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ぼくのわたしの守りたい世界  作者: 猫田芳仁
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第2話 戦乙女! 巨大怪獣を討て

 少女たちは、もめにもめていた。


「つまりすずめさんは、わたしに協調性がないと、そう言いたいのね」

「はい。いくら”最強”と誉めそやされていても、慎みを忘れてはいけませんことよ。それに逆らえないのをいいことに、あさがおまで勝手に引っ張り出して。越権行為ですわ」

「確かにわたしは指示を仰がず出撃したわ。でもそうしなかったら、犠牲者はもっと増えたはずよ」

「つまり皆勝手に打って出ていいとおっしゃるの? ああいやだ、これだから無法者は」

「では質問するわ。すずめさん、あなたは人命より規則が大切なの?」

「話をすり替えないで!」


 方や黒髪の大人びた少女、方や金髪のはつらつとした少女。にらみ合う2人から3歩離れて、よく言ってスレンダー、悪く言って発育不良の眼鏡っ娘がおろおろわたわたしている。


「これ以上は不毛ね。あさがお、一緒に報告に行きましょう」

「は、はいっ」

「話は、まだッ……!」


 本当なら、つかみかかりたかったところに違いない。だけれど「すずめ」と呼ばれていた金髪の少女は、一歩踏み出した時点その身をこわばらせた。彼女だけではない。まじるとあさがおも、信じられないという面持ちで天井のスピーカーを、見た。


『”獣”の兆候です! 当番制とは至急、指令室に集合してください! 繰り返します、”獣”の兆候です! 出現予測場所は××区〇〇……』


 すべて聞き終わる前に、すずめは動き出した。方向転換。窓を開ける。振り返って、嘲るような笑顔。それにはっとして、まじるとあさがおが取り押さえようとする。

 もう遅い。


「あなたが独断専行できて、わたくしができないのはおかしいですわ」


 すずめは窓から身を投げた。

 ここは高層階だ。まともな人間が下まで落ちたなら、十中八九、死ぬ。が、窓から階下を見下ろすまじるとあさがおの表情に、それらしい心配は浮かんでいない。

 別の心配は、十二分に抱いているのだが。

 もう一度階下を見下ろすと、彗星のようにきらきらしい尾を引いて遠ざかる、箒に乗った魔法少女が、ちょっとだけ、見えた。


 ***


 針鉢(はりはち)すずめ。またの名をマジカルベスパ。

 「またの名」を使う機会は極端に少ない。校内では普通に呼び合うし、一緒に戦場に出たとしても、慣れた名前で呼び合うことがほとんどだ。「またの名」なんて面倒、時代遅れ、ダサい等々、いい噂を聞いたことがない。

 だけれど彼女は、「マジカルベスパ」が大好きだ。

 むろん広言はしない。下手をこくと、仲間外れにされちゃうから。

 なんで好きかと言われれば、短絡極まる「かっこいい」、そして「口触りがいい」の2点。

 すずめは高層階から落下しつつ、壁に接触しないよう気を付けて、変身呪文を小声で唱えた。


「マジカル・ロジカル・チェンジ……マジカルベスパ!」


 地上に激突する数瞬前。

 シンプルなセーラー服が黄金色の火を噴く。

 火……いや、光。

 直視できないほどの光の中で、彼女の衣装は書き換えられてゆく。衣装だけではない。いかに効率的に魔術を行使できるか。その”条件”により、彼女の身体そのものも、彼女のための姿を編んでいく。

 その「光」が収まり、ようやく中の人物(つまりは、すずめ)が目視できるようになるが早いか、黄金の輝きは四散して、”針鉢ずずめ”はいったん死んで、”マジカルベスパ”が残される。漆黒の、相棒ともども。

 相棒――柄から穂先まで黒い箒をつかみ取り、慣れた様子で跨るベスパ。地面すれすれから、まともな人間なら首を折りかねない勢いで、上昇と加速に転じる。

 金色のツインテールが後ろヘなびく程度で、ベスパ本人は揺らぎもしない。在学生中の「最強」がまじるなら、「最速」は彼女であった。

 加速は止まらない。

 みるみる近づいてくる目標地点では、すでに時空のゆがみが形をとりつつあった。


「”獣”……わたくしが、倒しますわ!」


 すでに銃弾よりも速い箒の柄をひしと握りしめ、ベスパはひとりごちた。


 ***


 まじるとあさがおが駆け込み、指令室は騒然とした。

 すずめは多少、自信過剰の気があった。あったが、1人で勝手に飛び出していくのはさすがに初めてのことだ。唇を噛みしめて「自分が挑発してしまった」と悔いても悔やみきれない様子のまじる。「でも、仕方なかったから」とまじるをかばうあさがお。

 すずめは成績こそいいが、それは「総合成績」故だ。時空のゆがみから現れる”獣”に対して、とどめを刺す手段には乏しい。

 本当ならばまじるが出撃したいところであったが、今朝すでに一体の”獣"を討っている。強大なエスパーの代償として、能力を使うたびに激しい頭痛やめまいに襲われる彼女は、まだ本調子には程遠かった。

 速度に優れた少女を数人、補助として送り込むことで話が固まりかけた時、扉を破るように開けて、1人の女性が姿を現した。


「私が出ます」


 彼女は学園の少女たちよりはいくらか年上で、20代半ばほどに見えた。ただ、小柄なため、さらに若く見る人間もいることだろう。いかにも事務員然とした、セーラー服の群れには似合わぬなりのまま、彼女は遠慮もへったくれもなく進み出る。


