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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第2章 そして彼女は動き始める。
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第28話 そして彼ら彼女らは演説に臨む。(5)(すず side)

更新遅れましたm(_ _)m

     ◇◇◇◇◇



「佐藤。演説、完璧だったよ。練習の成果だな」

「う、うん! 水瀬くんのおかげだよ。ありがとう」


 最初の二人の演説も無事終わり、小春を誉める水瀬くんをジト目で見つめるかおりに、私は思わず苦笑した。


「かおり、もう準備は万端なの?」

「当たり前じゃん。完璧だよ」


 ふんっ、と鼻を鳴らして、かおりは水瀬くんに言う。いよいよ次はかおりの番だというのに、案外落ち着いているようだ。


 かおりの次はもう亮で、そしたら最後の私の番。私なんて今から心臓バックバクだ。


 まあそれでも、あいつにくすぐられたおかげで、少しはリラックスできているかもしれない。


「以上のことから、私はかおりさんこそが生徒会長にふさわしいと、強く推薦します。どうか皆さんの清き一票を藤宮かおり、藤宮かおりによろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました」


 茜さんの演説が終わったらしく、体育館から大きな拍手が聴こえてくる。


「よし! 行ってくる!」


 かおりは両手で自分の顔を挟むように頬っぺたを叩き、気合いを入れて舞台袖から出ていった。


 演台に向かいながら、茜さんと少しだけ言葉を交わして、そして凛とした表情で堂々と正面に向き直る。


「こんにちは。このたび生徒会長に立候補しました、藤宮かおりです」


 そして、彼女はすらすらと演説を始めた。



     ◇◇◇◇◇



 やばい。やばいやばいやばいやばい。


 かおりの演説も中盤に差し掛かり、私の心中はかき乱されていた。


 演説の内容が、丸被りしたのだ。


 細かな部分までそうというわけではないけれど、一番重要な核となる部分が丸々同じだった。


「(聞いてないよ……)」


 私が見栄を張って、亮に自分の原稿を見せなかったのも悪かった。あいつにけしかけられて立候補したとはいえ、部活もあるだろうしあいつには頼るまいと変に気を遣ってしまったのがいけなかったんだ。


 原稿を確認してくれた先生は立候補した三人でそれぞれ違っていたし、お互いの原稿の中身を見せ合ったりなんかもしなかった。


 そこで先生が気づいてくれていればなんとかなったのかもしれないけれど、もう後の祭り。


 今にして思ってみれば、転校初日に誰かが言っていた。

 転校生が一年に二人も同じクラスに来るおかしくないのか、みたいなことを。


 水瀬くんたちが私の家に来た時に話していた、なんで私がこのクラスに転校してこれたのかという話も、私はなんで都合よく亮のクラスに編入できたのか、という意味だと思っていたけれど、そうじゃなかったんだ。



 ――私は知らなかった。かおりが転校生だったということを。


 そして、転校してきた私にだからできることがあると思って、原稿を考えていた。


「おい……おい! 大丈夫か?」


 ふと、肩を揺さぶられて、私は肩を上げる。亮だ。


「とりあえず、あんまり気負うなよ? 俺はもう行くからな」

「う……うん」


 私が焦っている間にかおりの演説は終わっていて、亮が早足に舞台へ行ってしまう。


 次はもう私の番だ。


 まずい。このままだとかおりとほとんど同じ内容の演説をすることになる。


 何か代案はないか。そんなことを考えている間にも、刻一刻と時間は過ぎていく。


 そもそも、どんな演説をすればいいんだっけ? 最初はなんて言って演説を始めるんだっけ? 


 思考がまとまらない。頭に入っていたものが次から次へと霧散してしまう。


 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 このままじゃ失敗して、亮と同じ部活に入れなくなる。亮と一緒にいられなくなる。


 手足は私の意思なんて無視してガタガタと振動するし、背筋には悪寒が走る。



「――――――おい! お前の番だぞ」



 そんな手を握って、震えを止めてくれたのは亮だった。


「……え? 亮、演説は……?」

「もう終わったよ。次はお前の番」

「え……」


 私がわなわなと震えている間に、もうそんなに時間が経っていたなんて。


 頭が真っ白なままの私を、亮が腕を引いて立ち上がらせる。


「あのな、いくら準備してたって失敗するときもあるだろ? だったらいろいろ考えてないで、とりあえず行ってこいよ。お前が今一番伝えたいことを言ってこい」

「……うん」


 私は言われるがままに、とぼとぼと演台に歩いた。


 そうだ。こういう時のために念のため原稿を持ってきて――。


 途中、そんなことを思って、首を横に振る。


 ――持ってきて、ない。教室に置いたままだ。すっかり忘れてきてしまった。


 気を取り直してマイクの前に立ち、まずは大きく息を吸って、そしてゆっくりと吐く。


 目の前には人、人、人。


 鳥肌が立つ。なんて言って始めればいいのかも分からない。すべてどこか遠くへと飛んで行ってしまった。


 やっぱり私はダメなんだ。亮が思っていた通り根っからの人見知りで、それはこの歳になったって変わらなくて。ちょっとしたことですぐにパニックになって、人前では緊張して上手く話せなくて。



『――――だったらいろいろ考えてないで、とりあえず行ってこいよ。お前が今一番伝えたいことを言ってこい』



 ついさっき貰ったばかりの、亮の言葉が頭に流れる。

 

 それはとても暖かくて、優しくて、私の背中を押してくれる。そんな誰よりも聞き慣れた、大好きな人の声。


 私が今言いたいこと。伝えたいこと――。


 頭の中はちょうどいいことに空っぽだ。何を考える必要もない。


 私が、私自身が今、心から伝えたいこと。それは――。


「わたっ……」


 キーン、とスピーカーから、耳をつんざくような高音が体育館に響き渡る。


 もう一度大きく息を吐いて、会場も静寂に包まれて。



「私は――」



 私は、今一番伝えたいことを口に出した。


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