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第一話 転生して川に落ちました

 俺は異世界への転生を果たした。

 前世は日本で、『魔』の鍛錬をしていたが花開くことなく、若くして死んでしまった。

 どう死んだかは覚えていない。

 最後の記憶は真っ暗だ。恐らく、魔王である俺を暗殺しようとした組織による仕業だろう。


「ふむ、魔法には【火】【水】【風】【土】【光】【闇】【無】の7属性あるわけか……」


 本をめくり、知識を吸収する。

 この世界、前までの世界とは違い魔法という物が存在する。

 そう、それは俺が前世で追い求め、ついに手にする事の出来なかった技術。


「【無属性】は誰にでも使える基礎魔法か」


 つい最近まで本を読むことのなかった俺だが、六歳の誕生日に母と父が大量の書物を買ってくれた。

 そして、初めてこの世界が《剣と魔法の世界》である事に気づいた。

 誕生日から一か月ほどが経って、俺は朝から夜まで本を読んでいた。

 俺の生まれた村には、前の世界で言う学校がない為、学びたい事は自力で頑張るしかない。

 そして今日、一通りの魔法学を覚えた俺が初めて魔法に挑戦する。


「__魔法発動【鑑定】」


 鑑定、無属性魔法の中でも最も難しい物。

 触れているものの能力、ステータスが大体だが分かる。

 因みに、人間に対しては自分以外に使用不可。


〔魔法学・上級〕

『魔法学の中でも、扱いの難しい魔法や魔法陣が記されている。

 難関の魔法学校で使われている』


 まぁ、はじめてなんだから、この程度の情報しか分からないか。

 しかし、いきなり【無属性】とは言え上級魔法を使えるとは、やはり俺は魔王の素質があるな。

 そう! 俺が『魔』を研究する理由、それは前世からの憧れ《魔王》になるためだ。

 俺にとって、魔王とは少年が幼い頃に憧れる正義の味方と同じ。

 叶わないと分かってはいたが、憧れてしまう悪役(ヒーロー)だった。

 それが、この世界に来て叶う可能性が出てきた!

 こんなに幸福な事はない!


「次は【火属性】か。流石に危ないな……。外で試すか」


 俺は家から出る。

 近くの川まで向かい、周りに人がいない事を確認する。


「__魔法発動・【フレイム】」


 フレイム、基礎的な【火属性】の魔法。

 マッチ程度の火を数秒間、起こす事が出来る。

 俺の指先に炎が灯る。熱い。

 まぁ、基礎程度ならできて当然だな。


「やはり、天才だったか俺__」


 これは自信過剰などではなく事実。

 詳しい事は聞いていないが、俺が生まれた時、俺には特別な力があると診断されたらしい。

 幼い頃の俺に言っても理解できないからと、お母さんは物が分かる年になるまで言わないつもりらしい。

 よく小説である。死んだら神様に会って特殊な力を貰った。などという事はなかったが、運の良い事に才能を授かった。

 正直俺は、それだけで満足だ。

 確かに、すべてを壊す剣や間を使役する力なんかは欲しいと思うが、もらえたら嬉しい程度に思っている。

 今からでもくれないかな……。


「ライト~。ちょっとおいでー」


 家の方からお母さんの声が聞こえる。

 おっと、名乗り遅れた。俺の名前は《ライト・コレクト》。

 またの名を《アスラ》。ふっふっふ、カッコいいだろ?


 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆


 家に戻ると、玄関先にお母さんが立っていた。

 白色の綺麗な髪をした美人だ。

 自分のお母さんを美人というのもなんだが、美人なのだから仕方ない。


「なんだ母よ」


「お帰りライト! 少し話があるからお父さんの部屋に来てくれる?」


「父の部屋か……。参ろう」


 お父さんの部屋に呼ばれるのは久々だ。

 何か大切な話でもするのだろうか?


「おう、ライト!」


「父よ。話とは何なのだ?」


 お父さんの部屋に入ると、ワイルドな髭を生やした筋骨隆々なお父さんが大声で出迎えてくれた。

 俺のお父さんは狩人をやっていて、村では一番の弓の名手らしい。

 斧を振り回してそうな見た目をしているが、繊細な仕事が得意なようだ。


「昔、お前に言っただろう。お前には神からのご加護があるってな」


「あぁ、その話か……」


 先程話した事だ。

 そうか。今日はそれを話すために呼んだんだな。

 正直、気になってはいた。

 物心は生まれた瞬間から合ったが、神のご加護どうこうってのは俺が寝ている間にしていた話らしくて俺は知らなかったからな。


「ライト、お前……《魔王》って奴を知っているか?」


「もちろんだ」


 魔王……。知っているも何も俺の憧れだ。

 なぜ、そんな事を今き……まさか!! 俺が授かった能力ってのは……《魔王》の素質とかか!?

