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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第2章 そして彼女は動き始める。
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第24話 そして彼ら彼女らは演説に臨む。(1)(奏太 side)

     ◇◇◇◇◇



「かおり、遅かったね。亮と中野さんは?」

「なんかすずちゃんがトイレから戻ってこなくなっちゃって、神木くんが連れてくるから先に言っててって」

「そっか。かおりも最終確認やっといた方が良いよ? 立候補した三人は原稿見ずに演説するんでしょ?」


 俺と佐藤が体育館に着いたとき、かおりたちはまだ来ていなかった。


 舞台袖に入って演説原稿を眺めながら、しばらく小声で最終確認をしていた所に、遅れてかおりはやってきた。


「うん。でも大丈夫だよ。最悪ど忘れしたらカンペ見ちゃうから」


 かおりはそう言って、小さく折りたたまれた紙を取り出し、にやっと笑う。


 きっと細かい字がぎゅうぎゅうに押し込まれているんだろう。


 体育館にはもう生徒がほとんど揃っていて、十月にも関わらず熱気を感じさせられる。

 ざわざわと思いおもいに駄弁っている声が入り混じって、でもそんな音も耳に入ってこないくらいには、俺は緊張していた。


 演説は佐藤、かおり、中野さんの順番で、それぞれの前には応援責任者の応援演説が入る。

 つまり、先陣を切って演説をするのは俺なのだ。


「水瀬くん。もしかして、緊張してる?」

「まあ、ちょっとね……」


 佐藤に顔を覗き込まれて、思わず目を逸らす。


「じゃあ、むこう向いて楽にしてくれる?」

「え?」

「いいからいいから」


 俺は言われるがままに佐藤に背中を向け、大きく息を吐いて肩の力を抜いた。


「昔、おばあちゃんが教えてくれたんだけどさ、緊張してるときはこうすると一気に楽になるって」


 言葉を言い終わるかどうかのその境目で、気が付いたときには俺は大きく跳ね上がっていた。


「ふふっ、水瀬くん、もしかしてくすぐったがり屋さん?」


 ひゃひゃひゃ、と笑い声をこらえる俺に佐藤は続ける。


 端的に言うと、俺はわき腹を後ろからひたすらくすぐられていた。


「も、もう……無理だからっ。もうっ、勘弁してっ……」

「ほんとに?」

「ほんとっ……本当だからっ!」


 ふと横にいたかおりから蔑みのような視線を感じて、かなり本気で抵抗する。


 そこには、可愛い彼女の目の前で別の女の子にくすぐられ、必死に笑いをこらえている男の姿があった。


 ……俺だった。


「どう? 緊張もなくなったでしょ?」

「ほ、ほんとだ」


 肩で息をしながらも、言われて確かに効果を実感する。ぱさぱさに乾いていた口の中も潤っていたし、心臓の音も静かになっている。


 偉そうに佐藤のことを励ましておいて、自分が助けられてたら世話ないな。


 さっきまでの自分を鼻で笑いたくなってくる。


 目を瞑り大きく息を吐いて、自分のやるべきことを考える。


 これから十分もしないうちに、俺は全校生徒の前で応援演説をする。きっと長い人生の中では、後から思い出すこともないくらいの些細な出来事だ。


 一般生徒なんてみんな、居眠りや小声の雑談をしていて、話なんて聞いちゃいないだろう。


 でも。それでも、やるべきことはただ一つ。


 佐藤を生徒会長にするために、彼女がふさわしいということを精いっぱい伝える。

 それだけだ。


 ごたついていた頭の中を整理して、気持ちも晴れやかになった。体育館の喧騒もうるさく感じるくらいに聞こえる。


 俺はゆっくりと目を開けて、向き直った。


「……そうくん。ずいぶん楽しそうだったね」

「…………」


 いつもより明らかな鋭い目つきのかおりが、俺を見つめていた。


「い、いや、別にこれは楽しいとかそういうのじゃなくてだな……」

「問答無用! これでも食らえ! そうくんの女ったらし!」


 俺の言うことなんてまったく気にもとめず、かおりは佐藤がしたように、俺の脇腹をくすぐってくる。


 ただ佐藤と違って、俺の苦手な場所を的確に集中してくすぐってきている。


「ちょっ……ほんとくすぐったいから! まじでっ!」

「うるさいうるさいうるさい!」

「ち……力が入らなくなっちゃうって!」


 かおりは抵抗する俺を上手くいなして、くすぐり続ける。


 なんかちょっといい話になりそうな雰囲気あったのに! これじゃあ女の子二人にただくすぐられただけじゃん!


「か、かおり! 参った! 参ったって!」

「ふぅ。疲れたし、今日のところはこのくらいにしといてあげる」

「はぁ……はぁ……」


 ようやく解放されて、俺は膝に手をついて思いっきり空気を吸う。


 ほんと、呼吸できなくなるんだよ。これ。


「……水瀬くん、本当にくすぐったがり屋さんなんだね」

「…………」


 やめて! そんな目で見ないで!


 すぐ近くでは佐藤が、なんとも言えない苦笑いを浮かべていた。


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