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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第1章 なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。
33/152

第33話 なぜだか夏休み早々海へ行く。(7)

     ◇◇◇◇◇



「茜さん、どこにもいないね」

「俺ちょっと店の方見てくるわ!」


 亮がそう言ってテントから出て、坂道に向かっていく。


 あまりにも茜と出くわさないので、さすがに俺も心配になってきた。


「溺れた……とかっていうのはないよね?」

「ちょっとそうくん、縁起でもないこと言わないでよ。浮き輪も持っていってるみたいだし、海に出てるのかな」


 浮島から砂浜を見渡せば、ほとんどすべてを網羅できる。


 それでも見つからなかったということは、俺たちとどこかで入れ違いになって店の方に行っているのか、それとも海に出ているのか。そのくらいしか考えられない。


「あっ……」

「かおり、どうかした?」

「いや……うん、もしかしたらだけど、ちょっとだけ心当たりあるかも」


 かおりは少し考えこんで、そうかと思ったら浮き輪を持って歩き出した。


「ちょっと、どうしたんだよ急に」

「ここの海って浮島よりも沖の方はちょっと特殊な海流があるらしくてさ、あんまりぼうっとしてると砂浜からは見えない岸辺の方まで流されちゃうんだよ」


 話を続けながら、かおりは早足で歩き続ける。


 子供が遊んでいる岩場を慎重に通って、少し草が茂っている方へと向かっていく。


「覚えてない? 前にも同じようなことがあったの」

「え? 分からない……かな」


 ゆっくりと海に入って、砂浜の死角に回り込むようにごつごつとした地形に沿って泳ぐかおりについていくと――。


「こんなところに洞窟があったのか……」


 小さくはあるが、人が上がれるような大穴が地形の中にぽっかりと開いていた。


「すごい……きれいだ」


 テレビの特集でしか見たことがないような、神秘的な光景だった。


 そのはずなのに。

 なぜだか、ここに来たことがあるような気がしてならない。


 ところどころ天井に空いた穴から差し込んだ光が澄んだ海面に反射して、色鮮やかに輝いている。海水の底にある苔はきれいな緑色をしていて、どこか優しい気持ちになる。


 本当にここに来たことがあるのか。それは分からない。


 いや、きっとあるんだろう。


 俺の中にある記憶ではないなにかが、そう告げている。


 そのままゆっくりと進んでいくと水位もどんどん下がっていき、地面が露わになったところで体育座りをしている茜を見つけた。


「ッッ⁉ かおりちゃん迎えに来てくれたの⁉ ありがとぉお」

「……俺もいるんだけど」


 かおりを見るなりすごい勢いで抱きつき始める涙目の茜。


 俺は一人取り残されたような気分になる。


「……良かった。無事で」

「心配かけてごめんね……」


 いつも強気な茜が、やけに弱気だ。


「そんなに怖かったのか? 浮き輪はどこにやったんだよ」

「ここに流されてからすぐに浮き輪だけ波で持ってかれちゃって……」


 それでかなづちな茜はどうしようもなくここでしょぼくれていたというわけか。


「でももし誰も来なかったら大事だったね」

「本当に。私があのときのこと覚えていてよかったよ。そうくんはやっぱり忘れてるみたいだし」


 そう言ってこちらに一瞥くれたかおりに、俺は聞き返す。


「さっきもそんなようなこと言ってたよね」

「うん。小学校のころに一緒に海に来たときにも、茜ちゃんがここに流されて一人で泣いてたんだよ。それを私たちで見つけたの」

「そっか……」


 やっぱり、いくらなんでもおかしい。


 隣の家の幼馴染を忘れているっていうだけでもそうだが、こんなところまで一緒に旅行に来たこともあるのに、それを何ひとつ覚えていないなんて異常だ。普通じゃない。


 今までそこまで変なことではないだろうと目を背けてきたけれど、それも限界だろう。


 俺はかおりを真っすぐに見つめて、口を開く。


「かおり。テントに戻ったら、ちょっと話したいことがあるんだ」

「そう。分かった。あとで時間作るよ」

「……ちょっと、私を置き去りにしていい雰囲気にならないでよ」


 場違いなことを言った茜にかおりの浮き輪を貸して、俺たちは洞窟を後にした。


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