第十二話 仲間になってミノタウロスの角を取りに行きます
__もしも、この場にいる全員が嘘をついてないのだとしたら、ここには勇者が三人いる事になる。
大丈夫か今の魔王さん……。
もし俺が魔王で二人と戦うってなったら、素で五分五分、聖剣を使えば十中八九の確率で俺が勝てるが、俺なら戦いたくはないな。
「ゆ、勇者なの?」
「えぇ、私は勇者ですよ。【偽物】ではなく【本物】のね」
ん、俺なんかしたのか……?
ブレイブさんに凄く睨まれてるというか、殺気を送られている気がするんだけど……。
しかも、周りには気取られないように俺だけに分かるように送ってきている。
な、なんなんだ本当に……あっ、もしかしてあれか、俺が勇者って言ったから偽物だと思って怒りを感じてるのか……。
確かに、勇者は自分一人だけだって思うよな。俺もそう思ってたし……。
腰に差している聖剣が勝手に鞘から少しだけ刀身を出した。俺は焦って手で刀身部分を隠し、アンの事を睨むような目で見る。
(アスラ様、聞こえますか?)
「聞こえている。それより今は話せる状態じゃないのだ。あとに」
(いえ、今は【共有】という魔法で話しているので、考えた事が私に直接伝わりますよ。私に語り掛けるように何かを思ってください)
考えている事が直接伝わる? なんだ。つまりテレパシー的な今脳内に直接語り掛けている的な感じなのか?
(これでいいのかアン)
(はい、大丈夫ですよ)
(で、いきなり何なんだ? 俺は今、少し忙しいんだが)
(はい、すべて見させていただきましたので把握しています。それで、私から一言)
(ん、なんだ?)
(勇者はこの世で一人、アスラ様のみです。これは決定事項であり、覆る事のない事実ですので、そこのお二人はどちらも偽物です。ステータスを見ればすぐに分かるかと……アスラ様、無詠唱できますよね)
(無詠唱で魔法を使うのは卑怯者みたいで嫌いなんだがな)
(魔王になるとか言ってる人が何言ってるんですか……)
まぁ、それもそうか……。
__【鑑定:ステータス】
名前>
年齢>
性別>
職業>
経歴>
ステータス>
スキル>
目の前にパネルの様なものが出現する。
(なんか、前と違う気がするんだが)
(それは、私の能力でアスラ様の能力が強化されているから、鑑定の魔法が強化されたのだと思います)
なるほど、と思いつつ俺は目の前のパネルの『名前』と書かれている部分を人差し指でタッチする。
名前<ブレイブ
これはあれだな。前世で言うところのタッチパネルと同じわけだ。
俺は上から順に一つずつ押していく。
年齢<19歳
性別<女
職業<聖騎士
経歴<幼い頃に母を亡くし、父親から酷い虐待を受けていた。父親は13歳の時に急病で死んだが、虐待の恐怖から男を憎むようになり、この世の男たちから女性を守ろうと聖騎士になった。
15歳になった時、国から勇者を演じるように命令を受け勇者のフリをしている。
ステータス<
体力:強い
魔力:強い
攻撃力:強い
防御力:強い
俊敏性:強い
運:良いとは言えない
スキル<
・勇者の欠片
『勇者ではないが、勇者の力の一部を使えるスキル。【効果】全ステータス強化・勇気付与』
・勇気
『自分より圧倒的に強い者でない限り、立ち向かう事の出来るスキル』
(おい、これって見ちゃダメな奴だったんじゃないか? てか、この人女の子だったのか)
(お、女の子の秘密を勝手に見るなんてアスラ様最低ですね)
(き、貴様が見ろと言ったんだろうが!)
