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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第1章 なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。
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第34話 なぜだか夏休み早々海へ行く。(8)

     ◇◇◇◇◇



「で、話したいことっていうのはなに?」


 おやつ時も過ぎて家族客が少しずつ帰っていく砂浜を歩きながら、かおりは俺に言った。


「うん。なんて言うか……俺いまだにかおりのこと思い出せないんだけどさ、その……どのくらい仲良かったのかな、と思って。一緒に旅行にも来てたみたいだし」


 今まで、聞いてもきっと答えてくれないだろうと思って口にしなかった。


 転校してきたばかりの頃に、かおりが俺に自分のことを思い出させると宣言してからというもの、ずっと聞けなかったことだ。


 かおりは少し俯いて、それから俺に顔を向けて明るい声で答えた。


「仲良かったってそりゃもう、小学校のころなんていつも一緒にいるもんだから、クラスメイトによくからかわれたよ!」

「そっか……」


 それを聞いたって、やっぱり昔のことを思い出せるわけでもない。


「あのさ、そんなに仲良かったのに覚えてないなんて、普通に考えて変だよね」

「まあ、そうだろうね」


 かおりは口を尖らせて俺から目を背けた。


「でもたまにさ、本当にふとしたときに、なんか昔こんなことがあったかなって思えることがあるんだよね」


 海を見ながら話を聞くかおりの横顔に俺は続ける。


「そういうことがあるのはきっと昔にもかおりと一緒に来たことがある場所で……。だからさ、この旅行から帰ったら、昔一緒に行った場所に連れて行ってくれないかな? 記憶を取り戻すのを協力してほしいんだ」


 少し前まで、別に思い出せないんだったらそれでもいいと思っていた。


 でも今は俺が、俺自身が昔のことを知りたいと、心からそう思う。


 昔のことを覚えているのがかおりだけだという現状を悔しく感じた。


「……いいよ。もとからそうくんには私のこと、きっちり思い出してもらうつもりだったし」


 かおりがくるっと振り返って、にこっと笑う。


「ねぇ、あそこ行ってみようよ」

「あそこ……ってあの灯台?」

「うん」

「まあいいけど」


 急に声色を変えて真面目な顔をしたかおりに合わせて、砂浜から遊歩道に出た。


「なにか思い出さない?」

「え? そういわれてみると……」


 いや、プラシーボ効果か。


 緩やかな上り坂をゆっくりと上っていくと、徐々に砂浜と海が一望できるようになってくる。


「前に来たときにもここ歩いた?」

「うん」


 五分か十分か、そのくらい歩いただろうか。


「前に一緒に来たときにも、二人でここまで来たの」


 砂浜からではずいぶんと小さく見えた岬の上の灯台にようやく辿りついた。


「これ、上っていいの?」


 こくんと首を縦に振り、かおりは階段を上っていく。


「ほら、そうくんも早く」


 かおりに急かされて俺も上まで行くと――。


「すごいな……」


 砂浜と海どころじゃない。


 海を囲む緑々しい小さな山からバスで通って来た道まで。地平線は砂浜からよりもずっと遠くまで見えるような気がした。


「でしょ?」


 かおりは手すりに体重をあずけて、やさしく笑う。


「……うん」


 それははっきりとは思い出せないが幼き日に見たのであろう、可愛らしい面影と重なった。

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