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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第3章 そして彼女は想いを伝える。
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第20話 そして彼女はキスをする。

     ◇◇◇◇◇



 五時過ぎの集合から意味があるのかも分からない簡単な結団式のようなものをやって、それぞれのクラスに分かれてバスでの移動。席は完全に自由で、俺の隣にはもちろんかおりが座っていた。


 高速道路を使って二時間弱くらいだろうか。ひとまず空港へと向かい、そこから飛行機で広島へと飛び立つ。


 朝早かったということもあって、空港までのバスではほぼ全員が爆睡。俺も例に漏れることなく、目を瞑って次に開いたときには、空港の駐車場へと到着していた。



『くれぐれも忘れ物はしないように』



 車中用のマイクを使って、前の方に座っていた木本が眠そうに一言だけ言う。まだ眠っていた生徒も木本の声で目を擦りながら荷物を整理して順にバスから降りた。


「俺、飛行機乗るの初めてなんだよね」

「ほんとに? なんか楽しいよ。景色もきれいだし」


 クラスで列になって、どこに向かっているのかはよく分からないが木本についていく。


 ロビーでしばらく待たされて後、大きな荷物は預けて手荷物検査を受けて、なんだか初めてのことばかりでうきうきした気持ちのまま飛行機に乗り込んだ。


 飛行機の席は事前に調整していたので、しっかりかおりと隣同士だ。後席には亮と中野さんが仲良く座っている。


 今日――修学旅行一日目は夕方前まで学年全員で広島をまわることになっている。とはいえバスや飛行機では基本的にクラスごとの行動になるので、学年行動が終わるまでは佐藤や日向とは別行動なのだ。


「広島まで一時間ちょっとで行けちゃうんだね」

「空には渋滞も信号もないからね。一直線で行けるし」


 何気ないことを話しながら、滑走路を走る整備士を眺めて出発を待つ。


「乗り込んでからの待ち時間が結構長いんだよね」

「……そうなんだ」


 高校生にもなって、早く離陸しないかとそわそわしてしまう。我ながら子供っぽい。


「まあ、おやつでも食べて時間つぶそうよ! 私、そのためにたくさん持ってきたからさ!」

「そうだね」


 かおりがはしゃぎながら開けたリュックを覗きこむと、中にはぎっしりとありとあらゆるお菓子が詰まっていた。


「なにが良い? ポッキーにクッキー、チョコクランチにあと……グミもあるよ?」


 いや、それだけじゃないでしょ。十種類以上入ってるし。


「……かおりってやっぱり、食いしん坊だよね」

「失礼なっ!」


 かおりはぷんすかと頭から湯気を出しながらも、可愛らしく笑ってポッキーの袋を開ける。


「もう、そんなんじゃそうくんには分けてあげないんだからね?」

「……悪かったよ」


 俺をスルーして振り向いたかおりは、後ろに座っている亮たちにお菓子をおすそ分けしようとして、しかし二人が肩を寄せて幸せそうに眠っていることに気づいて、黙って前に向き直った。


「……日曜日に見たとき、すずちゃんたち、凄いカップルっぽかったよね!」

「そ、そうだね」


 今のお互いを支え合って眠っている二人の姿も、実に微笑ましい。理想のカップル像って感じだ。まだ付き合ってはないらしいけど。


「私たちより、恋人らしい……」

「…………」


 ぐうの音も出なかった。


 いや、俺にだってかおりの言いたいことは分かるよ? 付き合ってない二人だってあんな感じなんだから、付き合っている俺たちはもっと恋人らしいことをしてもいいんじゃないかと、そう言いたいんだろう。


 ぶっちゃけ言えば、俺だってもっと恋人らしいことをしたいとは思ってる。でも人間っていうのは、思ったからといってそんなに急に変われるものじゃないんだよ。

 

 遊園地で初めてキスしたのだって、俺の中では本当に『一世一代の大勝負』くらいの決心で踏み出した大きな一歩だったんだよ。


 離陸前のアナウンスが機内に流れ始めて、俺の思考は遮られる。もう離陸まですぐのようだ。


 俺は自分のベルトを着用すると、なにかを考え込むように俯いていたかおりのベルトも横からセットした。


「ん」


考え事が終わったのか、一度頷いてからポッキーの持ち手側を口に咥えたかおりがこっちを向く。


「……」

「んっ!」


 チョコでコーティングされた側を向けられて、じっと見つめられる。


「…………」


 かおりから逃げるように目を泳がせると、いつの間にやら近くに座っているクラスメイト達の視線が俺たち二人に集まっていた。


「……はやく」


 いや、二人きりのときとかだったら俺としたってやぶさかではないのだけれど。さ、さすがにさ、みんなの前でこういうのっていうのはさ。うん。


「ん!!!」


 ガツンッ、と。


 かおりが無理やり顔を近づけてきたことで俺の歯にポッキーが当たり、そして半強制的に口に侵入してきたポッキーを俺は反射的に噛んで食い止めた。


 びっくりしてフリーズしている俺に、パクパクパクパク、と勢いよく食べ進めるかおりの顔がどんどん近づいてくる。顔が熱を帯びていくのを感じる。


 いや、どうすれば……。


 ――ガタン。


 刹那。


 飛行機がゆっくりと動き出して、その勢いでかおりの唇が俺のそれに触れた。



「「「お、おぉ!」」」



 同時に、クラスメイト達から感嘆の声と拍手が送られてくる。


 いや、恥ずい恥ずい!



「どうせ、私は食いしん坊だからね」



 ぷいと、窓の外へと視線をずらしたかおりの顔は、赤く染まっていた。





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