97.(勇者ミヤモト編)聖剣への誘い、冒険、頼もしき仲間たち
・2/10に第2巻が発売されます!
・それを記念して、10話分ほど、第2巻で大活躍するミヤモト君を主人公にした、異世界孤児院「ミヤモト」編をスタートします‼
・もちろん、これまでのストーリーの続きとして描いて行きますので、お楽しみに!!
・マサツグに敗れたミヤモト君の、大大大復活を見届けてください‼
97.聖剣への誘い、冒険、頼もしき仲間たち
「くくく。やはり世界は俺のもんだ。何せ聖剣がそう言うんだからなあ!」
俺は地下牢で喝采を叫ぶ。
この数日間、ずっとあの男サキュバスにとらえられ、酷い拷問を受けて来た。
だが、勇者である俺はけっしてあきらめなかった!
堪え難きを耐え、忍び難きをしのんだ。
他の奴らには出来ないであろう努力を、またここでも繰り広げたのだ。
マサツグのような運で成り上がった奴とは違う。
違いすぎる!
もはや別のカテゴリー、質が違うのだという事は誰の目から見ても明らかだ。
そう、何せ俺は聖剣から直接脳内に声を届けられ、選定者であると告げられ、自分のもとまで来て欲しいと言われたのだ。
世界を救ってほしい。他の奴では不可能だ。お前でなくてはいけない。
そうだ、
「マサツグじゃあだめだ! この世界は俺が支配する!」
支配とは言ってももちろん、俺が平和裏に統治する、って、そういう意味だ!
やましい気持ちなんてこれっぽっちもない。
王。
そう、王だ!
王としての資質が支配することを促して来るのだ!
俺が、俺であるがゆえに宿命づけられている。
優れた人間であるがゆえの義務! 責務!
ノブレスオブリージュ‼
貴人であるところの俺に求められた責務。
それこそがこの世界を統治し、人々を支配することなのだ‼
俺が世界を求めるんじゃねえ。
世界が俺を求めている。
人々が俺を掴んで離さないのだ。
「これだから勇者はつらい。英雄税とはこのことだ」
元いた世界でもそうだった。
俺はただ普通に過ごしたいだけだったのだ。
なのに、周りの不良や女どもが方っておこない。
仕方なく、歯向かって……いや、襲い掛かって来る奴らをちぎっては投げ千切っては投げた。
その勇姿を見たら、結局女どもがうるさい。
勝手に俺の周りに集まってきやがる。
そんなわけで仕方なく、俺は学園のヒーローをやっていたというわけだ。
そうした英雄的、勇者的な俺に唯一たてついたのが、ナオミマサツグっていう、まあなんていうか、孤立した、根の暗い、落伍者、負け組、ゴミ野郎、かす野郎って、馬鹿ただ独りだったってえ訳だ。
こっちに来てからたまたま手に入れた力に胡坐をかき、あげくのはてに、その力を使って人々を支配するなんていう酷い暴挙に出やがった。
まさに、神をも恐れぬ行為!
だが、しかり、それはそのまま天に唾する行為だ!
その報いは今、ここにくだろうとしている。
そう、偽勇者であるマサツグ。
王を僭称する野蛮人、暴力の化身マサツグを打倒せよと、聖剣の誘いが俺へと下ったのだ。
もう好きにはさせねえ!
世界をてめえの好きにはさせねえぞマサツグ!
「この世界は俺のもんだあああああああああああああああああああああああああ‼」
俺はたまらず絶叫する。
正義の心が言葉を口にさせずにはおられなかったのだ。
ああ、こんなにも俺の英雄の心がうずく。
選ばれた者である俺は、ただ平和に、平穏に過ごしたいという夢すら見ることは出来ない。
だが、それは責務を与えらえた宿命者である俺の業だ。
カルマ。
業。
そう運命だ。
世界の命運は俺が担っている。選ばれた者であるところの俺が、俺こそが!
僭称王マサツグを打倒し、この世界に平和をもたらさんんんんんんんんんん‼
と、その時、
「ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち」
そんな声とともに、
「聞き入ったよ聞き入った。いやあ、素晴らしい。まさに英雄が英雄的行為におよばんとするまさに見せ場だね、火事場だね。魂震わす号砲、いまここに勇者が誕生したんだという確信。ううん、世界の運命がここに収束していくのを感じるよお」
「ひ、ひいいい⁉ お、男サキュバス……」
「シェリルたんって呼んでよ、ライズ様。あなたと僕の仲じゃあないかあ♡」
ねっとりとした声と柔らかな微笑みをこちらに向ける。
ここ数日のやりとりが思い出され、腰をぬかしそうになる。
が、
(落ち着けえ‼)
俺は自分を叱咤激励する。
無論、俺は怯えているわけじゃあない。
サキュバスは低級のモンスターといえども、一度その姦計にとらわれれば死ぬまで相手を篭絡するという恐るべき上級モンスターだ。
そう、特に英雄である俺とは相性が悪い。
俺のようなイケメンともなれば、サキュバス自身もくるってしまうのだろう。
だから、ここ数日は俺が何度やめて欲しい、もう解放してください! と懇願しても離してはくれなかったのだ。
ああ、いや、違う!
違う違う違う違う!
そんな事実はなかった!
俺は既に拘束台から解放されている。
それは聖剣の託宣がくだったからだ。選ばれた者だから解放されたのだ。真の力を手に入れたのだ。
マサツグを上回り、世界を支配し、王となる器であると認められた英雄なのだ!
「だから、男サキュバスなんかに負けねえ‼」
「そんな腰を抜かしながら叫ばれてもねえ。それにね、安心してよ、ライズ様! わたしはね、えーっと、もうあなたを襲ったり……ああ、いや、貴男流に言うと、拷問ね。そうそう、拷問するつもりはコレっぽちもないんだよ!」
なんだと?
