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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第3章 そして彼女は想いを伝える。
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第18話 そして彼女は走って行った。

昨日は更新できずすみませんでした^^;


     ◇◇◇◇◇



 イベントの前日っていうのは、やっぱりどこかそわそわしてしまうものだ。小学校の遠足や運動会がその最たる例だが、高校生になったって楽しみなものは楽しみなのだ。


 昨日のみんなとの買い物で必要なものは揃えたし、帰ってから早めにやっておこうと持っていく荷物もまとめた。準備は万端だ。


 あとは明日の早起きに備えて、いつもより早いが眠りにつくだけ。そのはずだった。


 ただ――。


「……眠れない」


 八時半に床に就くというのはいささか気合いを入れ過ぎたかもしれない。いくら目を瞑っても、羊を数えても、一向に眠気がやってこない。


 もしかすると修学旅行前日の午前授業だったからといって、変に昼寝をしてしまったのがいけなかったのかもしれない。

 いや、きっとそうだ。そうに違いない。


 ちょっと散歩でもするか……。


 妙なハイテンションでベッドから起き上がり、鍵を持って外に出る。いつもなら散歩なんて絶対にしないのに、どうやら俺は自分で思っている以上に明日からの修学旅行を楽しみにしているらしい。


 一人で夜道をてくてくと歩いて、適当に近くの公園にでも向かう。


 今日で十月も終わりというだけあって、この時間になるとジャンバーを着ていても少し肌寒かった。


 公園に着くと灯りに照らされたベンチに座り、一息つくことにする。上を見上げればそれなりに綺麗な、都会では見られないような星空が広がっていた。


 たまには夜の散歩っていうのも、悪くないかもしれないな。


 そんなことを思って、俺が視線を前に戻すと――。


 ちょうど公園の前を走り抜けた少女と、一瞬目が合った気がした。


「ん? あれって……」


 思わず独り言が零れる。


 そんな俺の小声が聴こえてしまったのか、通り過ぎた少女はバック走のような形で戻ってきて、こっちに近づいてきた。


「あっ、やっぱり。水瀬じゃん。こんな時間にどうしたんだよ」

「ちょっと散歩だよ。日向こそこんな時間になにしてるんだよ」

「なにって、見りゃ分かるだろ。ランニングだよ」


 思った通り、走っていたのは日向だった。まあこの時期に半袖短パンで走っていたんだから、そりゃあランニングしかないわな……。


 日向はベンチまで歩いてくると、俺の横にどすっと腰を下ろした。


「ていうか、部活やめたのにまだ走ってるのか」

「いやぁ、こればっかりはもう完全に日課だからな」


 中学時代、毎日走り込んでるという話は本人から聞いていた。


 中学三年の県の大会でも優勝していたし、日向は才能がある上に努力を怠らないやつだというのは、俺もよく知っていた。陸上が大好きだということも。


「やっぱり日向は、走ってるときが一番生き生きしてるな。いつもいい顔をして走ってる気がするよ」

「そっ、そんなこと言われるとなんか照れるな……」


 珍しく日向が、俺から視線を逸らす。


「そうだ、なんか飲むか? コーンポタージュでも飲もうかなって思ってたから、ついでになにか奢ってあげるよ」

「いいの? じゃあ……コーラで」

「あいよ」


 この寒いのにコーラかよ……。


 俺は自販機で二人分の飲み物を買い、またベンチへと戻った。


「ほら、風邪ひくなよ?」

「サンキュッ」


 二人並んで、俺は温かいコーンポタージュを一口、日向はプシュッと気持ちのいい音を響かせてコーラをごくごくと飲む。


「うまい!」

「こっちは見てるだけで寒いよ」

「走ってるとあったまってくるからさ」


 両手でコーンスープの缶を握る俺と、男らしくコーラを飲む日向。


 あれ? なんか、男女逆じゃね?


「そういや日向、俺と二人で話す時だけなんか、男口調っぽくなるよな」

「ん? まあ、なんだろ……癖っていうかなんていうかな」

「癖って、なんの癖だよ」


 いつからだったろう。日向がこういう口調で話すようになったのは。詳しくは覚えていないけれど、確か中学の途中からだった気がする。


 そんな口調のせいもあってか、俺の中で日向は中学のころから、男友達に近い、そんななんともいえない存在だった。


「いいんだよ、そんな話はさ。それよりちょっと寒くなってきたし、そろそろ行くわ。ジュースありがと」


 日向はあまり聞かれたくなかったのか、適当に話を終わらせて腰を上げた。


「なら俺も行くかな。明日寝坊すんなよ?」

「水瀬こそ」


 日向に続いて俺も立ち上がり、温くなったコーンポタージュを一気に飲み干す。底には飲みきれなかったコーンが溜まってしまって、なんだかかすっきりしなかった。


「じゃあ、また明日」

「じゃ」


 ごみ箱に缶を投げ入れたら日向と別れて、また一人で家まで歩く。


 缶底に残ってしまったコーン達のせいかおかげか、さっきまでの妙なワクワク感はすっかり収まっていた。


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