第42話 そして長いようで短かった修学旅行は幕を閉じる。
◇◇◇◇◇
「やっぱり、佐藤さんはそうくんのこと好きだったんじゃん」
「え?」
結局、あれから近くの商店街をのんびりと歩いて、適当なところで昼食を済ましてからホテルへと戻った。
「もしかしてさっきの話、聞いてた?」
突然うしろから話しかけてきたかおりに、慌てて聞き返す。
「いや、直接本人に言われたんだよ!」
「マジか……」
宣戦布告、と言ってはいたけど、まさかかおりに直接伝えるとまでは思っていなかった。
「もう! だから言ってたのに!」
「ごめん……」
「まったく、そうくんの彼女は私なんだからね? もっといっぱい色んなところに一緒に行ったり、恋人らしいことしてもらわないと」
「それは、まあ……」
やぶさかではない。うん。
「でもそろそろ本格的に受験勉強も始まっちゃうね」
「それならずっとお家で勉強デートだね。二人だけで!」
「それも……良いかもな」
想像して、弛緩した頬の筋肉に力を入れた。
正直、佐藤に好意を持たれていたということはすごい嬉しい。嬉しくないはずがない。恋をしてあんなに可愛くなった女の子は今までに見たことがなかったし、なにより、佐藤というまじめで不器用な女の子が、俺は友達としてかなり気に入っていた。良い子だと思っていた。
本当に、もしも俺にかおりという出来た幼馴染が――彼女がいなかったのなら、もっと違たことになっていたかもしれないと思う。
けど、やっぱり俺はずっとかおりのことが大好きで、それ以上でもそれ以下でもなくて、それがすべてだった。
「あ、バス来たみたいだよ」
「本当だ」
少し予定より遅れていたクラスのバスが到着して、空いている席にかおりと二人、乗り込む。
「なんか、高校で一番大きなイベントが終わっちゃったね」
「そう? 帰ったらもうすぐテストだよ?」
「いや、テストを修学旅行より大きいイベントみたいに扱わないで?」
「冗談だよ、そうくんったら」
本当に、帰ってしまえば次に来るのは定期試験で、そしたらあっという間に年を越して、三年生になって。受験生活まっしぐらだ。
なんだか少し、寂しい気持ちになってくる。
「でもほら、まだ一個残ってるじゃん」
「え?」
「ほら、学園祭!」
かおりに言われてみて、はっとした。
そういえば去年も、生徒会は結構忙しかったんだった。
「私はこの学校の学園祭、初めてだけどさ」
「そういえばそっか」
かおりが転校してきてまだ半年も経っていないだなんて信じられないほどに、いろいろなことがあったんだなとしみじみ思う。自分がかおりのことを忘れていたことが、今では信じられないくらいだ。
この修学旅行も、すごく密な三日間だった。気づいていなかったはずの好意に気づいて、想いを伝えられて、佐藤は前に進もうとしていた。
それに比べて俺は、前に進めているのだろうか。
真剣な想いを目の当たりにして、考えさせられたこともある。
ただ、今日は本当にいろんなことがありすぎた。少しの間、眠るくらいのことはきっと許されるだろう。
俺はバスの窓に体重を預けようとして、しかしかおりに引っ張られるようにして彼女の肩に頭を置くと、眠りについた。
帰りのレクリエーションなんて、今の俺にはどうでもよかった。




