98.(勇者ミヤモト編)封印城ガラケフ ~反逆のクラスメイトたち~
あ、これ10話じゃ終わらんわ……。
98.封印城ガラケフ ~反逆のクラスメイトたち~
古き城。
聖剣が眠る封印城。
ガラケフ。
既にここは城内。
サキュバスたるシェリル(ただし男)が言うには、誰も近寄ることのできない悪魔の城、ということらしい。
いわく、伝説ではこう記されている。
恐るべき悪魔の王が住み、世界へ呪いの言葉を発し続けている。
その呪詛は様々な邪悪なる怪物たちを生み出し、絶望をまき散らしているのだという。
だが、聖剣がなぜそんなところにあるのか?
世界を救うべき希望が、なぜ絶望の渦中に?
そんな俺の疑問に、シェリルはさもありなんと頷く。
「疑問に思うのはもっともだね。だけど考えて見て欲しいな、勇者ミヤモト。魔王の元に聖剣があるんじゃない。聖剣があったから、魔王がそれを勇者に渡すまいと、居城を作ったんだよ」
「魔王か。……ん? 悪魔の王という話だったはずだが、魔王なのか? 何か違うのか?」
「んん~、案外細かいなぁ~、いやいやー、単なるたとえ話だよ、たとえば・な・し。悪魔の王が魔王。なーんにも不思議なところはないじゃないかあ。ははは、いやだなあ、勇者ったらあ。勇者なんだからドーンと構えててよう」
ウリウリと肘でつついてくるシェリルに嫌な顔を浮かべながら、俺はそれもそうかと納得する。
一見するとすさまじい美少女だが、こいつは紛れもなく男なのだ。
そう、男なのだ。
男……男……。
こいつはその男のシンボルを俺のシンボルに近づけて、あまつさえあんな見たこともない道具を使って……
「いや、違う! 違う! そんなことはなかった!」
そうだ、そんな事実はなかった!
なかった!
なかった!
俺が受けたのは拷問!
そう拷問だ!
体中を切り刻まれ、好き放題……違う! そう、好きに切り刻まれたのだ!
だが、俺は屈しなかった!
屈しなかったあ!
不屈の精神と英雄的行動によって、ついに恐るべきモンスターを打倒したのだ。
悪魔の申し子であった恐るべきモンスターシェリルは、俺の余りの英雄っぷりに改心を誓い、こうしてモンスターでありながらも、聖剣の元へ俺を導くと言う役目を自ら買って出たのである。
ああ、そうだ。そうだった。
「モンスターにすら背信を決意させる俺の勇者力には俺すらも驚いたくらいだ。そうだ……そうだ……」
「なにをブツブツ言っているのかにゃあ? このお姉さんに言ってみて欲しいにゃあ。なんだって相談にのるよお。悩み事でも、マッサージでも、なんでもござれ。あらゆる奉仕の術を備えているんだよ、種族的な都合でえ♡」
ひいっ。
あ、あ、あ、あ、い、いや、話を戻そう!
余計なことを話している暇はない!
俺には世界を救う大義がある!
運命が待ち構えているんだ!
余計なことを考えている暇はない!
えっと、ええっと、なんだったか。
ああ、そうだ。魔王だ。魔王か悪魔の王かなどという話だ。
はっ!
そう俺は思いっきり鼻で嗤う。
くだらない!
なんてちっぽけな話!
魔王か悪魔の王かなんて、実に些細な話だあ!
そんなことを気にするなんて、勇者である俺らしくない。
俺はでっかく、世間のスケールでは測れない男!
世界の命運をこの両肩に背負った孤独なる英雄なのだ。
それに、それにだ、さっきの話には耳を傾ける点があった!
そう、聖剣があるからこそ魔王がそれを守護っている、という話だ。
俺と言う人類を救う勇者を恐れ、こうして居城まで作り、待ち構えているというのは、実に納得のできる話だ。
論理的な話だ!
ゆえに、納得できる。
そう。
こうして。
「ふっ、とまってみえるぜえ‼」
ぐしゃあああああああ‼
「ギュアワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」
俺の振るった剣で胴体から真っ二つになったゾンビが地面に崩れ落ちた。
「はっ、雑魚が!」
俺は鼻で嗤うと、そのまだ動いているゾンビの頭に唾を吐きかけた。
「ううううぅぅぅうぅぅぅぅうぅうぅうぅぅぅぅ」
「うるせえぞ! ごみがあ‼」
恨めしそうにこちらに這いよろうとしていた上半身の頭を剣で叩き潰す。
「は、はーっはっはっはっはっは! 見たか、勇者の力を! ミヤモト・ライズ様の力をよおおおおおおおお!」
「うーん、実際すごい! いちおう上級ゾンビを無造作に一撃だもんねえ。うーん、これはひょっとしたらひょっとするよお!」
ひょっとする?
ひょっとするだと⁉
馬鹿めが!
「万が一にもありえねえよ! 俺が聖剣の元までたどりつけないなんて可能性はなあ! なぜなら、この俺、このミヤモト様こそが、世界を救う英雄なんだからなあ!」
そう叫ぶとともに、更に近づいて来たゾンビの群れに衝撃波を放つ。
「ゲヒイイイイイイイイイイイイイイ⁉」
「はははっはははははっははははっははは! 」
俺の哄笑が城内に響きわたった。
「そう……う意味じゃ……たんだけどなあ……」
ん?
シェリルが何かを呟いた気がした。
が、俺と目が合うと、シェリルはポッと頬を染めて悩まし気な視線をよこして来た。
俺は「うげっ」と言って目を背ける。
まったくしまらねえ。
が、最初はどれほどの敵が出てくることかと警戒したが、
「この程度の敵どもなら問題はねえな。ま、俺にかかりゃ、どんな敵であろうと赤子の手をひねるようなもんだがなあ!」
「さっすが勇者だね! この調子ならすぐに聖剣にたどりつけるよお! 魔王なんていちころに違いないよお!」
シェリルの正直な感想に俺は愉快に気分になる。
ああ、その通りだ。
もうすぐ聖剣は俺の元に来るだろう。
そうすれば。
そうすれば、もうすぐだ。
もうちょっとでマサツグのあの野郎をギタギタにすることが出来る!
もちろん、世界のためだ。
王を僭称し、民を苦しめるマサツグを除き、その代わり、英雄王の資格を持つこの俺が玉座に座る。
それによってはじめて世界は恐怖から解き放たれ、俺と言う勇者を頂点に、平和を享受することができるようになる。
もうすぐで、俺は伝説にすら記される真の英雄になれるのだ!
「くくく……ははは……はーはっはっはっはっはははっははははっはははっは」
世界を平和に導けるのが愉快で、俺は大きな声で笑う。
だが、
「相変わらずの馬鹿さ加減のようだな。ミヤモト君。いや、今はただの反逆者、罪人だったか」
「は?」
そんな、勇者に対して無礼極まる声が城内に響いたのである。
英雄の俺をつかまえてそんな暴言を吐ける存在など想像することすら難しい。
だから、間の抜けた声が出てしまったことも仕方ないことだろう。
だが、俺はその言葉を発した人間を見て、更に驚きの悲鳴を上げてしまったのである。
「な、なぁ⁉」
なぜなら、それはかつてのクラスメイト。
なおかつ、俺の一番の舎弟たちであったはずの、イシジマ、サカイ、ヨシハラ、そしてフカノの秀才4人組みだったからである。






