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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第3章 そして彼女は想いを伝える。
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第27話 そして彼女と枯山水を眺める

     ◇◇◇◇◇


「やっと着いたぁ……」


 ホテルから京都駅までしばらく歩いて、バスターミナルで市営バスに乗り込んでから四十分ほど。


 龍安寺前に到着すると、俺たちはバスを降りて伸びをした。


 ちなみに、バスターミナルが広すぎて事前に調べていたバスの時刻表も当てにならず、観光案内所のお姉さんにお世話になった。瞬殺で教えてもらえた。


 六人で迷惑にならない程度に広がって、入り口に進む。拝観料と引き換えにもらえる拝観券は、旅の思い出に取っておくのがお約束だ。中学時代にもらったそれがもうどこにあるのか分からなくなっているのも暗黙の了解的なやつだ。いや、ちょっと違うか。


 ともかく、立派な木造の門をくぐり、緩やかな上り坂をゆっくり上っていく。木々が赤みがかっていて、なんとも京都らしい。


 中学の修学旅行は三年の四月だったから、葉っぱが青々としていてそれはそれでエネルギッシュだったが、やっぱり京都と言ったら紅葉だ。


 シーズンど真ん中だと人がい過ぎて嫌にもなるが、今はまだ始まったばかりということでそこまでではない。それなりにはいるけれど。


「あたし、この砂利の上を歩く感じけっこう好きなんだよね」

「あっ、確かに。それなんとなく分かるかも」


 脚に体重をかけると心地良い音とともに沈み込むこのなんとも言えない感触がいいんだろ? 分かる分かる。


 日向と佐藤の会話に心の中で頷きつつ、さらに歩みを進めていく。


 しばらく進むと緩やかな石段があり、その先にある本堂に靴を脱いで上がる。人の流れに従うことほんの十秒足らずで、かの有名な石庭に出た。


 やはり人気スポットということもあって、多くの観光客がカメラやスマホを構えている。


「綺麗……」


 隣から聞こえて見ると、かおりが目を輝かせて枯山水に見惚れていた。


 俺は空いているところを探して腰を下ろし、かおりに話しかける。ちょっとした豆知識を披露したくなったからだ。まあこれはけっこう有名な話で豆知識というほどのものでもないけれど、かおりがここへ来るのはどうやら初めてらしいので、言ってみてもいいだろう。


「知ってる? ここの石は全部で十五個あるんだけど――」

「――どこから見てもすべての石が見える場所はない……でしょ?」


 せっかくの龍安寺を楽しむための小ネタを遮られて、俺は振り向いた。


「……日向か。最後まで言わせろよ」

「だってそれ、中学で来たときにも言ってたじゃん。得意気に」

「ふーん。そうくん、そうなの?」

「いや、まあ……違くはないけど」


 まったく、日向のせいでさっきまで輝いていたかおりの瞳がどこか陰ってしまった。それを見て困惑する俺を、日向はクスリと笑っている。


 こいつ、またわざとか……。


「まあ、そのちっぽけな知識をひけらかした相手は男友達だったけど」

「な、なんだ。そうくんもそれならそうと言ってくれればいいのに」

「あ、うん……」


 フォローのつもりなのか、それだけ付け足して日向はどこかへ行ってしまう。


 っていうか、俺があのとき話した相手、日向だったと思うんだけど。確かに俺からしたら男友達同然ではあるけれど、気を遣って嘘を吐いたということなんだろうか。それとも「実はわたし、男の娘でした」みたいな展開とか?


 いや、ないか。


「なんか、こういうところでゆっくりするっていうのもいいね」

「うん」


 日向がいなくなって、かおりがちらりと俺を見ながら言う。


 分かってくれるか。実は修学旅行の行き先に京都があると知った時から、ここには絶対に行くと決めていたんだ。


「もっと人が少ない時期にもまた来たいね」

「うん」


 たぶん京都なんて、一年中観光客だらけだろうけれど。もしももっと落ち着いてゆっくり見られたら、最高だと思う。


「今度、二人だけで来るっていうのもいいかも」

「うん」



 ……うん。



「え?」



 いや、確かに俺たちは付き合っているんだから、ふたりで旅行に行ったりっていうのも全然ありだとは思うけど! 京都まで来るってなったら当然泊まりでの旅行になるわけで、それを高校生の男女が二人きりでというのはコンプラ的に色々と……。



「卒業旅行。卒業して春休みに、二人で京都に来よう」



 提案ではなく、断言。押し切られてしまった。


 かおりって普段からそこまで強引というわけではないのに、たまにやたらと行動力があるんだよな。


 思い出してみると、小さいころからそうだったかもしれない。


「……まずはその前に受験勉強しないとだけどね」

「やった! 決まりだよ! 絶対だからね!」

「分かったよ」


 ちょっとしたことで表情がころころ変わって、再会したころのどこか寂し気な笑顔とは違う、幼子みたいな心からの笑顔を見せてくれるようになったんだと改めて実感する。


 それがなんだか嬉しくて、思わず俺も表情筋が緩んでしまう。


「水瀬、そろそろ行こうってよ!」


 かおりと話しながら、ずっと石庭をただ眺めていた俺に、日向が呼び掛けた。


「ん、今行くよ。かおり、行こ」

「うん!」


 満面の笑みで応えてくれるかおりの笑顔を守りたいと、そんなキザな思いを噛みしめて、俺は立ち上がった。


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