 道理で魔力の使い方が上手いわけだ!

 俺は内心歓喜に震えている。というか実際震えている。

 そうか、そうだよな。俺って《魔王》の素質あるもんな!


「__ライト、お前は魔王を倒す《勇者》だ」


「……であろうな。我は魔王って、え__?」


 聞き間違いだな間違いない。


「すまない。もう一度言ってくれ」


「__ライト、お前は魔王を倒す《勇者》だ」


「……嘘だ」


 そんなバカな……!?

 俺のどこに勇者要素があるんだ!!


「本当よ。ライトは困っている人が居たら助けてあげる優しい子だからね。昔、母親なのに人生相談されちゃったもの私……。ライトは勇者の鏡ね」


「あぁ、そうだな! 弓の腕前も正直俺より上手いしな! 俺も人生相談されたし、辛い時に優しい言葉掛けられて泣いた事だってあるぞ!」


「あなた、それは情けなさすぎるわ」


 いや、それはあれだ。別に助けたわけではない。

 配下候補を失わないために仕方なくやったことだ。

 魔王といえど、人望がなければいけない。

 たった一人では、勇者どころか僧侶にすら勝てないだろう。


「認めんぞ……」


 そうだ。これは悪い冗談だ。

 何かの間違いだろう。

 俺ほど魔王に向いているものもいないはずだ。

 勇者など、他の者がやればいいだろう。


「本当は、10歳になったら話すつもりだったんだがな。お前の成長ぶりを見て、今話しても大丈夫だろうって事で話したんだ」


「ライトは、そこら辺の大人よりしっかりしてると思うわよ」


 それはそうだろう。

 俺の精神年齢はすでに、お父さんお母さんを抜いている。

 前世で死んだのがいつだったかは覚えていないが、大体23くらいだったはずだ。


「ライトの悪い所なんて、少し口調がおかしいくらいよ」


「そうだな。少し口調がおかしいくらいだな」


 おい、この口調は前世からのものなんだ。

 可笑しくもなんともないだろう!


「お前を魔王と戦わせるのは、正直気乗りしないが、魔王を倒せるのはお前しかいないらしいんだ。頑張れ」


 俺は魔王と戦う気はない!

 せめて戦うなら、魔王の座を掛けた決戦とかがいいんだ。

 それに、、らしいってなんだ! 曖昧か!?

 もしかしたら、俺以外にも勇者はいるかもしれないだろう!


「我は、《勇者》になどなる気はない」


「え、どうして?」


「我にはなりたいものがあるんだ。それは勇者とは対極ともいえるもの」


 お母さんとお父さんには悪いが、俺の夢は邪魔させない。

 俺は、魔王になって全世界を支配し、国という概念を《魔の国》に統一し、宗教を廃止し、醜い争いを無くし、皆で手を取り合い、笑顔で悲しみの少ない世界を作りたいんだ。

 お前らの言う、甘ちゃんな勇者様とはわけが違う。


「それにだ。我に勇者は似合わない」


「そうかしら……」


「お前ほど適任な奴はいないと思うんだけどな」


 俺が適任? そんな訳あるか。

 俺みたいに薄汚れた奴が、勇者に適任なわけないだろう。


「まぁ、成人までまだ九年もあるんだ。焦ることもないか」


「ま、そうね。この子もまだ若いんだから。やりたいことを沢山させてあげましょう!」


 成人まであと九年?

 おい、まさかこの世界の成人って十五歳なのか?