俺はあえて地面に腰を落としながら、訝し気な表情を浮かべる。
「くふふふふ、それどころか、今までの非礼をお詫びするよ。まさか、あなたが聖剣に選ばれた勇者だったなんて、わたしはにはこれっぽっちも気づかなかった。まさかまさか、封印城ガラケフの聖剣に選ばれるなんてねえ。いやあ、英雄に対して、世界を救う勇者に対して、とんでもないことをしてしまったと反省しきりなんだよお」
反省していると言うわりには、男サキュバス……シェリルはニヤニヤとした表情を浮かべた言った。
ん?
「封印城に聖剣があるのは確かだが、俺、そんなことは一言でも言って……」
「あーはっはっはっは、まったく、英雄と懇ろになれたのはぼくのサキュバス人生の仲でも最高の思い出だよ。さあ、そこで相談なんだけどね、勇者ミヤモト様」
勇者!
その響きに俺は興奮する。
ついに俺がそう呼ばれる日が来たのだ。
もちろん、そうなることは分かっていた。
俺がこの世界に召喚されたときから、ああ、俺は勇者になるのだと。
その宿命を感じずにはいられなかったのだから。
だが、それはマサツグによって阻まれた。
奴こそ魔王に違いないと確信したのもその時だ。
案の定、奴はワルムズ王国をのっとり、世界を支配しようとしている。
その世界の危機に呼応するかたちで、聖剣が俺に呼びかけた。
疑いようのない、実に英雄じみた筋書きだ。
俺が世界を救わずして、誰が救えるというのか?
「ああ、勇者ミヤモト。君こそが勇者。君こそが英雄さあ。モンスターであり、人の敵でもあるこの僕でさえ、あなたの威光の前ではひれ伏す所存さ。だから、どうか私に水先案内人を務めさせて欲しい。栄誉ある役目を与えて欲しいんだ」
「水先案内人だと?」
どこへの?
などと言うつもりはない。
運命と言う言葉があるのならば、こいつと出会ったことにも意味がある。
かつての敵。しかし、
「そう、かつての敵だった僕だけど、英雄に接することで調伏され、改心したってわけさ。そして、勇者ミヤモトを案内したい。政権の寝所であるところの封印城ガラケフまでね! もちろん、今までやってきた悪行が許されるわけじゃないけど、勇者を導けるという大役を果たすことによって、少しでもその罪を贖いたい、とまあ、そんな感じなわけさ。うーん、そうそう、そんな感じ、そんな感じ‼」
「なるほど、納得できる話だ」
「あ、オッケイなんだねえ」
俺は深く頷く。英雄の俺と会えば、どんな奴だって改心し、俺に手を貸そうとするだろうからなあ。
カリスマがそうさせるんだろう。
人の心をもてあそぶはずのサキュバスすらも、こうして手玉にとっちまう。
それこそが俺が勇者であり英雄であり、人知を超えたカリスマを放っているという動かぬ証拠といって間違いねえ!
「俺は勇者! 勇者ミヤモト様だ! これからは俺のことを尊敬し、たたえろ! そうすりゃあ、まあ今までのことを水に流してやることも考えてやる‼」
「さっすが勇者様! うんうん、もちろん、誠心誠意つとめさせてもらうよお」
俺は寛大な心で相手を許してやった。
何よりも俺には封印城の場所が分からねえ。
だから、復讐はあとでたっぷりすればいい。
今は許してやったと思わせて、まんまと城まで案内させればいいんだ!
天才。天才だな!
まさに勇者たるべき知啓を備えた、英雄的大勇者ミヤモト様様ってえわけだあ!
俺がそんなことを考えながら笑っていると、
「はぁ……。さ、さ、さ、ミヤモト様。勇者ミヤモト様。準備が出来ましたよ。こんな地下牢はすぐに抜け出て、封印城ガラケフへ向かいましょう。なあにすぐすぐ。歩いて半日の距離です。今から出ればお昼過ぎにはつきますよ」
「なんだ、すぐ近くなんだな」
もっと遠いかと思っていたが。
「えっ。あー、なんでしょうか。たまたまですよ。ええ、たまたま」
何だと?
「そんなわけがあるかあ‼」
「ひえ⁉ ま、まさかバレ」
なぜか非常に驚いているシェリルに向かって俺はビシリと指摘してやる。
「んなもん、運命に決まっているだろうがあ! 俺と言う勇者がすぐに聖剣を手に入れられるために、宿命的に近くにガラケフ城があったって寸法だ」
さすが俺だけある!
するとサキュバスも俺の言葉に納得したようだ。
「ああー、そっちですねえ。なるほどねえ、なっとくですね! そいつはすげえや‼ ようし、じゃあ参りましょう! ミヤモト様! 運命的に行進と行きましょう!」
シェリルは俺の言葉に元気づけられたのか、先に立って歩いて行こうとする。
「待て待て、勇者の俺を置いて行ってどうする!」
「おっと、こいつはすみません。えー、そう、勇者が聖剣を手にする瞬間が待ち遠しくてえ」
「なるほどな!」
それは一本取られたな。
「はやる気持ちは分かるが忘れるなよ! 俺がいなけりゃ、聖剣が待っているのは俺なんだからなあ‼」
わーはっはっはっは!
そんな勇者の哄笑があたりに景気よくこだましたのであった。
好評をいただいたおかげで、第2巻に続き、第3巻の発売も決定しました!
皆様のおかげです、ありがとうございます!
Web版、書籍版で大きくストーリーが異なりますので、どちらも楽しんで下さいね‼






