。だからお前を遠ざけた」
それを聞き、奈澄はあまりの幸福感に気を失いそうになった。
七郎は奈澄に踏まれるのが嫌だったわけではない。
奈澄を守るために踏まれるのを拒否したのだ。
「……私は死ぬのですか?」
「死なせない」
七郎は奈澄の手を握り、真剣な目で奈澄を見つめた。
奈澄は蕩けた。
七郎は話した。
奈澄を生存させるには、ゲームに参加させないのが確実だったため遠ざけた。
ゲームを安全にクリアするには多くの協力者が必要なため、上位グループに仲間入りした。
恋仲を噂された女子、紀伊は完全記憶能力という見たもの全てを記憶できる能力を持っており、ゲームクリアの鍵となる人物であったため、近づいた。
「タイムリープしていること、何故もっと前に話してくださらなかったの?」
「既に何パターンも試した。お前が死ぬからダメだ」
タイムリープを明かすパターンだと奈澄が死ぬらしい。
「そうですか。でも、あんなに辛い目に合うくらいなら、いっそ死んだ方が……」
「何度も言わせるな。絶対に死なせないぞ」
七郎は再び奈澄の手を握り、真剣な目で奈澄を見つめた。
奈澄は再び蕩けた。
***
「いやー、あの時は死んだと思ったな」「そうだなあ」「よく全員生きて帰れたよね」
休み時間の教室内、生徒達が他愛もない話をしている。
そんな中、女子生徒の椅子の下に横たわり、震えている男子生徒が一人。
男子生徒の名前は七郎、彼は女子生徒に命令されて椅子の下に横たわっている。
七郎にそのような命令を下した女子生徒の名前は奈澄。
このクラスのカースト最上位に位置する美少女である。
そして、黒パンストを履いている奈澄の足は、上履きを脱いだ状態で七郎の顔の上に置かれていた。
他の生徒達はそれを気に留めない。
奈澄の周りに集まり、下らない話をしている彼女の取り巻き達も、七郎のことを見ようとしない。
明らかに異様な光景にも関わらず、この教室ではそれが日常のようであった。
やがて七郎の呼吸が荒くなり、鼻息が奈澄の足裏をくすぐる。
「ンフーッ!」
「ちょっと七郎、くすぐったいです」
奈澄は机の下を覗き込み、七郎の顔を足でグリグリした。
「んおおおおっ!」
七郎の体は快感に打ち震えていた。
終わり
お読みいただきありがとうございました。
この作品のノリが受け入れられるようでしたら下記作品も覗いてみてください。
『妹が魔物化したけど可愛いので元の姿に戻したくない』
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