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第十一話 王都に到着して勇者に会いました

 移動中に色々あったが、無事王都の前に着くことが出来た。

 結局、馬車の人達とはほとんど話さずに別れたが、リリィさんは何者だったんだろう。

 俺は背中の筋を伸ばして、一度深呼吸をすると目の前にある大きな門を見る。


「巨大な外壁に巨大な門か……。圧巻だな」


 俺は巨大な門をくぐり、王都の中に入る。

 中に入ると都内の活気が肌で感じられるほどで、流石は王国で一番の人口を誇る所だな。なんて思いながらメインストリートを歩いて宿を探す。

 手持ちは十万程……因みにこの世界の通貨は【キュル】と言い一キュルが前の世界での一円ほどの価値だ。

 実に分かりやすい。


「お兄ちゃん! ここらじゃ見ない顔だね! もしかしてもしかして宿をお探しかい?」


 メインストリートを歩いていると、綺麗な柄の割烹着を来た少女が話しかけてきた。

 少女は看板を持っていて、看板には「宿屋【サン・サン】」と書かれている。

 つまり、この少女は宿屋の客引きという事だろう。


「あぁ、手持ちは十万程なのだが、良い宿を知らないか?」


「おっと偶然! それならうちのやっている【サン・サン】って宿屋が良いと思うよっ! 一泊食事付きで三千キュルだよ!」


 まぁ、この世界に来てから宿屋に泊まった経験などないから安いか高いかなんて分からないけど、今の手持ちを考えたら丁度いい料金だろう。

 出来れば今日中にギルド登録を済ませたいから、他の事は急ぎ足で進めよう。


「おぉ、そうか。ならば貴様の宿に案内してくれ」


「よっし! いらっしゃいませいらっしゃいませ!」


 俺は笑顔で手招きをする少女のあとを付いて行く、メインストリートを少しだけ離れた場所に宿はあり、外装は中々綺麗だが、客引きに必死になるだけあって小ぢんまりとはしていた。


「おっきゃくさんだよおっきゃくさんだよ-」


「あ、いらっしゃい」


 中に入ると中も結構清掃が行き届いており、ぱっと見は新築にも見える。

 カウンターに進むと、カウンターに立っている少年に目が行く、少年は煙管(きせる)を咥えていたが俺を見て一旦煙管置きに煙管を置いて立ち上がる。

 少年は和装の服を着ていて、金髪なのに妙に似合っている。


「十日、宿泊をしたい」


「はい十日ね。三万キュルだよ」


「……一つ聞いてもいいだろうか」


「ん、なんだい?」


 少年は俺の渡した三万キュルを袋に入れる。


「貴様ら二人は兄妹なのか?」


「あはは、そう見えるかい? これでも夫婦だよ。結婚してもう二十年以上だ」


 えっ、この二人夫婦なのか……?