(私の【鑑定】ではここまでの情報は見れませんでしたよ。どれだけ魔法のコントロールが上手いんですか。普通、経歴までは見れませんよ)
そんな事を言われても、上手いものは仕方がないだろう。
俺は、殺気を送ってくるブレイブさんに憐みの視線を送る。
そうか、この人は俺からリリィさんを守ろうとしている訳なんだな……。
「それで、どうですか? 私達のパーティーに」
「ごめんね。私、アスラさんと組むつもりだから」
「なっ……そ、そうですか。それなら仕方ないですね」
ブレイブさんはまさか断られると思っていなかったようで驚いた表情で、そして少し残念そうな顔で離れていく。
あれ、なんで断ったんだろうか……。
「なぜ、断ったのだ?」
「私、嘘つく人嫌いなの……。それと行列とかに割り込んでくる人も嫌い」
「……そうか」
そうかと言ったが、リリィさんの言っている事を理解できているかどうかと聞かれたら理解できていない。
「あ、勝手に組むとか言ったけど大丈夫だった?」
「あぁ、問題ない」
むしろ俺から誘うつもりだったしな。
「良かった! それじゃ、よろしくね!」
「あぁ……」
リリィさんは笑顔で俺の方を見ている。遠くに行ったブレイブさんは先程よりも凄まじい殺気を俺に向けてきている。
善意と悪意に押しつぶされてしまいそうだ……。
「じゃあ早速、冒険に行こうよ!」
「ん、今からか?」
「うん! 私仲間とか出来たことないからわくわくしてるよ!」
その無垢な表情からは悪意の一切がくみ取れず、善意と楽しそうという事だけが分かる。
俺は立ち上がり、受付に向かう。
「五つ星のクエストを受けれるか?」
「はい、今ある五つ星クエストは『ミノタウロスの角の採取』のみですが、大丈夫ですか?」
「ミノタウロス……あぁ、大丈夫だ」
ミノタウロスは雑魚ではないが通常のゴブリンより少し強い程度のモンスターだ。
【怪力】という自信の筋力を増大させる魔法を使い、自作の斧で戦うのが特徴で角は装飾品として人気がある。
ミノタウロスと戦った事はないが、書物に書いてあったことが事実なら俺一人でも十分なクエストだ。
「では、明日の昼までにミノタウロスの角を20個お納めください。ミノタウロスの生息地は主に
【精霊の山】に生息しています」
「了解した」
「精霊の山かぁ。山登りも久々だよ!」
お気楽なのか余裕があるからなのか、リリィさんはミノタウロスと今から戦うというのに不安を一切顔に出さない。
いや、リリィさんほどの実力者ならミノタウロスなど恐れるに足らずなのだろう。
精霊の山までの地図を受け取り、俺とリリィさんはギルドを出た。
精霊の山までの距離はそこまで離れていない……というか近いな。
急がなくても往復二時間か三時間だろうし、明日の昼までってのは短いと思ったが妥当な時間なのだな。
「何故山に登るのか……。そこに山があるからだよね~」
「ミノタウロスの角を手に入れる為だ。遊びで来てるんじゃないんだぞ」
「いいじゃん! 楽しみたいよ! 私!」
俺は地図を見ながらミノタウロスの居る水辺を探す。
お気楽にスキップをしながら進んでいくリリィさんを見ているとなんだか妹や娘の面倒を見ている気持ちになる……どっちも経験ないけど。
しばらく歩いていると、明らかに人間のものではない足跡を見つけた。
足跡は一直線にどこかを目指して進んでいる。
恐らく、ミノタウロスの足跡だろう。
「本当にこの先に居るの?」
「あぁ、少なくとも人間じゃない何かは居るな」
「何それ……ちょっと怖いかも」
リリィさんが引きつった笑顔になる。
もしかして、お化けとか苦手なのだろうか?
「モー」
「モーモー」
足跡の続いている先に行くと、予想が大当たりし、水辺とその周辺に居るミノタウロスを見つける事が出来た。
うわ、本当に半人半牛なんだな……少し悪いと思うが気持ち悪いと思ってしまう。
ミノタウロスはモンスターの中では珍しい草食で、持っている斧も自衛の為の物らしい。
「さて、時間もあまりないからな……」
平和に暮らしている生き物を襲うのは心苦しいが、俺は聖剣を柄の部分を握る。
念のため、自己強化の魔法だけは掛けておくか。
「【身体強化】【魔力強化】【千里眼】【風の羽衣】【疾風俊足】」
「ちょ、ちょっと! なんでそんなに殺気立ってるの!?」
「何故と聞かれても、今からミノタウロスを倒し角を取るからだが……」
驚いた顔でリリィさんに質問され、俺は素直に答えた。
「か、可哀想だよ……。ほら、角だけさチョキンって斬ればいいじゃん!」
「……可哀想か」
確かに、平和に暮らしているだけの生き物をむやみに殺すのは好きじゃない。
食糧などにするならまだ分かるが、角を装飾品にするために殺すのはあまりに残酷だ。
リリィさんの言っている事は普通なら「そんな事できるか!」と言われるような事だが、俺だったら不可能じゃない。
リリィさんも自分から言うという事は出来る自信があるんだろう。
「分かった。だが、危なくなればすぐに反撃しろ」
「良かったぁ……。うん! 頑張る!」
ガッツポーズをしながら安心した顔で言うリリィさん。
さて、リリィさんの申し出で難易度は上がったが……本気を出せばいいだけだ。
「【剣神】【無痛】【神足】」
三つの魔法を発動する。
まず、【剣神】という剣術の技術を上げる魔法でミノタウロスの角を綺麗に取れるようにし【無痛】という攻撃した相手に痛みを与えない魔法でミノタウロスの角を斬ってもミノタウロスが暴れないようにし【神足】という簡単に言えば【疾風俊足】の上位互換とも言える足を速くする魔法でミノタウロスに気取られることなく攻撃をする。
俺がお父さんと狩りをする時によく使っていた三つの魔法だ。
「我が十四本集める……貴様は六本集めろ」
「うん! 了解!」
「それでは……行くぞ__」
俺とリリィさんは一瞬でその場から離れ、ミノタウロスめがけて走り出した。
何とか11時前に投稿できました!
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