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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第1章 なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。
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第61話 なぜだか花火大会の後には集まって花火をする。(3)

     ◇◇◇◇◇



「……むぅ」


 三本の線香花火のすべてで俺よりも早くに火球が落ちてしまったかおりが唸る。


「まあまあ、拗ねないで」

「別に拗ねてなんかないもん!」


 彼女はぷいっとを向いて、手に持っていた最後の線香花火をバケツに入れた。


「あーあ、全部終わっちゃった」


 バケツの底が見えないほど溜まった花火を見て、かおりが言う。


「もう夏も終わりか」

「そうだね。もう来週から二学期だよ」

「夏休み、あっという間だったな……」


 思い返すまでもなく、いろいろなことがあった。去年までの俺には想像もできないようなことがたくさんだ。


 子供だけで泊まりで旅行へ行って、それが終わったと思ったらかおりと二人でプールへ行って。それから藤宮家のキャンプにも連れていってもらった。


 海の家で人生初めてのアルバイトも経験したし、今日の花火大会だってかおりと楽しめた。


 なぜだかすっぽりと抜けているかおりとの記憶も少しだけど思い出せて。 


 思えばこの夏休みの思い出の俺のすぐ隣には、いつも彼女がいた。


「ねぇ、かおり」

「ん?」

「俺さ――」


 きっと俺は、もうだいぶ前からかおりのことを好きになっていたんだと思う。


 気が付くと、その思いを口に出そうとしていた。


 そして――。


「俺、かおりのこと――」


 突然、言葉の続きが出てこなくなった。


「そうくん、どうしたの?」


 不思議そうにのぞき込んでくるかおりの声は、俺には届かない。


 幼き日のかおりと過ごしていた日々が、頭の中に映画のフィルムのように流れ込んできたからだ。


 小学校時代のいつも一緒にいたような記憶から、お互いの家族で一緒に海へ行った記憶、卒業式や入学式、学園祭で二人一緒に写真を撮った記憶。今までまったく思い出せなかった忘れていた思い出が次々となだれ込んでくる。


 感覚的には数分くらいだろうか。実際には数瞬の出来事だったと思う。


 かおりとの最後の記憶を思い出して、俺は記憶が抜け落ちていた原因を察した。


 かおりが転校してしまったその前日、俺は彼女にこっぴどく振られていた。


「――そうくん?」


 かおりに名前を呼ばれて、ふと現実に引き戻される。


 俺はその声に答えることなく、家に向かって走り出していた。


 はっきり言って、訳が分からない。


 一気にかおりとのことを思い出して混乱しているのもあるが、かおりと最後にあったあの日、俺は完全に拒絶されていた。


 それなのになんで今になって俺の前に現れて、こんなに俺に構ってくるのか。すべてが訳が分からない。


 俺はそんな考えを吹き飛ばすように、家に着くまでひたすらに走った。


「はぁ……どうなってるんだよ……」


 結局、それから夏休みが終わるまで、俺は部屋にこもり続けた。





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