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ぼくのわたしの守りたい世界  作者: 猫田芳仁
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第9話 疑惑! 新たなる脅威

 大神邸の朝食は、いつにもましてにぎやかだった。

 二階堂と天明、深山は、久しぶりに会ったものだからよもやま話に花を咲かせている。二階堂と一緒に来た、レジナルドなる青年も、興味深そうにそれを聞いていた。

 一通り、落ち着いたころを見計らって、二階堂はちょっと真剣な顔になった。


「昨日の組織について、ちょっと私見をしゃべらせてほしいんだが……いいかな」

「もちろん。なんか変だなってところいっぱいあったし、意見を聞きたいな」

 

 一番注力していたこともあってか、真っ先に食いついたのは蟹江だ。

 他の顔ぶれも、新たな敵になりうる存在に、興味津々である。


「信じられないと思うんだけど、あの一連の事件……あるテレビ番組にそっくりなんだ」

「「「テレビ?」」」


 唱和。

 皆、きょとんとしている。

 無理もない。納得していただくべく、二階堂は言葉を重ねた。


「何年か前の深夜特撮ドラマで『終末戦士サタデーナイト』って番組があって……それの6話に、展開がそっくりなんだよ。主人公の友達が人質として誘拐されるんだが……人質組、相手の顔見た?」

「ううん。いきなり後ろから……スタンガンみたいなのあてられて速攻気絶しちゃった。サンちゃんは?」

「同様です。顔は、見ていません」

「で、蟹江さんも電話を受けただけで、相手の姿は見ていないんだよね」

「そうですが、関係あるんですか?」

「大ありだよ」


 二階堂曰く、「サタデーナイト」はとにかく低予算だったらしい。なので特撮ドラマではあるのだが、結局最後まで怪人が出てこなかった。そういうスーツに回す予算がなかったのであろう。

 その誘拐エピソードについても、実際に起きた出来事同様、人質は後ろから襲われ、主人公への連絡も電話のみで怪人は現れなかったそうだ。

 さらに、実際に潜入した二階堂の弁によれば「アジトのセットもそっくりだった」とのことである。


「只の紙箱に、アルミホイルを貼った雰囲気と言えばいいのかなぁ。とにかく、安っぽかった。それに作戦自体も、その後の展開も、そっくりだ」


 原作での主人公は変身こそしないものの、様々な特殊能力を持っていて、それで異変を解決してきた。ところがこのエピソードにおいて、悪の組織がアンチ異能バリアを張ったため潜入ができず、悩んでいたところ彼の弟(武道に優れるが、異能はない)が現れて、代わりに潜入して人質を助け出すという流れだったそうだ。


「今、並行世界とか、異世界とかとバンバンつながっちゃってるじゃないか。想像上の生き物だって、ここではない世界にはいたりするし……まさかとは思うけど”フィクションの世界”と繋がっちゃった可能性も……ないとは言い切れない、よな」


 その仮説が本当だとしたら、大変なことになる。

 マニアックな作品である「サタデーナイト」の悪の組織が存在しているのなら、もっと有名な悪の組織や、映画なんかに出てくる地球規模の敵が存在している可能性も大いにある。

 もしそうなったら……少なくとも、このメンツでは一切歯が立たない。

 しかし、そうは考えないやつもいるようで。


「ってことはさ! 映画とか漫画とかのキャラもこの世界では実在するかもってことだよね!? すげーわくわくしちゃうなぁ~、色紙持ち歩くようにしなくっちゃ!」


 人質の片割れこと、天明である。

 さっきまで怖い目に遭っていたはずなのだが、とにかく、テンションが高い。誘拐慣れを抜いたとしても、彼はいつでも”愛すべき馬鹿”だ。

 天明を放置して、話は進んで行く。


「では僕が疑問に思っていることも、あれがテレビ番組だとすればだとすれば納得できるのでしょうか」

「深山くん、具体的にはどういうことかな」

「皆さんは、連中のアジトを完膚なきまでに破壊しつくしたはずです。そして、相手は人質を取ったからとわざわざ電話をかけてくるような組織です。アジトを破壊されたら、文句の一つも言ってきそうなものですが」

「たぶん、来週来るぞ」


 サタデーナイトはタイトルの通り、土曜の夜中に放送していた。そして誘拐エピソードの翌放送回の冒頭で、「留守を狙うとは卑怯だぞ」という旨の電話が主人公宅にかかってくる。

 日付は変わってしまったが、誘拐したという電話がかかってきたのはまさに土曜日。

 二階堂の言う通り、来週土曜に電話がかかってきたのなら、この悪の組織がフィクションのものであるという確信は、嫌が応にも強くなる。


「いったい、どんな文句を言ってくるのか楽しみだなぁ」


 いかにも悪の幹部でございという笑顔で、大佐は湯呑に手を伸ばした。


「なんでまた?」

「だって、本編では人質を助けてすぐ帰ったんだろう? アジトががれきの山に化けたんだもの、怒るだろうなぁ。ショックだろうなぁ。がっくりきちゃうだろうなぁ。あーあ、来週が待ち遠しいよ」

「おっさん、そういうところだけはしっかり悪の幹部だよな……」

「そうか? 一般人だって、他人の不幸は蜜の味だろ?」

「規模が違うっていうか……」

「ふうむ。よくわからないが、わかった」


 この「元・悪の幹部」はそれ以上の追及を受けることなく、湯呑から玄米茶を飲んでいる。本当に本当の「悪の幹部」だったころから彼を知っている元帥としては、これでいいと思う。常にぴりぴりしているよりは、覇気に欠けているくらいのほうがしあわせだ。


「ところで、僕も身の上話とかしちゃっていいんですかね」


 会話の間隙にねじ込んできたのは、二階堂が連れてきた金髪碧眼の青年だった。上目遣いのあざとさは、計算ずくに違いない。

 誰かが「いいよ」と促せば、彼は訥々と語り始めた。


「僕、単独渡航者なんです」


 そのひとことで、さざ波のようなどよめきが走る。

 このめちゃくちゃな世界で、街ごと、国ごとという移動はあっても――ただ一人きりで放り出されるのは珍しい。珍しいだけでなく、とても、苦痛だ。なにせ知り合いは誰もおらず、下手をしたら通貨の違いのせいで生活が立ち行かなくなる。


「幸い、ドルとユーロは持ってたんで、当面の生活は何とかなって……んで、ふらふらしてるところ、ナオに拾ってもらったんですよ」


 ナオ、は二階堂のファーストネーム、「直人」のもじりである。


「で、頼れる相手もいないしナオにくっついてここまで来ちゃって……その上ご飯までごちそうになっちゃって、本当にありがとうございます」


 深々と、頭を下げるレジナルド。殊勝なことだと感心する住人達。だが、短期間とはいえ一緒に過ごした二階堂だけは知っている。

 こいつは、とんでもなく、図々しいと。

 そしてその罠に足を取られる、お人好しがここには何人もいる。


「帰る場所もないのか……いっそ、ここ住めば?」


 言ってくれた大佐には見えないよう、してやったりの笑みを浮かべて、レジナルドはさらに俯く角度を深くする。


「さすがに、これ以上迷惑をおかけするわけには」

「どうせ空き部屋ばっかりなんだし……爺様は?」

「構わんよ。正義は最近忙しくて、なかなか帰って来れんからの。若いのがいれば、にぎやかになって良い」

「ありがとうございます。お世話になります!」


 苦笑交じりのため息を、そっと二階堂が落とした。

 図々しいのは間違いないが、同時に憎みきれないやつであることも、彼は重々承知していた。

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