 それに結婚して二十年って、見た目は15歳くらいにしか見えないぞ。

 いや待て、幼い容姿に少々色黒の肌……それに金髪ってもしかして……。


「貴様ら【ドワーフ族】なのか?」


「ん、あぁ、そうだよ。なんだお兄さん、ドワーフを見たことがないのか?」


「あぁ、書物で読んで程度でしか知らないな。そうか、本当に幼く見えるのだな」


「俺達からしたらあんたらが老け過ぎなんだけどな」


 煙管を咥えながら笑う少年。


「ほら、部屋のカギだ。食事は言ってくれれば出しに行くからな。おっと、だからってあんまり遅かったり早かったりしたら寝てるからな?」


「因みに食事の内容は私の気分次第気分次第!」


 流石は王都というべきか……俺は亜人を見たのは初めてだ。

 ゴブリンは亜人というより魔族だからな。

 そうか、ドワーフの経営している宿屋か……なんだか、この世界に来て久々に異世界感というものを味わった気がする。

 俺は、貰ったカギに付けられていた番号の部屋に向かう。俺の部屋は二階の一番奥の部屋だ。

 中に入ると、これまた清掃が行き届いており気持ちよく過ごせそうだ。


「さて、カバンだけ持ってギルドに行くか」


 俺は着替えなどを部屋に置いて、部屋を出る。

 部屋を出て、受付カウンターの前まで行くと俺はとあることに気づいた。


「そう言えば、ギルドとはどこにあるんだ?」


「ん、ギルドに向かうのか?」


「……あぁ、しかし場所が分からなくてな」


「ギルドは家を出て左に真っ直ぐ行くとあるよ」


「そうか、感謝しよう」


 俺は少年にお礼を言って、宿屋を出た。ドワーフって、優しいな。

 見た目も子供みたいで愛らしいし、金髪に和装なのがポイント高いな……奥さんの方も可愛かったし、お似合いの夫婦って感じでほっこりする。

 夫婦か……前の世界では縁のなかったもの、彼女はどうだったんだろうか。

 この世界に来て初めて気づいたんだが、俺は彼女の事が好きだったんじゃないだろうか……気が付くと彼女の事を思っていたし、彼女の為に人生を投げ打っても構わないと、これは彼女が好きだったから出来た行動なんじゃないか?

 ……いや、彼女は親友であり同じ夢を見る者だ……そんな不純な感情を抱いちゃいけないな。


 それにしてもメインストリートじゃなくても、この賑わい……王都に慣れるのには時間が掛かるかもしれない。

 俺はギルドに着く前に、頭の中にあるギルドの情報を思い出す。

 ギルドとは国から特別に許可を得た機関であり、その許可した内容とは『ギルドに所属しているものは魔物の討伐、危険区域への侵入を許す』というものだ。

 例えば、一般人が魔物の生息地に侵入するのは犯罪になるが、ギルドの後ろ盾があると犯罪にはならないんだ。

 それと、ギルドからは幾つかのクエストという任務が出ていて、それを達成すれば報酬を貰える。

 報酬は依頼のランクによって分けられ、ランクは一星~十星の十段階に分けられる。


 ギルドの前まで来ると、意外に普通で驚く。もう少し大きいものをイメージしていたが宿屋より少し大きい程度だ。

 中に入ると、酒の匂いと煙草の匂いが充満しており、鼻をつまみたくなったが我慢して正面にある受付に向かう。


「おうおうおう、兄ちゃん派手な服着てるねぇ~」


「ここは仮装パーティーの会場じゃねぇぜ~」


 酒に酔った男たちが絡んでくるが無視する。

 だって怖いし。


「ギルドに登録したいのだが」


「かしこまりました。こちらの紙に書かれた項目に答えて五千キュルをお納めください」


「あぁ、分かった」


 紙には生年月日、名前、出身、種族、年齢、使える魔法の属性、職業の欄があり、使える魔法の属性までは普通に書けたが、職業の欄で止まってしまう。

 これは、どっちを書くべきだろうか……正直に勇者かまだなっていないが魔王か。


 __魔王


 悩んだ末に魔王と記入した。


「ふざけないでください」


「すまない」


 当然怒られた。

 今回は嘘をついた自分が悪いので素直に謝る。


「何ですか闇属性魔法以外を使えるって……そんなの大魔導士でもいませんよ。それに魔王って、ギルドを舐めているならお帰り願えますか?」


「なっ、舐めてなどいない。それに闇属性魔法以外の魔法が使えるというのは……」


「というのは。なんですか?」


 受付のお姉さんがすごんだ表情でこちらを見ている。

 うっ、これは信じてもらえそうにないし、言い返さない方が良さそうだ。

 闇属性以外の魔法を使えるのは本当なんだがな……。


「もう一枚発行しますので、今度はふざけないようにお願いします」


「あぁ」


 俺は闇属性以外ではなく、火と水と風と記入した。

 そして、職業の欄にはきちんと勇者と記入した。

 これで文句はないだろう。


「ふざけないでください」


「何故だ……」


 また怒られてしまった。


「三属性の魔法を使えるのは百歩譲ってありえない話ではないですが、勇者は酷すぎます」


「え、えぇ……」


 俺が肩をガクッと落とすと、後ろから爆笑が聞こえてくる。

 男数人が俺と受付さんの会話を聞いていたようだ。


「魔王の次は勇者とは恐れ入ったははははは!」


「残念だったなあんちゃん。勇者様ならとっくの昔に王都に居るよ」


「たまに居るんだよなぁ。こうやって自分は勇者だって噓つく奴! がははは」


 もしかして、実は俺以外にも勇者が居るって事か?

