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プロローグ

 確か、四歳くらいの時に母と父が居なくなった。

 理由は分からない。周りが言うのは借金だとか夜逃げだとか。いや、理由とかはどうでもいいんだが。

 俺には引き取り手がおらず、施設に入れられた。

 人付き合いが苦手な俺は他人と喋ることが出来ず、友達が出来ることもなかった。


「ねぇ! 一緒に遊びましょう!」


 いつものように一人で本を読んでいると、同じ施設の女の子が話しかけてくれた。

 彼女は優しくて、返事もろくにできない俺とよく遊んでくれた。

 後から話を聞くと、彼女も親に捨てられて施設に来たらしい。


「私ね! 将来勇者になって悪い人から皆を守るの!」


 勇者になりたい。彼女の口癖のようなものだ。

 それは、子供の絵空事だったのかもしれない。だが、彼女は俺にとって本当に勇者のような人だった。

 皆から頼られて、皆を守って、こんな俺にも優しくしてくれた。


「勇者になるなら、魔王を倒すの?」


 口数の少ない俺が彼女に聞いた数少ない質問の一つだ。

 本やゲームで見る勇者は魔王という一つの悪に立ち向かうものだ。

 だけど、彼女の口から【魔王】という単語を聞いた事は一度もない。俺が聞いてないだけかもしれないが。

 彼女は常に、【魔王】ではなく【悪い人】と言っている。


「なんで? 魔王様って悪い人なの?」


「んー、分からない。でも、よく本で見る魔王様は悪い人だよ?」


「もしも、私があった魔王様が悪い人なら倒すけど、優しい魔王様なら倒さない!」


 この時、俺は衝撃を受けた。俺は本やゲームの知識で魔王とは悪い物と思っていた。

 でも、彼女の言う通りだ。確かではない憶測で俺は悪と決めつけてしまっていた。

 そうか。優しい魔王が居てもいいよな……。


「なら、俺が優しい魔王になろうか……?」


「え、どうして……? もしかして、悪い事したいの?」


「ううん、俺が魔王になれば君と二人で協力できるから……」


「あっ、そうか!! 魔王様と勇者が協力すれば無敵だもんね!」


 子供の頃の俺は純粋だったのだろう。もしも、悪い人が魔王になるくらいなら、先に俺が優しい魔王になってしまおうと思った。

 そして、彼女と二人で平和な世界を作ればいいと思った。

 それに、俺は彼女に恩返しがしたかった。唯一と言ってもいい俺の友達である彼女への恩返しになればいいと思っていた。


 彼女に魔王になると言ってから数年が経ち。俺も彼女も施設を出た。

 俺は魔王になるため、色々な書物を読み漁って魔王とは何なのかを勉強した。

 高校も政治の勉強をできる所に行った。

 施設を卒業してからも、俺と彼女は連絡を取り合っていた。


 彼女も昔と変わらずに勇者を目指していた。高校になっても友人の出来なかった俺にとって彼女と連絡する時間だけが癒しであり、楽しみだった。

 別々の高校に行ってしまった為、会う事は難しいが一日一回は必ず連絡を取り合っていた。


「私、海外に行ってくるね」


「あぁ、気を付けるのだぞ?」


 高校二年生の時、彼女が留学する事になった。とは言っても三か月の間だけだが。

 なんでも、勇者なら色んな世界の人と仲良くならないと。と思ったらしい。

 実に彼女らしい理由だと思った。昔と変わらない彼女のお転婆とも言える性格に、俺は嬉しさを感じていた。

 だが、今だから言える。あの時に、止めておくべきだったんだ……。

 彼女に嫌われたとしても、彼女の思いを否定してたとしても止めるべきだった……。


【アメリカの○○州のホテルで大規模な爆発テロが発生しました。被害者は1000人を超え、中には日本人もおり、ただいま警察が身元を捜索中です】


 アメリカのとある州のホテルで、被害者千人を超える爆発テロが起きた。

 犯人の動機はホテル内にあるカジノで大負けして、全財産を失ったからという身勝手極まるものだった。

 俺は新聞を投げ捨て、すぐに彼女に電話した。だが、彼女が出る事はなかった。

 そんな訳がない。そんな事が合っていいはずがない。

 俺の中を不安と恐怖が埋め尽くした。連絡が来るまでの三日間は一睡もできず、水以外は口に入れても出てきてしまった。


「百合さんのご友人の方ですか……」


