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第十三話 ミノタウロスの角を手に入れて気絶しました

 【神足】は風属性魔法と光属性魔法を合わせて作った俺のオリジナル魔法だ。

 足に黒い靄がかかり、速度が通常の十数倍になる。

 それが聖剣により強化され、今の俺の速度は常人じゃ目で追うことも難しいだろう。


「モー!」


「なっ、防御された!?」


 だが、ミノタウルスの角めがけて振り下ろした聖剣がミノタウルスの斧に防がれてしまう。

 聖剣を防御した斧は当然のように砕け散ったが、俺は防御された衝撃に一瞬固まってしまう。

 確かに、ミノタウルスの野生で磨かれた目なら俺の速度をめでとら得ることもできるだろうが……それを防御できるかどうかと言われれば、ほぼ十割で無理だろう。


「アスラ様、このミノタウルスは強化されています。ステータスも異常と言えます」


「またかッ__!?」


 突如感じた後ろからの殺気に、俺はその場から一瞬で離れた。

 俺が先ほどまで居た場所に斧が振り下ろされている……。

 危なかった。もしも、避けるのが1秒遅れていたら頭から真っ二つだっただろう。

 気が付けば五体のミノタウロスに囲まれてしまっている。


「【鑑定:ステータス】」


【ミノタウロス】

・主に山などの自然に囲まれた場所に住む半人半牛のモンスター。

・付与スキル【魔】

・【魔】の能力により、全能力が数倍に上がっている。


 また、【魔】が付与されてるのか……。

 流石に子竜ほどの力を持っている訳はないだろうが、五体も集まられては角だけを取るのは難しいかもしれない。

 それにリリィさんの事も心配だ。出来るだけ早くこの場を収めないと……。


「【諸刃の剣(リスキータイム)】」


 オリジナル魔法【諸刃の剣(リスキータイム)】を発動する。

 これは、風・光・無属性の3つの属性の魔法を同時に使って発動できる魔法。

 防御力が赤子並みになる代わり、攻撃力と俊敏性が数倍になる。

 これは、俺の最高火力であり、一度痛い目を見たから2度と使わないと決めていた魔法だ……。

 この魔法の欠点は防御力が下がる影響で自分で自分に与える負荷が数倍になってしまう。

 今の俺でも使えて数分が限界の技だが、数分あれば十分だろう……。多分。


「アスラ様……攻撃力と俊敏性のステータスが化け物じみた感じになっていますが、あなた本当に人間なんですか?」


「遠回しに罵倒するな。もちろんこの技にはタイムリミットがある。早く片付けるぞ」

「はい、私も角を斬りやすい形に形状変化します」


 聖剣(アン)が光だし、少しずつ小さくなっていく。聖剣(アン)の形状がナイフの様になる。

 色々と言いたい事はある。お前形状変化とかカッコいい事できるなら言ってくれよとかな。

 だが、今は時間がないから無視して攻撃を開始する。

 刹那__。強化されたミノタウロスと言えど目で追うのがやっとの速度で角を切り落とす。


「恐ろしく早い斬撃、私じゃなきゃ見逃しますね」


「ツッコまんぞ」


 もしかして、聖剣(アン)は俺の前世を知っているんじゃないか。

 アンの言った聞き覚えのあるセリフに俺はそう思ったが今は聞いている時間がない。

 痛ッ! 俺は痛みを感じた足を見る。足は腫れあがり、恐らく折れている。

 やはり、【風の羽衣】と【神足】と【疾風俊足】を合わせたのは無理があったか……。

 確かに速度は凄まじいが、防御力の落ちた体で耐えれるわけない。


「大丈夫ですか?」


「足が折れたくらいだ。致命傷じゃない」


「そうですか……」


 心配した様な声に聞こえたが、今は気にしている暇はない。


「次は慎重に、そして上手くやる」


 俺は残り四体のミノタウロスの角めがけて走り出した。

 俺がミノタウロスの角を切り落とすのに掛かった時間は1秒ほどだろうが、俺の体感では数分にも感じるほどの時間の流れ、ミノタウロスには全員気絶してもらった。

 あぁ、きつい。全身合わせて数十か所に内出血、右足骨折、全身痛くて分かりにくいが右手の小指を親指も骨折しているな。


 俺はミノタウロス達の生息地から離れた場所まで歩き、倒れこんでしまう。

 最後の一匹に反撃されなければここまでひどい傷は負わなかっただろうが、まさか砂で目つぶししてくるとは思わなかった……。

 リリィさんの増援に行きたいが、体が動かない。


「連続して現れる【魔】の付与されたモンスター……。もしかしたらですが、魔王がアスラ様の情報を入手して送り込んでいるのかもしれません」


「……どういう事だ?」


「スキル【魔】とは魔を生み出す魔王にしか与えられなスキルです。空を飛び移動する竜ならばあり得ない話ではないと思いましたが、ミノタウロスまで【魔】を付与されているとなると魔王がピンポイントでこちらを狙ってきているとしか考えられないのです」