「速さなら、私も自信がありますから。後続の方が着くまで、私が時間を稼ぎます」

「でも、お客様を戦場に出すわけには……」

「もともと共闘の申し出に来たのです。私の力を見ていただくいい機会かと」

「ですが」

「後続の方の選出、お願いいたしますね」


 最初から話を聞く気がなかったそぶりで、彼女は窓から身を躍らせた。巨大な翼が音もなく宙に舞う。

 誰かがぽつりとつぶやいた。


「悪の組織っていうのは、図々しくなきゃやってられないのかもね」


 ***


 金色の針が宙を穿つ。

 何本も、何本も。

 1本1本の動きが全体の動作と調和し、はたから見れば美しい曲芸のようですらあった。

 それを本人に言ったら、おそらく怒り狂うであろうが。

 すでに実体を持ち、顕現しつつある”獣”。まともな銃やミサイルではすりぬけてしまうが、”魔法”は通じる。


「顕現」


 マジカルベスパの、扇形に広げられらた両手の間に再び無数の針が宿る。


「射出!」


 両手を組んで、拳銃を撃つジェスチャー。彼女の容姿ならチャーミングと言っていい動作だが、それに合わせて無数の針が飛散するところを見たならば、かわいいでは済まないだろう。

 彼女の放った無数の針は、狙い違わず”獣”に吸い込まれていく。

 絶叫。

 ”獣”の、悲鳴。


「やった!」


 思わずガッツポーズを作るベスパ。

 出撃してからほとんど、彼女は箒に両手を添えていない。はたから見ていれば危なっかしくてたまらないが、本人は箒と一心同体。ちょっと茶目っ気を出したって、振り落させることはない。

 だがまだ、”獣”は倒れたわけではなかった。


「きゃ……!」


 トカゲに似たその姿の、しっぽだけが驚嘆するほどに伸びてベスパを打ち落としにかかる。間一髪で避けたが、問題はそこからだ。


「うそ……でしょう……?」


 ”獣”の黒々としたしっぽは根元からもげた。そこまでなら、むしろ戦果と誇るべきものであったろう。

 その”しっぽ”が、爆裂した。

 常人をはるかに超えるベスパの視界には、むごたらしいほどよく見えた。

 ”獣”のしっぽが、小さな分体に分かれたのだ。

 分体の大きさは大人より多少大きい程度。対峙したことこそないが、「分体する”獣”」の恐ろしさを知っているベスパはすうっと血の気が引いてゆくのを感じた。

 この「分体」どもは、本体が倒されたとしても消えることなく、勝手気ままに殺戮を繰り返す。本体に比べてずっと小さいが故、広範囲に打撃を与える攻撃では周囲を巻き込んでしまう。かといって1体ずつ倒していったのでは間に合わず、駆除をしている隙に被害が広がる。

 倒さなければらない。

 だが民間人を殺してはならない。

 ジレンマ。

 すずめは凍り付いた。箒の柄を、指が白くなるほど握りしめても――最適解は出ない。

 そのとき。

 一陣の蒼い疾風が奔った。

 無数の「分体」どもが、悲鳴を上げる暇もなく灰になる。


「雑魚はまかせて。あなたは本体を」


 すれ違いざまのささやき。

 はっきりと、聞いた。

 誰かは、わからない。

 信用も、しない。

 だけれど「まかせて」なんて言ってくれるのだから、まかせて、みたい。

 めちゃくちゃな動機で、ベスパは「彼女」に任せた。分体を追いかけようとしていた身の振り方を軌道修正、本体へ向かってまっしぐら。両手の間に、針というよりナイフに近い鋭利な輝きを生成する。振り回される巨大な鉤爪をするりとかわして、肉薄。そうこうしているうちに、彼女が保持していたナイフは、いつのまにや槍と言って差し支えないまでのサイズに成長していた。狙うは、”獣”の腹だ。

 人間とは構造が異なるながらも、”獣”の内臓は他の生物同様腹部から胸部にその多くにある。つまりその重要な器官を徹底的に破壊してしまえば、長期間の顕現はできない。つまり、あちら側の世界に叩き落とすことが可能となる。

 あえて心臓を狙わないのは、多数の”獣”において心臓の位置が不明――もっと詳しく言うと、心臓があるのかすらすらわからない故だ。


「射出ッ!!」


 ほぼ、ゼロ距離。

 ベスパの「槍」は、狙い違わず”獣”のどてっ腹、ど真ん中を貫いた。血。血。肉。血。降り注ぐそれはベスパの身に触れる前にエーテルに還り、彼女の衣装を汚すことなく宙に溶けていく。


「……やった」


 思わずこぼれ出たその言葉を、とがめられるものなのいないだろう。彼女自身が前線に出て倒した”獣”は少なくないが、彼女が「とどめを刺した」”獣”は初めてだった。

 

(そういえば、分体は――!?)


 達成感もそこそこ、振りむけば、後続の後輩たちが笑顔で手を振っている。中には、あの事務員風の女性もいた。彼女らの表情を見るに、分体は全滅したのだろう。

 マジカルベスパは歓声を上げながら、彼女たちの輪に飛び込んだ。


 マジカルベスパが事務員風の女性を「命の恩人」と気付くまでは、だいぶ時間がかかりそうである。

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