 テロのニュースを見て三日後、俺の家に警察が来た。

 百合は彼女の名前だ。なんで、警察が彼女の名前を知っているのか分からない。

 いや、分かりたくない……。


「大変お気の毒ですが。百合さんは……」


 やめてくれ。それ以上先を言わないでくれ。

 手足が震える。今まで、ここまで不安を感じたことはない。

 気が付くと、俺は涙を流していた。


「アメリカで起きたテロに巻き込まれて、お亡くなりになりました__」


「うわああああああああああああああああああああああああああああああ____!!!!!」


 それは、叫ぶような泣き声だった。膝をついて、崩れ落ちる。

 認めたくない。彼女が、俺にとって勇者である彼女が死んだなんて認めたくない。

 だが、現実は絵本とは違う。バットエンドだってある。勇者が死ぬことだってある。

 だからこそ、俺はこの三日間現実を見ない為に家に引きこもり、食事も取らずに毛布に包まっていた。


「百合さんが死ぬ前に書いていたメールがパソコンのデータの中から見つかり、あなたが百合さんの知り合いである事が分かりました」


 泣き崩れる俺に、警察の人が一枚の紙を渡してくる。

 俺は力の入らない腕を持ち上げ、紙を受け取る。紙はメール画面のコピーの様だ。

 海外にいる間は携帯料金がすごい掛かるから、無料の国際メールでやり取りをしようとなっていた。


【今日の出来事。今日は大きなハンバーガーを食べたよ!

私の顔くらいあるの! 食べきれなかったから夕ご飯もハンバーガー。太っちゃう(てへっ

まぁ、私が太っても魔王様は気にしないと思うけど……。気にしないよね?(汗)

あ、それとね。今日は道に迷っている男の子を案内してあげたよ! 流石勇者候補だね!

まぁ、私も道覚えてないからマップ見ながらだったけど……(あはは

そっちはどう? 魔王様っぽい事してる? あ、でも悪い事はダメだからね!

そうだ! 帰ったらお互いどれだけ理想に近づいてるか勝負しようよ! 決定!】


 涙で視界が歪んで、読み切るのに時間が掛かってしまった。

 はは、最後まで呑気な奴だ。最後の手紙ってのはもっとこう感動的なもんだろう……。

 でも、これが彼女らしい。俺の好きな彼女らしい最後の手紙だ。

 身勝手だが優しく、計画性もないのに人を助けてしまう。

 そんな彼女の書いた最後の手紙……。再び涙が出てくる。


「感謝しよう……。彼女の最後を伝えてくれて」


「いえ、では、我々はここで」


 警察が立ち去る。きっと、俺に気を使ってだろう。

 俺は涙を拭いて立ち上がる。彼女のメールを折りたたみ、ポケットに入れる。

 もし、俺がここで心を折っていたら彼女に怒られてしまう。

 彼女の夢は、俺が叶えなくては……。


 この日から、俺はより魔王らしくなろうと決めた。勇者と協力しなくても最強で居られるような魔王を目指そうと決めた。

 周りから、厨二病だと言われ疎遠にされる事もあったが、気になどしなかった。


 大学卒業間際、俺はとあることに気づいた。

 肉体を鍛え続けて、知識を蓄え続けてやっと気づいた。


 この世界には、魔法という概念がない……。


 そんなバカなと思ったが、事実だ。魔法に関連する書物を読み漁ったが、どれを試しても発動しない。

 魔法が使えない魔王など、ボールを持っていないサッカー選手と同じだ。

 いくら、才能があると言っても認めてもらえるわけがない。


「くそ……。どうしたらいいのだ」


 夜風に当たりながら道を歩いている。

 考えても考えても、解決策が一向に見つからない。

 書物に書かれている全てが外れだった。魔法という概念のマの字すら出てこない。

 ハリー〇ッターも全作見たが、やはり作られた物であり、実際に再現するのは不可能だった……。

 俺は何も思い浮かばずに、空を見上げる。何か魔王になる為の物でも降ってこないかな。

 上を向いて歩いていると、目の前がいきなり暗転する。は____?




 __後日、ニュース


「昨晩、○○市○○町で男性がマンホールに落ちて死亡するという事件が発生しました。監視カメラによると、男性は午前一時頃に一人で夜道を散歩中、偶然開いていたマンホールに落下し、死亡してしまったようです。皆さんも夜道には気を付けましょう」

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