 江戸時代か何かな。そんな若いうちに成人なんてしてしまったら、若者の苦労が増えるだけだろう。

 俺が、魔王になったら成人年齢をニ十歳まで上げるか。


「__また、魔王にならなければいけない理由が増えた」


 やはり俺は、勇者には向いていないようだ。


「話も終わったし、もう戻っていいぞ。ライト、珍しく外に遊びに出ていたんだろ?」


「遊びではない。《試練》だ」


 そう、魔王になるためのな。


「そうか。それじゃ、試練に戻っていいぞ」


「そうさせてもらおう」


「川に落ちたりしないようにね」


 誰がそんなバカみたいな事をするか。

 俺は、家を出て先程までいた川近くに戻る。

 周りに人がいないことを確認すると、魔法の鍛錬を開始する。


「__魔法発動・【ウォーター】」


 ウォーターはペットボトル一本分ほどの水を手から出せる魔法だ。

 水属性魔法の基礎である。見た目は少しダサい。


「__魔法発動・【ウィンド】」


 ウィンドはそよ風程度の風を起こせる魔法。

 風属性魔法の基礎である。気持ちいい。


「__魔法発動・【サード】」


 サードは砂埃を起こす事の出来る魔法。

 土属性魔法の基礎である。目が痛い。


「__魔法発動・【フラッシュ】」


 フラッシュはカメラのフラッシュ程度の光を体から発する事の出来る魔法。

 光属性魔法の基礎。眩しい。


 【火】【水】【風】【土】【光】の魔法を使えた。

 本来、別属性の魔法を使うのは不可能と本には書いてあった。

 しかし、使えたはいいものの、どれも見た目がカッコよくない。


 まぁいい、俺の使いたい属性の魔法は他にある。

 そう、闇属性魔法だ。ここまで全ての属性を使えるんだ。

 闇属性も使えるだろう。闇属性……響きだけでかっこいい。


「__魔法発動・【シャドウ】」


 シャドウは自分の周りを暗くして姿を隠す魔法。

 闇属性魔法の基礎。


 ……発動しない。

 なぜだ。本に書いてあった通りにしたはずだぞ。

 気持ちの問題か? もっと、闇属性っぽくしないと駄目なのか?


「くっくっく……__魔法発動・【シャドウ】」


 発動しない。

 まだ駄目か? もっと気持ちを込めないと駄目なのか?


「フハハハハハ!! 絶望に伏せるがいい!! これが魔王である我の魔法__魔法発動・【シャドウ】」


 発動しない。


「いいだろう勇者よ! 貴様がここまで来た褒美に見せてやろう!! __魔法発動・【シャドウ】」


 発動しない。


「闇とは光すら喰らう美だ。そして我は美の体現者、闇の体現者だ……。魔王の美を見るがいい__魔法発動・【シャドウ】」


 発動しない。

 意味が分からない。

 なぜ発動しない。

 完璧だろう。


「__お兄ちゃん、何してるの?」


「うおっ!?」


 魔法の鍛錬に集中しすぎていたせいで、近づいていた少女に気づかなかった。

 いや、まさか貴様、気配遮断の使い手か!?


「貴様、いつからそこに居た」


「さっき」


 子供特有の曖昧な返答だ。


「我の近くにいると怪我をするぞ。泣き目に会いたくなければ帰るがいい」


「あ、私それしってる! プレイボーイってやつ!」


 少女が嬉しそうな顔で言ってくる。

 いや、俺が言っているのは「俺に触れたらやけどするぜ」的なやつじゃない。

 物理的に怪我をするという事だ。


「違う。とにかく、ここから去れ」


「えぇ……、分かった」


 渋々だが少女は帰ってくれるようだ。

 少女が俺の方に背を向け、帰るため一歩踏み出す。


「__あっ……」


 すると、運悪く少女は石で足を滑らせて川に落ちてしまう。

 バシャン、と音を立てて川に落ちる少女。

 この川は浅くて、水の流れも緩やかなので流される心配はない。


「おい、大丈夫か!?」


「……う」


 う?


「うわあああああああん!!!」


 少女が立ち上がり、川の底に沈んでいた泥で汚れた服を見ながら泣き出してしまう。


「ど、どうした!? 何処か痛いのか!?」


「ふぐよごれだぁ! ママにおごられるぅ!!」


 あ、そう言う事か。


「だ、大丈夫だ。足を滑らせて転んでしまったのなら仕方ないだろう。貴様の母も心配こそするだろうが、説教などしないだろう」


「うわああああん!!」


 少女は泣き止まない。

 くそ、仕方ない。


「我も一緒に、母に謝ってやる。それでどうだ?」


「ほんどうに……」


「本当だ。だから、まずは川から出__」


 俺が少女に手を伸ばした瞬間、俺も足を滑らせしまう。

 そして、重力に逆らうことも出来ず俺の体は川に落ちる。


「わぶっ!?」


「……お兄ちゃん大丈夫?」


「……あぁ、大丈夫だ」


 俺は即座に立ち上がる。

 川に落ちるわけないと思っていたが、落ちてしまった。

 まぁ、仕方がない。魔王とはいえ、まだ幼子なのだ。

 川に落ちることくらいあるだろう。


「ほら、これで我も貴様と同じだ。風邪をひかぬうちに村まで戻るぞ」


「うん……、ありがとう優しいお兄ちゃん」


「……我は魔王だ。優しくなどない……。あと、お兄ちゃんではなく《アスラ》と呼べ」


「分かった。アスラお兄ちゃん」


 お兄ちゃん呼びを止めろと言ったのに、お兄ちゃんを付けては意味がないだろう。

 少女は、嬉しそうに笑みを浮かべながら俺の手を握る。

 仕方がない。今日の鍛錬はここまでにして、少女を家まで送るか。

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