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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第1章 なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。
24/152

第24話 なぜだか旧友とばったり再会する。(3)

◇◇◇◇◇



「ちょっと考えてみたんだけどさ、水瀬の記憶が抜けてるのって、たぶんトラウマが関係してるんじゃないかな」


 ファミレスを出て乗った電車の中で日向が言った。

「トラウマ? それって、野球の最後の試合のこと?」

「うん。それもあるし、藤宮の件も同じように何か忘れたいようなことがあったのかなって」

「うーん……」


 完全に否定はできないけれど、だからといってそうだと言い切るには根拠がない。


「人間って本当に嫌なことがあると自己防衛でそのことの記憶に蓋をしちゃうってなんかの本でも読んだことあるし。藤宮が転校してっちゃったってだけでそうなるっていうのはちょっと考えにくいけど、もしかしたらそれ以外にもなにかトラウマになるようなことがあったんじゃないかって」

「確かに」


 意外にしっかりと考えてくれていたらしい日向の意見に、そういわれてみればそうかもしれないという気持ちになってくる。


「まあ試合のことだって思い出せたんだし、藤宮と一緒にいればそのうちなにか思い出すかもね」

「それもそうだな……」


 ただいま絶賛避けられ中なんだけど。


「……どうしたの? そんなに煮え切らない顔して」

「いやさ、なんか――」


 俺は話すべきか少し迷ったが、『かおりに避けられているんだけど理由がまったく分からない。体育倉庫でこんなことがあってからなんだけど……』と、今の状況に至った経緯を日向に打ち明けた。


「女子目線で、なにか原因として思い当たることある?」

「うーん……話聞いた感じじゃなんとも言えないけど、あるとするならいつまで経っても水瀬が自分のことを思い出さないから、それで藤宮が怒ったとか? そうだとしても急に距離を置かれたっていうのが腑に落ちないけど」

「そうだよなぁ。またなんで急に……」


 かおりがそっけなくなったのは、告白した男子について俺が意見を言った直後だった。


 普段しない恋愛話で俺に持論を語られてちょっと気持ち悪く感じたとか?


 いや、かおりに限ってそんなことはありえないだろう。


「とりあえず、またなんか相談したいことがあったら連絡してよ。連絡先はまだ入ってるでしょ?」

「あぁ、色々と悪いな」

「気にしないでいいよ。今度駅前のパフェでもおごってくれればそれでいいし。じゃあ、私は迎えが来てるから先行くよ」


 ……現金なやつめ。


 話に夢中になっている間に、電車は家の最寄り駅に到着。


 日向はゆっくりと席から立ち上がった俺を置き去りにして、電車から走って出て行った。


「あと二日か……」


 今日もかおりに避けられてしまったことを思い出し、溜息が零れる。


 とはいえ、いつまでも電車に乗っていては次の駅に行ってしまうので、俺も降車して改札に続く階段を上った。


 あれ? あの後ろ姿……。


 改札を出て券売機の横を通り過ぎたところで、前を歩く一人の女の子の背中が目に入る。


 俺と同じく芦川高校の制服を着ていて、初めて見たときよりも少しだけ伸びた、ふわっとしたボブカットの茶色い髪はもう見慣れたものだ。


「かおり、偶然だね」

「ひっ……そうくん⁉」


 こんなチャンスはないぞと駆け寄って後ろから話しかけた俺に、かおりは立ち止まり、彼女の肩は跳ね上がる。


 いくら驚いたとは言えど、「ひっ」はさすがに傷つくなぁ。


「あれ? でもかおり、だいぶ前に帰ったはずじゃ……」


 ホームルームが終わるなり帰ってしまったかおりと、それより後に教室を出て、しかもファミレスに一時間弱もいた俺が帰り道で鉢合わせるなんて不自然だ。


「いや、暇だったからいったん帰ってから買い物に――」

「――制服じゃん。そのかばんも通学用だし」

「……」


 すぐにばれる嘘をついたかおりは、俺の指摘に黙り込む。


 なんだかかおりの顔をしっかりと見たのがやけに久しぶりな気がして、無意識にじっと見つめてしまう。


「べ、別に何でもないんだから!」

「ちょっと待ってよ!」


 そんな俺から視線をそらすようにして、かおりは早足でまた歩き始めた。


 それから言葉は交わさなかったが、久しぶりの二人での帰り道だった。

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