第27話 そして彼ら彼女らは演説に臨む。(4)(茜 side)
更新遅れました。すみませんm(__)m
◇◇◇◇◇
「私が生徒会長に立候補した理由は――」
佐藤ちゃんが演説を始めたのを確認して、私は舞台袖へと入った。
「茜、もう次でしょ? 準備はできてる?」
「うん。大丈夫」
直前に応援演説を終えた奏太に言われて、すぐにそう答える。
「大変だよね、生徒会長って」
「なに言ってるの。かおりちゃんもなるんでしょ」
「えへへ、そうなんだけどさ……」
かおりちゃんは自信なさげに視線を落とした。
うちの高校では次期生徒会長選挙の司会は現生徒会長が行うというのが生徒会の伝統となっているので、きっとそのことを言ったんだろう。確かに準備の時間はほとんど取れないし、他の演説者に比べたら大変なことは間違いない。今だって、佐藤ちゃんの演説が始まるまでの司会は私が務めていたし、自分の応援演説が終わったらまた司会に戻らなくてはならい。
生徒会の役員に比べて、生徒会長の負担が明らかに大きいことも、体験してきた私が身をもって知っている。そのことをかおりちゃんにも伝えたつもりだ。
ただ、悪いことばかりではないということもまた、一年間体験してきた私だからこそ断言できる。他では絶対にできないような経験だと心から感じたし、大勢の前で話すことだって何度もあった。そのおかげで私も今では、ちょっとやそっとじゃ物怖じしなくなった。
「佐藤さんの演説、すごいちゃんとしてるし」
「大丈夫。かおりちゃんだって負けてないくらい良い内容だよ」
「そうくんも佐藤さんが勝つって言ってたし」
「それはこいつが佐藤ちゃんの応援責任者だからだよ」
ここまで来て急に不安になってしまったのか、いつもの彼女からでは考えられないくらい弱気なかおりちゃんに、私は言い聞かせるようにして言葉を選ぶ。
「……ほんとに?」
「ほんとだよ。ねっ?」
話しの流れで佐藤ちゃんの演説を真面目な顔で見つめている愚弟に目を向けると、かおりちゃんも同じように視線を送った。
「えっ……あぁ、うん」
「…………」
私たちからの視線に気づいて、なんともすっきりしない返事をする奏太。
いや、話聞いとけよ! てか、もっと彼女のこと考えてやれよ!
と、思わず突っ込みそうになってしまった。あとでちゃんと強く言っておこう。姉として。
「まあでも、今日まではかおりとは敵同士だからね。負けないよ」
「え……うん」
惚けた顔で追い打ちをかける弟に、さすがの私も顔を覆いたくなる。
「そこは黙って、『かおりも頑張れよ』でいいでしょ。なんでいらんこと言うかな、この馬鹿弟は……」
「ばっ、馬鹿弟とはなんだよ。応援責任者になったんだから、佐藤を一番に応援するのは当たり前だろ」
「はいはい。そうですねー」
棒読みで言いながらも、佐藤ちゃんの応援演説をすることになったのがこいつで良かったと、そうも思った。
彼女が前から、奏太に気があるのは知っていた。
自分から他人に話しかけることがほとんどない彼女が、奏太には自分から近づいていくのだから、嫌でも気づいてしまう。
きっとこれは、本人たち二人以外の生徒会のメンバー全員が知っていたことだと思う。
そんな中でかおりちゃんが転校してきて、まあいろいろあったんだろうけど付き合うようになって。もちろんかおりちゃんと奏太の仲は全力で応援してはいるけれど、佐藤ちゃんの心中を考えて切なくなることも多々あった。
そして、きっと佐藤ちゃんのことだから、このまま想いを伝えることもなく諦めてしまうんだろうと、勝手に思っていた。
でも彼女は、精いっぱいの勇気を振り絞って、大きな一歩を踏み出した。
だから、私はあくまでもかおりちゃんの応援責任者で、奏太の姉で、選挙でも恋でもかおりちゃんの味方だけれど、少しくらいは佐藤ちゃんにだっていい思いをしてほしいと、どうしてもそう願ってしまう。
まあそうは言っても、かおりちゃんの応援責任者になった以上は、全力で役目を全うするしかないんだけど。
しばらくすると佐藤ちゃんの演説が終わり、私の名前が呼ばれた。やることは今までと変わらない。何度もなんども皆の前で話してきた、ただそれを同じようにすればいいだけのことだ。
すべてを出しきったような表情の佐藤ちゃんとすれ違い、演壇に向かう。
マイクの角度を調節して、人差し指で二回、網の部分に軽くポンポンと触れる。
いつものルーティーン。少し下を向いて目を瞑り、『いち、に、さんっ』と心の中で数えて目を開け、正面を見据える。
「こんにちは。生徒会長に立候補した、藤宮かおりさんの応援責任者を務めます、水瀬茜です。拙い部分も多々あるとは思いますが、私が彼女こそ生徒会長にふさわしいと感じた点を、述べさせていただきます」
前置きをおいたところで一度大きく息を吐いて、私は頭の中にある暗記した原稿を読み始めた。
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