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第十話 傷を治して女の子と知り合いになりました

 __鈍い金属音があたりに響いく、それは俺の振り下ろした聖剣を真っ黒な剣が防いだ事により発生した音だ。

 俺が聖剣を振り下ろした瞬間、白いローブの女性が腰に差していた真っ黒な剣を抜き、黒い刀身で聖剣をガードした。

 その黒い剣は黒い魔力を剣全体からまき散らし、まるで俺の聖剣と対峙する存在の様な姿だった。


「す、ストップ! 流石に殺すのはかわいそうだよ!」


 剣がぶつかり合った衝撃で白いローブのフードが脱げ、女性の顔が鮮明に見える。

 黒い長めの髪に黒い目、この世界では珍しい容姿をしていた。

 俺も黒髪で黒目の人を見るのは、この世界では……いや、一度だけあった気がする。

 いつだったか、幼少の時に……。


「この子も悪気があってさっきの人を攻撃したんじゃないよ! さっきの人が攻撃してきたから仕方なく攻撃しただけだよ……。だから、ね。殺すなんてしちゃだめだよ!」


 女性が必死に説得をしてくるが、話の半分ほどしか頭に入ってこない。

 この女性のか細い腕が俺の攻撃を抑えたのが信じられないんだ。

 それに俺の攻撃をガードしたという事は、俺と同じくらいの速度で移動してきたという事だろう……普通の人間にそんな事が可能なのか?


「わ、分かった。一度剣を仕舞おう」


「宜しいんですか? 私は眼前の二つを危険なものと認識します」


「あぁ、だが女を斬るわけにもいかんだろ」


 俺はそっとアンを鞘に戻し、竜と女性の事を見る。


「あ、ありがとう! 後ろの人も何もしないよね?」


「えっ、ひっ、はい!!」


 後ろの男たちは怯えてしまっている。

 いや、それも仕方ないだろう。


「ぐぐぐ」


「えっ、いや、お礼なんていいよ。それより私達、そこ通らないといけないから退いてくれる?」


 この女性、もしかして【翻訳】を使って子竜と話している?

 確か【翻訳】は別の種族同士で意思伝達が出来るようになる無属性魔法だ……だが、モンスターと意思伝達ができるなんて聞いた事がないぞ。

 もしかして、そういうスキルの持ち主なのか。


「あ、足を怪我してるんだね……どうしよう。無理やり退かしたら痛いよね」


 どうやら子竜は怪我をしているようで、動けなくなり道の真ん中で倒れていたようだ。

 この子竜に怪我をさせた奴がいるというのも驚きではあるが、それより気になるのはやはりこの女性だ。

 どう見ても異質としか言いようのない魔力に強さを保持している。

 これが王都を目指す者の実力だというのなら、甘く見ていた……。


「アン。確か聖剣には『慈悲をもって切った相手の傷を癒す』という能力があったな」


「はい……。ってもしかしてアスラ様!」


「そこの女、そこを退け」


 俺がそう言いながら子竜に近づくと、女性は驚いた顔をして黒い剣を構えた。

 女性から殺気とは違うオーラが俺に飛ばされる。これは脅しや警告という事だろうが、今まで対峙してきたモンスターや魔物とは比にならないほどの力を感じる。

 幼い頃、あの時に戦った悪魔よりも夜空王ウルフよりもずっと恐ろしいと思える。


「勘違いをするな。その子竜の傷を癒してやるのだ」


「えっ、本当!」


「でなければ、そこを退けぬのだろう」


 正直、この女性と対峙してまで子竜を倒すメリットはないだろう。

 本気で挑めば十中八九、俺の勝ちになるだろうが……手加減が出来ない以上、女性を殺してしまう可能性が高い。

 女性は信じてくれたようで、笑顔で道を譲ってくれた。


「慈悲をもって斬ろう」


「はぁ……私の初仕事が敵対するモンスターを癒す事とは」


 アンの文句を無視して、子竜を斬る。

 すると、斬ったはずの部分は斬れておらず子竜の体が光りだし、白い魔力の靄が傷口を覆い数秒ほど経つと傷を治してしまう。


「えっ、今斬った? え、でも斬れてない? どうして?」


 女性が不思議そうに子竜と俺の聖剣を見る。


「聖剣は穢れない剣ですから、例え普通に斬ったとしても血液などは出ません。そして、聖剣は慈悲深い剣なので、斬った相手の事を苦しませることなく絶命させます」


 おい、それは俺も初耳だぞ。

 なんだそのとんでもない能力は……つまり相手は斬られたことに気づかずに死ぬって事か?

 それはそれで恐ろしい気がするぞ。


「へぇ、そうなんだ! あなた聖剣だったんだね!」


「……え」


 女性が当たり前のようにアンの言葉に返答した。

 つまりこの女性、アンの声が聞こえているのか?


「ちょ、ちょっと待ってください。あなた、私の声が聞こえているんですか?」


「え、聞こえてるけど……?」


 逆になんで聞こえないのと言いたそうな顔をしながら答える女性。


「ぐぐぐ」


「あっ、もう行くの? 今度は怪我しないように気を付けてね」


「ぐぐ」


 子竜が飛び去っていく……。

 やはり、この女性は可笑しい……全体的に可笑しすぎて、どこから処理していけばいいのか分からないくらい可笑しい。


「アスラ様、やはりこの女性は怪しいです」


「え、私怪しい? あっ、名前を名乗ってないからだね! 私はリリィ・サタ……なんでもない! 私はリリィ、ただのリリィだよ! あなたは?」


「我はライト・コレクト。アスラと呼んでくれ」


「え、ライト・コレクトなのにアスラ?」


「気にするな」


 俺はアンを鞘に戻す。

 確かに、リリィさんという女性は怪しい、今のところ怪しいの塊みたいな人だ。

 だが、表情から嘘をついていたり、何かを企んでいる様子は見受けられない。

 これがポーカーフェイスだとしたら、リリィさんは一流の詐欺師になれるだろう。

 まぁ、俺が言いたいのは本心から子竜を助けたり純粋な行動をしている女性を、これ以上悪者の様に扱うのはポリシーに反する。


「おい貴様ら、馬車に戻れ。このままでは王都にたどり着くのがさらに遅くなる」


「え、あっ、はい!」


「あと攻撃を受けた貴様……傷を治そう」


 俺はアンで攻撃を受けた男性の傷を治した。

 すまないと一言言う男性の表情は、どことなく悔しさを含んでいた気がした。

 傷を治すと馬車に乗り、馬車は再び王都へ進む。


「あ……」


 乗客の一人が、俺とリリィさんを交互に見る。

 何かを言いたいのだろうか?


「なんだ?」


「あんたら、何者なんだよ……。人間業じゃないぜあれ」


 ふふ、まぁ聞きたい気持ちも分かる。

 聞かれたからには答えるのが礼儀というものだろう。


「我は」「私は」


「魔王だ」「勇者だよ」


 俺とリリィさんの声が重なる。

 え、勇者……? リリィさんは俺の方を不思議そうに見てくる。

 いや、その顔は俺がしたい顔だよ。


「ガハハッ。実力者にはおかしな奴が多いってのは常識だ」


 先程怪我を治した男性がそう言うと、他の人達は納得したような顔をする。

 おい、誰がおかしな奴だ……確かにリリィさんは可笑しな人かもしれないが、俺は純然たる魔王……になる者だぞ!

 確かに、今はまだ魔王ではないが魔王になるのだから俺が魔王と名乗っても何も可笑しい事はない。

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