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ぼくのわたしの守りたい世界  作者: 猫田芳仁
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幕間 404号室の夜

 404号室は忙しい。

 もとがたまり場であったので、異変への対応をする際の話し合いにも自然とここが使われるようになった。木っ端人外の集まりならばここまで異変にかかわることもなかっただろうが、歴史に関与するレベルの怪物が棲んでいるとなれば話は別だ。最近は固定電話も2台設置され、昼間は野戦病院のごとく怒号が飛び交うときもある。

 だがそれはあくまで、昼間の話。

 夜遅くともなればさすがに緊急の連絡はなくなり、かつての平和だった404号室がつかの間、帰ってくる。

 相も変わらずそこでだべる顔ぶれがすることと言えばひとつ――酒盛りであった。


 ***


 酒にはつまみが欠かせない。

 だがコンビニやスーパーのお惣菜では、ちょっと物足りない夜もある。レストラン並みとはいかなくても、多少、人の手が入った食べ物が恋しいときもある。

 そんな気持ちは人も人外も共通らしく、多少料理のできる人物がアルコールの現物支給で腕を振るう機会も少なくない。少なくないどころか、みんな見慣れたいつもの光景である。

 今日キッチンに立っているのは、死霊遣いの蘭子であった。


 材料はすべて目分量。まずは適当な量の玉ねぎをみじん切りにして、適当な量の片栗粉、塩と共に適当な量のひき肉と合わせてよくこねる。その間に湯を沸かしておき、残った玉ねぎをぶつ切りにしてコンソメスープの素と共に投入。肉を適当なサイズの肉団子にして投入していき、火が通ったら出来上がり。お好み次第であらびきコショウや唐辛子を散らすと、なおおいしい。

 ひき肉とはいえ肉は肉。結構な満足感を味わえる一品である。出来上がりの滋味に思いを馳せつつ鍋をかき回す蘭子の横に、ひょっこり見知った顔が現れた。


「ちーす」

「あ、エーリオさん」

「ちょっとつまみ足りなくてですねー。アレ、使っちゃっていいっすかね」

「いいんじゃないでしょうか。ちょうど食べごろですよ」

「やったー。おれも好きなんスよ、アレ」

「アタシもです」


 冷蔵庫から出てきたのは、やっぱり肉だった。しかしこちらは、塊肉だ。ラップとキッチンペーパーを剥いて、脂の表面に未だ形を残している塩粒をさっと払い惜しげもなく分厚く切り分けていく。数日塩漬けにされ、すでに味がついているわけなので、調理法は単純明快。少しだけ油を引いたフライパンに塩漬け肉を並べて、時たまひっくり返すだけだ。焼いているうちに脂身が融けて、素揚げのような状態になってくる。

 これをたくさん焼いた後、フライパンに残って固まった脂をインスタントラーメンに入れると、一気にお店の味に近づくのは「調理班」だけの内緒だ。

 

「これだけの手間でただ酒飲めるのはホント、ありがたいですよねぇ」

「罰当たっちゃうんじゃないっスかね」

「ま、おいしけりゃいいってことで」

「同感ス」


 和やかな調理班はまだ知らない。

 知らないが、予測はできている。

 すでに飲んでいる連中が、かなり出来上がっていることを。

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