「もしそうだとしたら、これからあんなのと戦い続けないといけないわけか……」


 倒してしまってもいいのであれば、勝ち方なんていくらでもある。

 あのミノタウロス達にだって無傷で勝つ事は難しくない。

 だが、今回の様に敵をほぼ無傷の状態で目的だけを果たすとなると話は別だ。

 戦い方も限られるし、ある程度力をセーブしないと消し飛ばしてしまうかもしれない。


「アスラ様、今回の様な事があれば迷わず全力を使うのがよろしいかと……。優しいのは分かりますが、それで自分が傷を負っては元も子もありません」


「舐めるな。条件付きだろうと我が負ける事は毛ほどもない。問題なのは新しい戦い方と見つけないといけないという事だ」


 こんな事なら催眠系の魔法でも開発すべきだったな……。

 催眠魔法というのはあるが、それは闇属性の魔法だ。

 催眠とか洗脳とかは卑怯だと思って開発しなかったのが裏目に出てしまった。


「ギルドにクエスト達成を報告したら、すぐに開発する……」


「分かりました。私も全力で手伝わせていただきます」


「あぁ、感謝しよう」


 痛みのせいか意識が遠のいていく。

 仕方がないな……少し休もう。

 リリィさんの事だから、一人でもなんとか出来るだろう。

 それに、満身創痍の俺が行ったところで足手まといだろうしな……。




 __私、リリィは今とても困っています。

 原因は目の前のミノタウロスさん達……。


『なんでもご命令ください』


 五体のミノタウロスさんに跪かれています。

 それに、ご命令くださいって……。


「あっ、だったら角を頂戴……無理かな?」


『いえ! 全員、角を切り落とせ!』


 何の迷いもなく、自分の角を斧で切り落として私の前に献上してくる。

 い、胃が痛い。これは私のスキルである『魔王』のせいだと思うけど、洗脳しているみたいで罪悪感が頭を埋め尽くす。

 スキル『魔王』は、自分より弱いモンスターや魔物に【魔】という特殊スキルを与えて強化する代わりに自分に対する忠誠心を芽生えさせるというもの。


「あ、ありがとうね」


『ありがたきお言葉。俺達はあなた様の忠実なる下僕。何なりとお申し付けください』


「えっと、じゃあ、もう帰っていいかな?」


『はい、宜しければ護衛を……』


「いらないいらないいらない! そ、それじゃあね!」


 私は駆け足でその場から離れた。うぅ、なんで私、《魔王》なんだろう。

 出来れば勇者に生まれたかったなぁ。

 ため息を漏らしながらアスラさんと別れた場所まで戻る。


「それにしても、アスラさんって何者なのかな……。全身真っ白な魔力で覆われて、剣も神々しいし」


 私は腰に差している剣を見る。

 私の剣は神々しいではなく禍々しいという言葉の方が似合い。

 本当にこれは聖剣なのかと疑ってしまう。


「それに比べて《グラム》は……もう少し聖剣らしくできないの?」


 アスラさんの聖剣と違って、グラムは喋る事が出来ない。

 いや、アスラさんの喋る聖剣さんの方がおかしいんだけどね。

 そんな事を考えながら歩いていると、アスラさんと別れた場所まで戻ってきた。

 すると、私の目の前にはボロボロで倒れてしまっているアスラさんの姿があった。


「__アスラさん! 大丈夫ですか!?」


「止まってください」


 驚きアスラさんに詰め寄るとアスラさんの右腕が動き、右手に持っているナイフが私の喉元に突き立てられる。

 私は反射で避けられたが、ナイフは確実に私の喉を切り裂くつもりだった。

 殺気も無かったし、気配も無かった。でも、今の動きは確実に威嚇ではなかった。

 冷や汗が出て、私の心臓が速度を増していく。


「アスラ様はミノタウロスとの戦闘で傷を負い、気絶しています」


 ナイフから声が聞こえてきた……。

 そしてこの声、聞き覚えのある透き通った綺麗な声で、私はすぐに誰か分かった。


「聖剣さん……」


「本来なら逸早くアスラ様を王都まで連れて行って欲しいのですが」


「だったらなんで」


「あなたは怪しすぎます……。私やアスラ様でも見る事の出来ないステータス。アスラ様が満身創痍になって手に入れたミノタウロスの角を無傷で調達。あなたと一緒にいる時に会う強化されたモンスター……。流石に、見て見ぬふりをできる範疇を超えています」


 そうか……。アスラさんは私のスキルで強化されたモンスターのせいで傷だらけになったんだ。

 アスラさんの実力は少ししか見ていないけど、凄く強いのは分かる。

 そんなアスラさんが傷だらけで任務を達成したのに、私は無傷で居られるわけがない。

 確かに、アスラさん達の目線で見たら私怪しすぎ!


「えっとね。今から話すのは嘘じゃないよ」


「はい……」


「私は……《魔王》なの__」

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