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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第3章 そして彼女は想いを伝える。
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閑話 彼女はもう、止まらない。(小春 side)

     ◇◇◇◇◇



「じゃあ二人とも、これからよろしくね」

「あぁ、じゃあな、佐藤」

「ばいばい、佐藤さん」

「うん、じゃあね」


 生徒会室でのあれこれもお開きになって、私は水瀬くんと藤宮さんに別れを告げた。


 生徒会の他のメンバーも皆帰ってしまって、残っていた二人が教室を出たので、私は生徒会室に一人だけになってしまった。


「はぁ……」


 大きく息を吐いて、椅子に全体重を預ける。


 疲れた。やっぱり慣れないことはやるもんじゃない。前髪を切って、眼鏡をコンタクトにしただけでもよく頑張ったと思うけれど、今日の私、上手く振舞えていたかな?


 朝から水瀬くんには私だと気づいてもらえなかったし、教室に入ったときにはクラスメイトから驚愕の目も向けられた。


 生徒会では生徒会長らしくなるべく堂々としていたつもりだけれど、水瀬くんの目に私は、どんなふうに映っていただろうか。


 いや、何を焦ってるんだ、私! 今までの人生をずっと根暗で過ごしてきたくせに、一日で急に変われるわけがないじゃないか。これから時間をかけて、変わっていこうって決めたんじゃないか。


 そろそろ、二人も校門を出る頃だろうか。


 そんなことを考えて、かばんを手に取り立ち上がる。


 藤宮さんには思いっきり出遅れているというのに、何を余裕かましてんだ私! ともちょぴり思うけれど、ここ最近は私のせいで水瀬くんが彼女と過ごす時間が減ってしまったのだから仕方がない。その分の埋め合わせはしないと。


 私のためにこの一か月水瀬くんが頑張ってくれたのはあくまで応援責任者としての仕事のためなんだ。私個人のために彼が進んでしてくれていたならともかく、それで二人の時間を奪ってしまったらそれはきっと、フェアじゃない。


 どうせ勝ち目なんてほとんどゼロに近い戦いに挑むんだ。それならせめて、堂々と胸を張って勝負したいじゃないか。


私からしたら藤宮さんはライバルどころかラスボスで、逆に彼女にとって私はその辺の石ころくらいにしか見えていないかもしれないけど、これは私が納得するかどうかの問題だ。


「でも副会長に藤宮さんを推薦ってのは、やりすぎちゃったかなぁ……」


 生徒会室の鍵をかけて、それを職員室に返してから階段を下る。油断すると、ついつい弱気な本音が言葉になって零れ落ちてしまう。


 あんなことしなければ、藤宮さんのいないところで水瀬くんと二人っきりで作業……なんてこともできたかもしれない。



 でも、後悔はしていない。



 彼女に副会長になってもらったのは、正々堂々と勝負できるような私になれるように、昨日決めたことだ。


 きっとそれをしなかったら、私は水瀬くんとたまに二人で作業をできるだけで十分に満足してしまうと思う。



「さむっ」



 下駄箱で革靴に履き替えて外に出ると、もうすっかり冷たくなってきた秋風に髪が揺らされた。


 そうだ。目標を決めよう。


 肩をぶるぶるっと震わせながら、ふいにそんなことを思いついた。


 そうだな……直近で修学旅行がある。それまでにもっともっと可愛くなって、自分を磨いて、想いを伝えよう。


 うん。それがいい。


 昨日までの私なら絶対にそんなことは考えなかったと思うけど、今は違う。髪をさっぱり切ったからだろうか。それとも、眼鏡をコンタクトに変えたから?


 ううん、どっちも違う。


 これはたぶん、水瀬くんのおかげだ。



 そして、水瀬くんがいたから私はこんなに変われたんだよって言えるように。



 第一歩は踏み出した。



 ――私を止めるものはもう、なにもない。


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