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なぜだか隣の家の転校生の好感度が高すぎる。  作者: 鞘月 帆蝶
第2章 そして彼女は動き始める。
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第30話 そして彼ら彼女らは演説に臨む。(7)(すず side)

更新遅れましたm(_ _)m




「私は――――中野すずは、神木亮が好きです」



 ――――言った。言ってやった。



 全校生徒の目の前で、あいつに伝えたいことを、ずっとずっと伝えたかったことを言葉にしてやった。


 この一か月間やってきたことは水の泡になってしまったけれど、でもそんなことなんてもうどうでもいい。十数年の想いを吐き出してやった。それだけでいい。


 急にざわつき始める生徒たちを見て、恥ずかしさが遅れてやってくる。


 ちらりと舞台袖に目をやると、亮が私のことをじっと見つめていた。

 顔がさらに熱くなる。


 視線を前に戻すと、全校生徒からの刺さるような眼光を感じる。


「――いっ、以上ですっ!」


 私は咄嗟に演説を切り上げて、みんなの視線から逃げるように舞台袖へと足を動かした。



 ――――言った。言ってしまった。



 ずっと胸にしまっていた想いを、言葉にしてしまった。もしかしたらもう、ただの幼馴染には戻れないかもしれない。


 亮はどう思っているだろうか。迷惑に思っていないだろうか。


 私は目を合わせるのが気まずくなって、亮の前を素通りしてそのまま非常口から外へ出る。


「お、おいっ! 待てって!」

「…………」


 後ろから、声を掛けられた。


 亮の言葉に私は答えない。恥ずかしくて振り向くことができない。


 徐々に歩くスピードを上げて、終いには走り出して。追いかけてくる亮を引き離そうと階段を駆け上がる。


 それでも私がサッカー部の亮から逃げられるはずもなく、少しずつ距離を詰められる。



「おい!」



 そして、教室の前まで来たところで、私は亮に腕を掴まれた。


「…………なによ」

「いや……」


 亮が言葉に詰まって頬をぽりぽりと掻く。


「…………返事」

「へ……?」

「返事は?」


 間抜けな顔で聞き返してきた亮に、私は続けた。


「告白したんだから、その返事はどうなのかって聞いてるの!」

「あっ……そういうことか」


 まったくこいつは、私がどれだけ勇気を振り絞ったと思っているのか。一番伝えたいことを言えだなんて言ったのは、どこのどいつだよ。


 いやまあ、そういう意味で言ったんじゃないことは分かっているけど。


 亮には少し腹が立ったが、自分が選挙の演説で公開告白なんてことをしてしまったんだと改めて実感し、身震いする。


 この後どうなるんだろう。先生になんて言われるか……。


 それにこの告白がもしも上手くいかなかったら……。



「――俺も、昔から好きだけど」

「へ……?」



 思考を巡らせている最中の予想外の返答に、思わず腑抜けた声が漏れた。


「…………なんだよ」

「……なんでもない」


 二人して黙り込む。



 ――俺も、昔から好きだけど。



 脳内で何度もなんども、その言葉が反芻される。


 率直に嬉しい。長年抱き続けていたこの想いは、一方通行じゃなかったんだ。亮も私のことを、想っていてくれていたんだ。幸せが胸から溢れ出してしまいそうな気分になる。


「でも、付き合ったりするのはまだやめとかないか?」


 頬が緩みきった私に、亮は言った。


「なんで?」


 次の瞬間、私は訊き返していた。



 両想いだったら普通付き合うものじゃないの?

 ずっと我慢してきたしたかったことも、今までじゃできなかったことだって、出来るようになるんじゃないの?



 私の短い言葉に込められた意味を察してか、亮は真面目な顔で口を開く。


「奏太から聞いたよ。お前に黙ってこの高校を受験したこと、ずっと引っかかってたんだってな」

「…………?」


 それがどうしたというのか。そりゃあ、ずっと気になってはいたし、もしかしたら私のことを邪険に思っているのかとも考えた。


 でも、それは違ったんだ。今、亮は私のことを好きだと言ってくれた。それがすべてだ。それだけでいい。


 ん?


 そこまで考えて、ふと気づいた。亮は昔から、私のことが好きだった。それならなんで、私から距離を置くようなことをしたのだろう。


 もしも私のことを好きだったら、私に黙って違う高校を受けることも、サッカー部に入ろうとする私の邪魔をすることもないだろうと、ずっと思っていた。

 そういうことをしてくるということは、つまりは私の想いは一方通行なのだろうと。


 でも、違った。


 私はようやく納得した。


 ずっと私のことを好きだったのに、亮が何も言わずに私とは違うこの高校を受験した理由。距離を置かなきゃいけなかった理由。


 それがきっと、付き合わないでおこうと言うに至った原因でもあると、そういうことなんだろう。


 自分の中で腑に落ちて、亮の口から出てくるであろう言葉に耳を傾ける。



「そんなたいした話じゃないんだけどな――」




 ――そして亮は、私にすべてを打ち明けた。




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