第50話 なぜだか海の家で台風に遭う。(3)
◇◇◇◇◇
「かおり、着いたから降りて」
「ん……」
腰が抜けてへたり込んでいたかおりになんとか服を着させて、二階の部屋までおぶって連れてきた。
「……お姫様抱っこが良かった」
「なに言ってんの。無茶言うなって」
いつもだったら絶対に言わないようなことを言ってしまうのも、やはりかおりがそれだけ怖がっているということだろう。
その証拠に、かおりは今も心細そうに俺のシャツの裾を掴んでいる。
俺はそんな彼女に見惚れそうになりながら一階から持ってきたろうそくに火をつけて机の上にセットした。
「……なんか前にもこんなことあったよね」
「そうだっけ? 今度は嘘じゃなくて?」
かおりには浜辺での前科があるので一応確認する。
「うん。ほんと」
そういわれても思い出せるわけでもなく。
「どうしよう。寝るにはまだ早いけど」
「……でも電気がつかないんじゃどうしようもないし」
結局、時間は早いが横になるかと結論が出たそのとき、ひときわ大きな音が衝撃とともに部屋に走った。
「ッッッ⁉」
もう声にすらならないほど怯えてるかおりの肩を引き寄せて、俺は部屋を見渡す。
異変はすぐに見つかった。
窓が、割れていた。
「かおり、ちょっと待ってて」
俺はろうそくを手に持って急いで一階に下り、厨房に駆け込んだ。
「確かここにあったよな……」
厨房の隅に置かれていた段ボールと、それから店内の引き出しの中から太いビニールテープを引っ張り出す。
自分が意外に冷静で、やらなくてはいけないことがこれだと分かることを不思議に感じつつも、急いで部屋に戻った。
部屋の中には割れた窓から雨がだいぶ吹き込んでしまっていて、畳が湿って色が濃くなっていた。
「かおり、ちょっと段ボールをここで押さえてて!」
「う、うん」
穴を塞ぐように窓全体に段ボールを当てて、テープを壁から引っ張ってきて固定していく。
心做しかかおりの手際も良いように見える。
「……なんか、本当にあのときみたいだね」
「え?」
状況が状況なだけに満面の笑みとはいかなかったが、そう言って笑ったかおりの横顔に、一瞬だけ記憶がフラッシュバックした。
確かあれはお互いに両親が出かけてしまっていて、かおりが家に泊まりに来ていたときだった。
なんで彼女が泊まりに来るほど仲が良かったのか、それはまったく分からないけれど、それでも彼女が昔、俺の家に泊まりに来たということだけははっきりと確信できた。
その日も急な大雨で、雷が苦手な彼女はひどく怯えていた。
そんな中、強烈な風でなにかが飛ばされてきたんだろう。俺の部屋の窓ガラスが突然飛び散った。
なにがなんだか分からずに泣き叫ぶかおりをなんとか落ち着かせて、二人で協力して窓を補修した。
今日と同じように、使ったのは段ボールとビニールテープだった。
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