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ぼくのわたしの守りたい世界  作者: 猫田芳仁
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第1話 光と闇! 帝都へ集う者たち

 自転車をこいで、今日も学校へ向かう。

 あの大騒動からもう半年だ。早いような、短いような。ニュースでは好き勝手な名前が付けられていたが、あの現象の名前なんてどうだっていい。ただ、事実だけが大事なのだ。

 遠くと言えば遠く、近くと言えば近くの橋の向こう。

 高層ビルのように大きな怪獣が、もったりした動作で川を渡っていく。その周りをちらちら飛び回る、絵本のお星さまさながら光のしっぽをひいて飛び回る、小さな人影が3つ。

 片手をハンドルから離して、思いっきり振る。

 箒に乗った「魔法少女」は、手を振り返してくれた……ような気がした。


 ***


 複数の世界が連結した「大異変」から半年。

 もともと魔法・魔術が迷信となっていた「基本世界」は当初こそ非常な混乱をしたが、その合理主義に過ぎる世界観ゆえか、存外あっさりとほかの世界を受け入れていた。

 アメリカの荒野に忽然と大都市が出現し、フランスのパリが二つに増える。さらには空想上のはずの世界、伝説上の世界までも自由に出入りできるようになり、基本世界にもともと存在した(ただし、存在を秘匿し続けていた)組織のいくつかは公の場へ姿を現した。

 各国の上層部は大わらわだ。だけれど一般市民には彼らがどう動いているのかはわからず「大変なことになったなぁ」程度で収まっている。

 特に多数の世界が繋がってカオスを極めているのが、日本であることがそれに拍車をかけているのだろう。危険はあるが、夢にまで見たアニメや特撮のような事態が目の前で繰り広げられているのだ。当事者たちの「避難勧告」を振り切って見物や撮影をし、戦闘に巻き込まれる馬鹿も少なくない。一般市民もそれを批判するどころか、遠巻きに眺めて楽しんでいるようなありさまだ。正義の味方一同は心無い市民の行動に活動を妨害されているらしいが、声を大にして批判すればそれはそれで後々困る。

 宙ぶらりんな立場のまま、市民を守るヒーローとヒロインは、守るべき市民に苦しめられながら悪と戦ってきた。

 しかし彼らに戦う気力を与えてくれるのも、また守るべき市民である。

 人々の声援の中、”彼女”らはできる限りの力で戦っていた。


「抑えました! ねえさま、お願いしますッ!」


 ともすれば性別もわからないような、幼げな少女が叫ぶ。両腕から延びる細いワイヤーが、巨大怪獣をがんじがらめにしていた。髪の毛はいわゆるベリーショートで、おまけにバイザーもつけているため、唯一スカート状の衣装であることが彼女を女性に見せている。


「有難う。……行くわよ!」

 

 長い黒髪を風に嬲られるまま、軍装の少女が両手を突き出した。完全防備なのが、いっそアンバランスなほどの美しさだ。途端に何の手ごたえもなく、怪獣の頭が爆発四散した。怪獣は悲鳴も上げられないままゆっくりと倒れつつ、空気に溶けて消える。

 ギャラリーから声援が響いた。

 しかしそれを気に留めるでもなく、軍装の少女は黒髪を翻した。


「任務完了ね。”あさがお”、帰りましょ」

「えっ、あ……はいっ! ”まじる”ねえさま!」

 

 そっけないほどのあっけなさで、二人は”消えた”。

 しかしそれも”よくあること”らしく、ギャラリーは不満足そうであれ明確な文句を吐き出すものは少ない。

 本来であれば守られるべき存在である"少女"。その”少女”に守られている歪みを、自覚する人間は、少ない。


 ***


「マジで、地理めちゃくちゃなんだな……」

「近くで得したともいえるけど……」


 東京駅で、二人の少年が途方に暮れていた。

 彼らは”大異変”のために「基本世界の東京」と密接につながってしまった「もう一つの札幌」の住民であった。電車賃をさほどかけずに東京に行けるという短絡的な気持ちもないではないが、境目を超えたとたんに容赦なく変わってゆく気候には辟易した。東京は都会、程度の認識だった二人にとって「湿度が高くてしんどい」「建物と線路の間狭すぎ怖い」は結構な衝撃だった。田舎者と言えばそれまでだが、本人達にはびっくり体験だったのだ。


「時間余ったら、せっかくだし観光したいなぁ。俺、スカイツリー行きたい」

「俺は品川水族館!」

「んじゃ、両方行っちゃおうか」

「でも、旭川函館間くらいあったらどうする?」

「そんなに遠かったら、県境越えちゃうだろ」

「確かに」


 2人組ではなくて4~5人組くらいであれば、修学旅行生というカモフラージュができたであろう。

 二人っきりではそれも難しい。いくら無防備に半開きになった鞄から、観光ガイドがはみ出していようとも。平日の昼間から学生服がうろうろするのは、この混沌とした都市でも少々、変である。


「にしても、案外治安いいんだな」

「スラムみたいな感じかと思ってたよ」

「俺も俺も。まだ2回しか、財布すられそうになってないし」

「ホールドアップ、とかないのかな」

「うーん、わかんない。でもやられても、俺ら何の問題もなくね?」

「だな」


 物騒な内容で談笑しつつ、学ランの背中が2つ、雑踏に呑まれてゆく。


 ***


 同じ頃、空港に2人の人物が降り立った。長時間のフライトを経ているはずだが、疲労の色はまるでない。


「ここが東京かね」

「はい。ムッシュ」

「きみの生まれ故郷か」

「はい」

「美しい街かね?」

「いいえ、あまり」

「ふむ」


 黒いキャリーケースを引いた紳士は、遠い目をして手を顎に当てた。黒いハット、黒いタイ、黒いジャケットの中に黒いベスト。ズボンも黒く、革靴も黒い。抜けるように白い顔にハシバミ色の眼が、興味深げに光っている。空港の設備や行きかう人々をせわしなく観察し、実に楽しそうだ。


「吾輩は美しいと思うよ」

「まだ空港しかご覧になっていないのに」

「わかるさ。吾輩を誰だと思っているね?」

「秘密結社”エピック”幹部、サバト男爵殿」

「よろしい」


 機嫌の悪そうな従者をよそに、”男爵”は嬉しげに喉を鳴らした。


 ***


 都内の瀟洒なマンションは、外見からは想像もできないほどえらい騒ぎになっていた。特に「拠点」である404号室のひどさといったらない。 

 ゴス・ロリの女が黒電話にがなりたて、若侍が目をしょぼしょぼさせながら書類と格闘し、パソコンの前のジャージ男は警告音の嵐に辟易し、兵馬俑そのままの鎧武者は惰眠をむさぼっていた。


「あっ……畜生! 切られました」

「やっぱりねぇ。協力体制を敷くのは難しいか」

「難しい、じゃないです。無理です。無理」

「諦めちゃいけません。めっ」

「ニコちゃーん。ウイルスもらっちゃった……」

「今日で何回目ー? ヴィクターなら駆除余裕でしょ、適当にやっちゃってー」

「はいよー。ったくぅ、人使い荒いんだから」

「自覚はある」


 嵐のような部屋の真ん中で、ラフな格好をした赤毛の中年男だけが、飄々とした雰囲気を着てくつろいでいた。口ひげを弄りながら、呑気に漫画本など読んでいる。


「先生も、もっと割を食えばいいのに」

「もうちょっとしたらね」


 恨めしげな視線を浴びながら、彼はゆうゆうと湯呑を傾けた。

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