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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第3章 そして彼女は想いを伝える。
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第35話 そして、彼女は想いを叫ぶ。(2)(小春side)

     ◇◇◇◇◇


 昨日から、なんだかずっと間が悪かった。


 水瀬くんと会う約束を取り付けようと思っていたのになかなか上手くいかないし、挙句の果てには、想いを伝えようとしているところで成海に連れ去られてしまうし。


 そのあと何があったのかといえば、もう最近では慣れてきてしまった、名前も知らない男子からの告白だった。


 成海を通して私を呼び出してくる男の子が多いことは、少し前から気づいていた。きっと成海も頼まれて、断れずに仕方なく仲介をしているんだろうと、そう信じていた。


 でも、ここ数日は少し、鬱陶しく感じてしまう。



 水瀬くんたちと別れて十分ほど。私は全力で走り続けたけれど、成海は余裕そうな顔でついてきた。


 考えてみれば、最近は少し体を動かすようにもなったものの、ほとんど運動をしてこなかった私が元陸上部だという成海に勝てる道理もなかった。


「――ねぇ」

「……? なに?」


 立ち止まって、成海を見つめる。


 普通に考えて無理な勝負を、なにも馬鹿正直にする必要もない。


「えっと……私、どうしても先にゴールしなくちゃいけないの。だから、先に私を行かせてくれない?」

「え? でもそれじゃ真剣勝負じゃなくなるよ?」

「それは名目上の話というか、言葉の綾というか……」


 先に行きたい理由まで話すつもりはなかったが、きちんと説明しないと納得してはくれないか。



 ……こうなったら、恥ずかしいけど仕方がない。



「えっとさ、私、頂上で水瀬くんに――」

「そんなに先に行きたいなら、自力で私より早くゴールすればいいじゃんっ」

「えっ? ちょ、ちょっと待ってよ成海!」


 せっかくそれなりに覚悟を決めてこの想いを明かそうと思ったのに、成海は身軽にタンッ、タンッ、と階段を上って行ってしまう。


 まずい。彼女が本気で走ったら、私じゃあどうやったって勝てない。無理だ。


 修学旅行で水瀬くんに想いを伝えられるチャンスはきっと、これが最後だ。ここで出来なきゃもうクラスで合流して、水瀬くんと二人にはなれなくなってしまう。



 でも、無理だ。



「早くしないと、置いてっちゃうよ?」



 十数段上で、成海が挑発するように言った。



「――ッッ!」



 それは、ダメだ。



 無理でも、どうやったって出来なくても、諦めることだけは絶対にダメだ。


 修学旅行で想いを伝えるって、あの日、心に刻んだんじゃないか。ここで実行できなきゃ、昔の私に逆戻りだ。今のままでいいと自分に言い聞かせて、勇気を出さない間に水瀬くんを掻っ攫われた、あの頃のみじめな私と同じになっちゃう!



 右足が無意識に、石段を蹴る。続いて左足、また右足、左足。


 自分でも不思議なくらいに足が動く。さっきまで息が切れていたのが嘘のようにすいすい進む。


 無限にも思える紅の鳥居が後ろへと流れて、次から次へと消えていく。


 五分か、十分か、なんとか成海の背中を見失わないように、ひたすらに上る。



 そして――。



「小春も意外に、運動できるじゃん」

「……はぁ、はぁ」



 頂上に先に着いたのは、私ではなかった。


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