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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第1章 なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。
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第13話 なぜだかお隣さんをマッサージする。

 ◇◇◇◇◇



「かおり、もう遅いからそろそろ帰って寝なよ」


 二人して気持ちよく眠ってしまってこともあり、目を覚ますと日付が変わっていた。


「うーん……なんか目も覚めちゃったし、寝れそうにないんだよね」

「でもさすがに、いくら隣の家とはいってもお父さんとお母さんが心配するよ」

「いつもここに来るときにはそうくんのところに行ってくるって言ってあるから大丈夫だよ」

「そう……」


 つまり俺はまさに今、かおりの両親に夜中まで娘を返さない男だと思われているわけですね。


 はぁ……。


「そうだ。さっきは私がそうくんをマッサージしてあげたんだから、今度はそうくんが私をマッサージしてよ」

「いや……女子をマッサージするとか俺にはハードル高すぎるよ」


 いわゆる深夜テンションというやつなのか、かおりはいつも以上に考えなしなことを言って俺を困らせる。


「あー、そうくんのマッサージしたからか肩凝っちゃったなー」

「……」

「揉みほぐしてくれないかなー」

「……」


 約一か月、毎日顔を合わせて過ごしていると、それなりにお互いのことも分かってくる。


 そんな俺の経験から言わせてもらうと、こうなったかおりは自分の思い通りになるまで引かない。


 じっと見つめてくるかおりに耐え切れなくなって、俺は目をそらした。


「……わかったよ」

「やったー! じゃお願いー」


 俺に起こされてからベッドに座っていたかおりが、大げさに喜んで立ち上がりベッドへダイブする。


「肩揉むだけなら座っててもでき――」

「――なんか背中も凝ってる気がするなぁ。どうせだし、ついでにマッサージしてくれるでしょ?」


 うつ伏せの状態で顔だけをこちらに向けて、かおりは俺の言葉を遮る。


 きっとかおりにそんなつもりはないんだろうが、俺がベッドに腰かけているのに対して彼女は寝転んでいるので、自然と上目遣いになっている。


 ……ずるい。


「分かった。分かったよ。重いけど我慢しろよ?」


 俺は仕方がないので引き下がり、かおりのお尻の少し上あたりに腰を下ろした。


「ぐぅ……つぶれるぅ……」


 うめき声を漏らすかおりを無視して、俺はマッサージを始める。


 肩回りを指圧して、指が疲れてきたら背中と腰を手のひら全体でゆっくりとほぐしていく。


「んっ……ん……」

「かおり、変な声出さないでよ」

「……ごめん……ごめん。あっ……もうちょっと下も押して……」

「へ?」


 いやいやいや!


 今マッサージしている腰だって触れて大丈夫か躊躇したぎりぎりのラインだったのに、それより下って――。


「ここより下にいくと、もうお尻になっちゃうんだけど」


 さすがにそれはまずいだろうと、俺はマッサージをする手を止めた。


「え? あ、うん」

「うん?」

「私は気にしないからどんどんほぐしちゃっていいよ~」

「俺が気にするんだよ!」


 夜中なのについ大きい声を出してしまった。


 かおりは動揺する俺を見て、おちょくるように可愛いお尻をふりふりと動かして見せる。


「馬鹿にしてる?」

「どうかなー」


 かおりもだいぶ深夜テンションだと思っていたが、かく言う俺もそうだったらしい。


「……そんなに言うならたっぷり揉みほぐしてやるよ」


 ぐへへ。


 こんな機会滅多にあるまい。存分にその可愛いお尻の感触を味わってやろうではないか、とそんな具合に俺はにやりと笑って見せる。


「ちょっ……ちょっとそうくん⁉ ……ひゃっ!」


 態度を一変させた俺にかおりは戸惑うが、そんなことにはお構いなし。


 俺はかおりの可愛い桃尻を、両手でがしっと鷲掴みにしてやった。


 そして。


「奏太! あんた何時だと思って――」


 その現場を姉に見られた。


「……邪魔してごめんなさい」

「ちょっ、茜! ちがっ!」


 バタン。


 開いたドアが逆再生されているかのように閉まる。


「……」

「そうくん、そろそろお尻離してほしいんだけど」

「あ、悪い」


 なんとも気まずい空気が二人の間に流れた。


「……もう、そうくんの変態」

「いや、あれはかおりがおちょくってくるから……」


 かおりが頬をぷくっと膨らませる。


「もう、まじめにマッサージしてよね! ほら、続きつづき!」

「え……」


 ついさっき俺の家族内での立場が危うくなりかけたばかりなんですけど。

 

 それどころじゃないんですけど!


「さすがにそろそろ帰った方がいいんじゃ」と言いかけた俺を、かおりは無言でじっと見つめてくる。


「分かった。分かりましたよ」

「分かればよろしい!」


 調子に乗ってか弱き乙女のお尻を揉みもみしてしまったことには多少なりとも罪悪感を感じていたので、俺は言われた通りにマッサージに戻った。


「ん……んん……。もう食べられないってむにゃむにゃ……」


 真面目に腰回りをほぐすこと数分で、かおりから寝言が聞こえてくる。


「いや、ここで寝られても困るんだけど……」


 誰に言うでもなく小さく呟いて、だんだんと頭が冷えてきた。


「普通にセクハラだよなぁ」


 ついさっきの出来事を思い返して、なんとも言えない気分になる。


 考えてみれば、俺はかおりのことをあんまり知らない。


 かおりは過去の俺のことを知っている様子だけれど、俺はいつまでたってもかおりと遊んだことなんて思い出せない。


 彼女は少なからず俺に好意を持ってくれているみたいだけれど、それは仲の良かった俺に対しての好意なんじゃないか。

 そもそも好意を持ってもらえているなんてこと自体が勘違いなんじゃないかと、たまに不安にもなる。


 そんな真剣なことを珍しく考えて、それでもそれに答えなんかなくて。


「……俺も寝るか」


 俺は床の座布団の上で目を閉じた。




 翌朝、茜のやけに生温かい視線で起こされたことは、言うまでもない。


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