 なるほど、この人達にとってはその人が勇者であって、他の勇者と名乗るものは偽物って訳か。

 少し釈然としない気持ちはあるが、俺は勇者を消して農民と書いておいた。

 俺が農民と書くと受付の人もため息をつきながら納得してくれた。


「さっそくクエストを受けたいんだが」


「最初の方は五つ星のクエストまで受ける事ができますが、どうしますか?」


「なら、五つ星の適当な奴でいい」


 五つ星という事は中間くらいの難易度という事だろう。


「かしこまりました。それと、クエストを受ける為の条件なんですが、二人以上でパーティーを組んでいただかないといけないんですが……」


「な、そうなのか……。すまない王都に来たばかりで知り合いが居なくてな」


 昔読んだ本には二人以上なんて書いてなかったはずだが……いや、あれから数年経っているんだからルールや規則が変わっていても可笑しくはない。


「そうですか。申し訳ありませんがお一人でのクエストは規則違反なので受諾する事ができません」


「……分かった」


 規則なら仕方がないと、俺はその場を離れる。

 さて、村でも軽く孤立していた俺に王都の知り合いなど居るわけもない訳で……。

 あ、来る時同じ馬車だった誰かなら可能性があるんじゃないか?

 あれだけ鍛えてたんだから、ギルドに来る可能性も高い。


「おうおう偽勇者殿、荷物持ちとしてなら仲間にしてやってもいいぜぇ」


「やめとこうぜ。こいつ絶対口だけで実力無いぜぇ」


「あ、それもそうか! すまんな今の取り消しだはははは」


 取り消しも何も、こちらは返事をしていない。

 少しだけイライラしたが、こんな事で怒っていては都会では暮らせないのだろう。

 俺は、めんどくさいのに絡まれた程度に思い無視を続けた。


「ふざけないでください」


「えっ、でもこれは本当に」


「本当に、なんですか?」


 男たちを無視してこれからどうするかを考えていると受付の方から聞き覚えのある声が聞こえ、振りむいた。

 すると、そこには来る時の馬車で一緒になっていたリリィさんが居た。


「初めてですよ。一日に二回も魔王とか勇者とか言ってくる人に会うのは」


「うぅ、でも魔王は」


「ちゃんと記入してください!」


「はいぃ……」


 そう言えばリリィさんは自分の事を勇者だと言っていたし、勇者と記入して怒られたんだろう。


「あの嬢ちゃん勇者って書いた後に魔王って書いたってよ。今日は大ぼら吹き祭りだな」


 勇者って言ってた人が魔王って書いたのか……。

 まぁ、俺も似たようなものだったから何も言えないが……。

 そのあとの行動を見ていると、大体俺と同じで組んでくれる相手が居ない為、諦めて受付を離れた。

 これは、チャンスだな。

 リリィさんの実力は未知数ではあるが、強者だという事は分かっている。

 彼女を誘わないてはないだろう。


「おい」


「えっ……。あぁ! 馬車で一緒だったアスラさん!」


「貴様も組む者が居ないようだな。良ければだが」


「__私と組んでいただけませんか?」


 俺が言おうとした事を言われた。

 声のした方を向くと、そこには銀髪に青い目をした優しい顔付きの男が居た。

 その男の後ろには二人の女性が立っており、その男も含め全員の魔力は研ぎ澄まされたものだった。

 かなりの実力者だろう。少なくとも俺とリリィさんを覗けば、このギルド内で一番の実力者。

 しかも、男の体から漏れ出ている魔力は真っ白だった。


「お困りでしょう。私のパーティーに入っていただければ今すぐにでもクエストに行くことが可能ですよ」


「えっと、あなたは?」


「私は【ブレイブ】と申します。職業は、【勇者】です__」


 男のセリフに俺は驚いた顔を隠せなかった。

 この人が、勇者……?

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