第17話 なぜだかお隣さんと食卓を囲む。(2)
◇◇◇◇◇
「あらあら、奏太くんったら大きくなったわねぇ」
「ほら坊主、突っ立ってないで早く上がれ!」
藤宮家のベルを鳴らして、かおりが「はーい」と返事をした。
そして、かおりが内側から玄関を開けたのだが――。
「ど、どうも。お邪魔します」
開かれた扉の先には、なんとも家族仲良くかおりとそのお母さん、そしてお父さんが立っていたのだった。
かおりよりも先に口を開いた二人に会釈をして、靴を脱ぎ居間へと案内される。
食卓の上には置ききれんばかりの大量の豪華な料理。
鶏のから揚げに手羽先の煮物、サーモンのムニエル、ほうれん草の胡麻和え、ナスやキュウリの漬物。
それらがそれぞれ一人ずつにお店のように盛り付けられていた。
「いやぁ、久しぶりに奏太くんがうちに来るっていうから、腕によりをかけて作りすぎちゃったわよ」
「ほら、坊主の席はそこだろ? ぼーっとしてないで座れすわれ!」
言われるがままに席につき、じっくりと料理を見る。
うまそう。めちゃくちゃうまそうだ。
「おかわりもあるから、足りなかったら言ってね」
「遠慮しないでたくさん食うんだぞ!」
四人で手を合わせて、「いただきます」と声をそろえる。
それから手羽先の煮物を一口。
続いて、他のおかずも少しずつ口に運び、俺は思わず言葉を漏らした。
「おいしい……」
旅館のような料理でありながら濃過ぎず、そしてどこか懐かしさを感じさせられる味付け。
腕によりをかけて作ったとは言っていたが、それにしても一般家庭で出てくる料理にしてはあまりにもおいしすぎる。
特に手羽先の煮物は、少し食べづらいけれど味付けが俺の舌にドンピシャで、思わずがっついてしまった。
「本当? 良かったわ」
「坊主、昔から手羽先の煮物好きだったもんな。ほら、俺のも一切れやるから食えくえ」
俺は前にもこれを食べたことがあるのか……。
さすがにここまでおいしいものを食べさせてもらったら、忘れるはずもないと思うんだけど。
ここまでくると、自分は記憶障害かなんかなんじゃないかと少し疑ってしまう。
「すみません。ありがとうございます」
俺はかおりのお父さんが差し出した手羽先を器で受け取って、そのままかぶりつく。
結局、俺は普段から小食なのにも関わらず、ご飯を三杯も平げてしまった。
◇◇◇◇◇
「なんかごめんね、お母さんたちはしゃいじゃって」
夕飯をお腹いっぱい頂いて、二階にあるというかおりの部屋へと階段をのぼっていると、かおりが苦笑しながら話しかけてきた。
「全然大丈夫だよ。フレンドリーすぎて最初は戸惑ったけどさ」
俺が当初思っていたような冷たい視線を向けられるどころか、こんなにもよくしてもらって。
「むしろ俺の方こそ、お言葉に甘えてご飯を二杯もおかわりしちゃったし」
「お母さんも喜んでたから全然大丈夫だよ」
かおりのお母さんもお父さんも、接していて心が温かくなるようないい人たちだった。
「ちょっと待ってて。部屋の中確認してくるから」
部屋の前まで来て、かおりが何かを思い出したようにそう言う。
「見られちゃまずいような本でもあるの?」
「そんなのないよ!」
時代はデジタルだと、そういうことなのか。
とにかくかおりは部屋に一人で入っていくと、ものの一分ほどで用意を済ませて俺を部屋へと入れた。
「なんか、女の子の部屋って感じだね」
「へへ、無垢なそうくんには刺激が強すぎたかな?」
「なに言ってんだか」
そうは言ってはみたものの、部屋に入るなりなんだか甘い匂いがするし、部屋も暖色で女の子らしいインテリアだしで、内心気が気でない。
しかしそんな俺のことなど全く気にも留めないのがかおりである。
静かに心拍数を上げている俺をよそに、かおりはベッドにうつ伏せにダイブした。
「じゃあ、マッサージよろしくね」
「うん……あれ? これって――」
ベッドに上がろうとしたところで、隣にある勉強机の上に置かれた写真たてが目に入る。
「あ、気が付いた? 中一の学園祭で撮ったやつ。さすがにこれ見れば私のことも思い出すだろうと思ってさ」
かおりがいたずらな笑顔を向けた先にある写真に映っていたのは、まだ少しあどけないが、紛れもなく俺とかおりのツーショットだった。
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